間話 タワー君と、ドーム君。
「あー。河口さんお帰りなさい。」
「おう、2人ともご苦労さん。」
多賀君と別れた河口さんは、いつもの飲み屋にやって来た。あの時打ち上げをした居酒屋だ。
その時関わったタワーと、ドームが先に飲んでいた。
「どうでした?多賀君。検査したんでしょう?」
「あ〜どうもこうもないわ。本人、まだピンと来てないみたいでな。その時何を願っていたかって聞いたらよ、首傾げてたわ。」
「あらまあ。」
そう言って、タワーはくいっと焼酎をのむ。
「まあ、そう言う自覚なしってのもありだろうね。私の時は、希望が明確だったからそりゃあ、わかりやすかったけど。」
「それを言ったら、ワイの方や。」
と、ドームは言う。
「ドームで投げられるような投手になりたいってな。単純やろ?けどおまえは、ちと違うやろ。タワーにロッククライミングしたいからって、警察捕まんない様に、姿を消したいなんてよ。クライミングするのは、本来の自分の能力だってんだから、捻くれてるっていうかなんていうか。」
「そんな事ない。クライミングは自分の力でやるのが面白いと思ってたからだよ。お前は、あの時腕折ってたんだし、強く投げたいと願ったんだろ?その時たまたま思ってた事なんだからさ。」
河口さんが、ため息ついて、
「まあ、あいつはそれなりに強いわ。伊達に3年間非情な上司に付いていただけはある。必死に上司の心を読もうとと考え続けていたのだからの。だから、人の顔色を伺う癖がついているし、それで裏切られのだから、人間不信にはなっとるが、中々諦めは悪いと思うぞ。」
「河口さん、すっごく調べてんすね。」
「まあ、その社長、知ってる奴だからな。過去3年の間に営業が、8人も辞めておるよ。小さな会社で営業は、その社長の他は1人しかいないのにな。」
「中々っすね。」
「そうだな。」
「で、どうします?多賀君困ってるんでしょ?手助けしますか?」
河口さんは、しばらく考えてから、言った。
「自分の能力がわからないんでは、今回は放っておくしか無いかもな。困難に必死で立ち向かわなければ、力の開花は、無いだろし。ギリギリまで手出し無用だな。」
そう言って、その話題はお終いになったのだった。