告白
拓が悶々として考え込んでいる間に、入間新次郎は、朝早くにチェックアウトしてしまったらしい。
気づいた時にはその母親と娘だけが残っていた。なんとか問題の解決の糸口を探ろうと、その後、2人を尾けてみたのだが、電車に乗る所で断念した。2人は、銀座で買い物に行くらしいのだが、人混みが拓の前にあったからだ。
拓は、人と肩が触れ合うだけで、その人の情報が分かってしまう。その時3.4人位密集して触れていたら、いっぺんに読み取ってしまうのだ。案の定、そんな感じで触れてしまい、昨日の様に頭が痛くなり、ぶっ倒れたのだ。
ーーーみたくもないのに見てしまうのは困り物だな。人ごみは俺の弱点だな。ーーー
入間一家の家の住所も分かったし、今日は撤収しよう。
何とか人に触れない様に朝夕のラッシュ時を避けて家迄たどり着いた。もうげっそりだ。
次の日の昼、まだ母は仕事だ。教習所に今から行こうかとも思ったが、まだ寝不足だったのと、考え過ぎでモヤモヤしてたので今日は辞めだ。明日に行く事にする。近くのスーパーのたこ焼き屋で昼飯だ。
ここは、この前風花とたこ焼きを食べながら話した場所だ。教習所の裏にある。
「あれ〜?拓くんじゃん。何教習所にも行かずにこんな所にいるの?」
案の定風花に会った。
「おう。風花は午前中教習所だったんか。お疲れさん。」
俺は昨日今日の事あった事はとりあえず伏せたまま、普通に答える。
風花は、向かいの席に座る。
「ねぇ、変な事聞いていい?昨日の朝私の事とか考えたりしてた?」
ーーーードキッと、した。なんでわかった?・・・てか、ずっと考えてたんだけどな。
「な、なんで。」
「なんか、昨日の早朝に拓くんに呼ばれた気がしたんだよね。テレパシーってやつ?」
風花はじーっと俺の顔を見る。真面目な顔してガン見してる。
テレパシー?なんて使った覚え無いんだけど。またあれか、
俺の力の一つなのか?そういえば、あの時あの白髪抜けてたよな?それか。それなのか・・・。
「そりゃあ、お前が大変な時だから俺だって心配してんだよ。お前が大学辞めて突然結婚した時だって何にも相談とか無かったし、今だってちっとも頼ってくれないじゃないか!
俺ってそんなに頼り無いんか?
大体、旦那ってどんな人なんだ?いつ出会って結婚ってなったのさ。俺、全く聞いてなかっただけど!」
俺だって言いたい事はいっぱいある。こいつの突飛な行動は幼い頃からだから知ってるけどな!
「えーだって、秋ちゃんとは突然な出会いだったから・・・。いきなり結婚って、やっぱ照れるじゃん。」
「・・・!」
「・・・(⌒-⌒; )」
ーーーあ〜コイツ、説明、めんどくさくなったな。
「でも、確かにピピっと拓くんの声聞こえたんだよ。なんか気持ちモヤモヤしてるなぁ〜って、感じだったけど?」
「・・・あのさ。信じられないかもしれないけど、俺、最近変な能力が備わっちゃったらみたいでさ。多分そのせいで朝お前に声が行ったみたいだな。これ見てくれよ。」
そう言って俺は、後頭部の色の変わってしまった部分を風花に見せた。
話せば長くなると前置きしつつ、俺の力と、風花の置かれた状況、今子供の晃が狙われていることが分かった事、それでどうにかしてやりたいと考えている事を話す。
それで、朝頭を掻きむしってたら、白髪が飛んで行ったので、あれっ?て思ってたんだよな。どうやら俺の白髪は人にメッセージを飛ばせるみたいだ。
風花は、ポカンと口を半開きにして聞いていた。
やばい。フリーズしてるわ。
テレパシーとかって・・・引かれたかな?それとも子供を狙って起こした陰謀にショックを受けたかな。もうちょっと小出しにして話すべきだったか・・・。
だが、しばらく見てると、次第に目をキラキラして来た。
「すごい。いいなそれ。ちょっとやってみてよ。一本ちょうだい!」
いきなり風花が俺の髪を掴んで来た。なんだよ、こんな話すんなり信じるんかよ!ぎゃーやめろ〜。
「何だよ。お前子供狙われてるってのに、平気なんか?
旦那今大変なんだろ〜!」
と、言いつつにげる。
「だってしょうがないじゃない。今はそれが気になってしょうがなかったからだよ。」
風花は俺の白髪を一本抜くと、気がすんだのか、ため息一つしてストンと椅子に腰をおろした。
「はぁ〜。でもやっぱ、そうなんだ。政治家の娘やってるから、陰謀のひとつでもあるのかな、なんて思ってたけどねぇ〜。秋ちゃんは、やっぱり私に巻き込まれたんだ・・・。
秋ちゃん・・・ごめん。」
そう言って無表情の目からポロポロと涙が溢れた。手に持った毛はスルッと飛んで消えて行った。多分、旦那の元へ行ったんだな・・・。
そうか、自分じゃなくても俺の白髪さえあれば使えるんだなぁ〜と、風花の背中をさすりながらそう思った。
それから2人で色々話した。
「そっか〜。拓くんは人のプライベートな事とか全部見えちゃうんだね・・・んで、私の事も判っちゃったと。」
「悪かったよ。見るつもりなかったんだけどな。どうにも触れちゃうと、人の本質がみえちゃうんだよ。」
「それはいいって。拓くんは探ろうとは思わなかったのは判ったし、かえって説明せずにすんだしね。んで、私を助けようとしてくれてるって事?」
「うん。」
「でも、それ要らないから。」
「?!何で!」
「だって、私今不幸じゃないよ。可哀想な人じゃなくて、幸せな人なんだよ。旦那はあんな状態だけど、私の側に居てくれる。私、頑張るし、晃だって手放さないし。あーでも、私が殺されるのは流石にやだなぁ〜。う〜ん。」
「お前の父親・・・あの政治家の妻と娘の企みはストップさせないといけないだろう?多分お前が子供を手放さない限り狙ってくるぞ?」
「分かった。どんな手を使ってくるかわからないけど。拓君本当に、助けてくれるの?」
「おう、任せろ。どんな手を使ってこようが俺が守ってやる。」
「ありがとう。でも何で?拓くんには全く益が無いのに・・・。」
「まあ、俺もお前の事気になってたからな。・・・いや、変な意味じゃないぞ。昔悩んでたのに助けられなかったからな。今からでも力になるよ。まあ、無職だけどな。」
「ああ、無職はお互い様でしょ?」
俺らはくすっと笑った。
「あのさ、風花。旦那さんに会わせてくれる?うまく行くか分からないけど、試してみたい事あるんだ。」
「・・・いいけど?午後から丁度行く所だったから。」
風花はすんなりと了承した。
こうして、風花の旦那、水野秋の入院する病院へ向かったのだった。