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明るい病室

 その病院は、変に明るかった。極力死の気配を感じさせない様に配慮されてるだろうが、一種の諦め的な穏やかな空気があった。病人達は皆やせていたり、意識が無かったり、管に繋がれていたりした。いわゆる、緩和ケアを目的とした療養施設だろうか?

 風花の旦那、菅野秋は普通に寝ていた。全身傷だらけではあったけど、傷は塞がり、顔色は良いのだが、多少の筋肉は落ちたのだろうが、元ががたいが良かったのか、拓には普通に見える。 

「なんか、1人だけイキイキしてるな。」

「・・・。」

「あ、悪い。」

「意識が戻らないだけでね。体は完治してるんだ。でもいつまで経っても起きないの。」

 風花は悲しそうに言った。

 菅野秋は、37歳。建築作業員として、事故当時も市営体育館の建設をしていた。が、クレーンの貨物落下の為、その鉄骨の下敷きになって、手足の骨折、頭を強く打ったことで、今も意識が戻らない。

 秋の手を握り、

「秋ちゃん、今日も来たよ。私の幼馴染みを紹介しようと思って、多賀拓君連れて来たよ。」

と、言った。俺は、風花に

「あのさ、ちょっと部外者の俺が触れてもいいかな?

何か、分かるかも知れない。」

 ハッとして風花は、だまって頷いた。


ーーーなんか、男同士だから手とかにぎっちゃったら気持ち悪いかな。じゃあ、肩辺りで失礼して・・・と、その瞬間、秋の全身から、悪意の塊が一気に流れ込んで来た。

『...お前は風花の何だ!馴れ馴れしくするな!』

・・・!

びっくりして、慌てて手を離す。

秋を見るが、ただ寝てるだけだ。

あーびっくりした。何だ、やきもちか?

・・・て、意識ある?!あ〜こいつ、意識はあるのに外に反応が返せないのか。

一度触れたので、秋の状況が分かってしまう。

 何か、激しく勘違いしてるみたいだけど、どうしようか・・・。

「あ、あのさ、ちょっと男同士話すから、風花ちょっと席外しといてもらっていいかな?」

「・・・話す?」

「えーと、ちょっと集中したいんだ。」

「あの拓くん、家族でもない部外者だから、2人きりにはあまり出来ないんだけど・・・。まあ、ちょっとなら、トイレとか口実付けていけるかな?」

そう言って10分程席を外してもらった。

 なんか、恥ずかしいんだよな。意識無い様に見える人に話し掛けるのは。俺は周りの患者さんにチラリと気にしつつ、話し掛けた。


「あのさ、俺、貴方の声聞こえるみたいだから何か、訴えたい事あったら、俺に伝えてほしいのだけど。あ、風花とは、ほんと、ただの幼馴染みで、やましい事一切無いから安心してよ。力になりたいだけだ。久しぶりに会った風花が、今苦しい状況だから、力を貸したいと思ったんだけど、どうする?やっぱ、俺を拒絶するか?」

・・・どうかな。

 しばらくして、俺はまた秋の肩に触れた。


『風花が苦しいって、何があった?』

あ、聞こえた。こっちからも、念話みたいに送れるかな。

秋の手を握ってみる。ゴツゴツしててたくましく。う〜ん、ちょっと気持ち悪い。

『俺の声聞こえるか?』

『ああ、聞こえる。お前凄いな。何でこんなコト出来るんだ?超能力者か?』

『どうやら、そんな感じだな。

とりあえず、今は余り時間が無いから、先ずは黙って聞いてくれ。』

『・・・ああ。分かった。』

『掻い摘んで言うと、貴方のこの事故は、仕組まれたものだったみたいだ。貴方の息子さんが狙われていて、風花の父親の今の家族、入間家は息子さんを養子に欲しいらしく、家計を一手に握る貴方が邪魔だった。だから、事故に見せかけて貴方はこの通り未だに意識が戻らない。

 結果、まんまと菅野家を破産に追い込もうとしている様だ。

 貴方は案の定、意識戻らない状態だし、医療機関にかかるのに、もう限界に近いと思う。

風花は教習所通いながら求職中だ。俺とは、教習所で四年振りに会った。んで、俺のこんな能力のせいで、風花の・・・菅野家の事情を知った訳だ。ここまではオッケーか?』

『・・・ああ。』

『んで、その風花の父、入間新次郎を探ってみた。すると、その父親は白だったが、その妻とその娘が仕組んで貴方をこんな目に遭わせたんだ。とにかくこの2人を止めないといけない。それと、ぶっちゃけ、菅野家の生活費がやばい。風花は働くつもりらしいけど、貴方の医療費と世話、息子さんと母親との生活、それに仕事となると、・・・これって、結構キツイよな。』

『・・・。なあ、お前から見て今の俺の身体はどうなってる?手や足はちゃんとあるのか?』

『・・・ああ、あるぞ?ちゃんと。むしろ健康体に見える。ただ寝てるみたいだ。』

...なんか、秋から凄く怒りを感じる。まあ、無理もないか。自分でも歯痒くてならないんだな。

『・・・風花に伝えて欲しいことがある。いいか?』

『分かった。いいぜ。』


 そうして互いの手を握って心の中で話していた所に風花が戻って来た。俺たちを見てなんか真っ赤な顔してる。

「・・・拓くん。なんかやけるんだけど・・・秋ちゃん見つめちゃってさ。」

・・・げっ!!見られてた!あわわわわ。

「いやいや、誤解だって。ちょっと深く探るのに手間取ってただけだから!」

そう言って、俺はバタバタと慌てて手を離し、風花の手を秋の手に握らせようとした。

 秋の手を俺が左手で繋ぎ、俺の右手が風花の手を取っている。一瞬そんな状況に、なった。

 と、繋がる意識が2つになった。急に流れ込んで来た情報にこめかみがぎゅっと圧迫感を感じて2人の手を放り出す。

 あーびっくりした。やっぱり2人分だとちょっとキツイんだなぁ〜。

 俺はややげっそりしながら、風花を見た。


 風花は泣いていた。え?何で?

「ふ、風花・・・どうした?」

 風花はポロポロと涙を流しながら言った。

「・・・秋ちゃんの声、聞こえた。」

えっ?何だって?

 風花は、慌てて秋の手を握る。

「・・・あれ?聞こえない。さっきは確かに風花って聞こえたのに、何で?」

 ハッとして、風花は片方の手を俺の手を取り、もう一つの手で秋の手を掴んだ。秋の手2本を風花と俺で握ってる。そのままじっと様子を見ている。何してるんだ?

「・・・。」

「・・・。」

「・・・あれっ?」

「あのさ、これって何してるんだ?」

思わず聞いちゃった。

「・・・あ、あれ?待って。ちょっと実験。えっとじゃあこれはどうかな?」

今度は更に風花が空いた手を俺に繋げる、丁度3人して、三角形のサークルを組んだ状態だ。

『なあ、おい。風花の声したけど、今ここに居るのか?』

秋が、言った。

「あっ聞こえた!秋ちゃん!!」

『あー俺の声聞こえるのか?風花?』

「聞こえる!聞こえるよ。秋ちゃん!秋ちゃん!!」

『ああ。俺はずっと聞こえてたぞ。毎日来てくれてたろう?』

「そりゃそうだよ。良かった。意識あったんだね。私、秋ちゃんと話せる様になるか、すっごい不安だったんだよ。身体治ったのに全然意識取り戻さないから・・・。」

『俺だって風花の声は聞こえてるのに身体が動かなくて歯痒くてならなかったぜ。あーこの幼馴染みの・・・拓だっけ?コイツのお陰か?』

 風花は俺を振り返る。

 どうやら、俺を挟んで接触すると互いに意思疎通できるらしい。って、

ーーーーき、きついんだよー。二人分はーーーーー!

ーーーーが、俺はベットの上に歯を食いしばりながら、頭を突っ伏していた。

 それから、慌てて手を一度離してくれたが、どうしても、伝えたい事があるというので、頑張って意識を繋いだ。俺、がんばった。


『風花。いいか、いつまでこの会話がもつか分からないから、要点だけ言うけど、家にある俺の仕事道具のツールボックスの一番上の引き出しの裏側を見ろ。』

「え?なに?何で?」

『いいから!根本の解決にはならないが、少しは時間稼げるはずだ。いいな。俺がこんなんで頼りにならないが、俺は意識だけはしっかりしてるから、こいつ…拓さえ良ければ、また話せる。』

「秋ちゃん…。淋しいよ。もう少し話したい。」

ーーーき、きついってー ーーーーーーーー

『またいつでも会える。風花、頼む。晃をを守ってくれ。』

「秋ちゃん?」

『...。』

ーーー......だ、だめだぁ、限界。ーーーーーーーー

 俺は気絶した。


 後で、俺が目を覚ました時、風花は秋の手をさすりながら笑っていたそうだ。

診察に来た医者が俺を介抱してくれた後で教えてくれた。いや、まあ良いんだけどさ、気絶した俺は放置かよ。

まあ、よっぽど嬉しかったんだろうな。

 とりあえず、秋の言っていた場所を確かめるということで、その日は解散となった。





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