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見えないものが見えちゃう話

会社を退職した。

さあ、これから俺は自由だ!

勝手気ままに生きてやる。

...と、思ったのに。何で見たくもないのに周りの人のスキルがみえるんだ?





あーもう言ってやった。

やる事はとことんやったし、悔いはないかな。

ある日、3年以上勤めていたデザイン会社の社長に、朝通勤してから即、辞表を出しそのまま会社を出て来た。

まだ朝の通勤ラッシュが続く中、また自宅まで電車に乗って帰る気にならないので、日暮里駅前の会社から、上野方面に向かってトボトボと、勘を頼りに歩く。


坂上 拓 25歳。小さなデザイン会社の、営業兼デザイナー兼、事務とを兼任する、3〜4人程の社員の1人だった。

社長の意に沿わない行いをする社員は、即首に追い込まれる様に仕向けられる過酷な環境だったのだが、我ながらよく3年も耐えたものだと思う。

「どうしようかなぁ〜これから。すっかり対人恐怖症になっちゃって。まともに人と話せる自信ないなぁ〜。」

街行く人々は皆忙しそうにしてるので、誰も拓の方に目を向けないので、気が楽だ。

せっかく自由の身になったのだから、、今日位は気の向くままに歩いてみようかと思った。

線路沿いに歩いて行くとお寺やお墓があり、やがて公園の様な大きな広場があった。

「あ、ここ上野公園だ。」

確か学生の頃、美術展の搬入の時に来たな。

ここから右に曲がると美術館や博物館、動物園などがあり、週末にもなると人が沢山いるのだが、朝早いからか平日だからか、人が疎らだった。

木々の間にはブルーシートで出来た路上生活している人の家?がパラパラとあり、住民達が顔を洗ったりしているのが見える。

拓はちょっと観光気分になってきた。鳩と戯れたり、普段は仕事していて、あまり目にとめてなかった、銅像やパブリックアートなどを見て廻った。

そして、懐かしさについ東京都美術館の前に居た。さすがに、美術館は開いてなかったが、目の前には、大きなパブリックアートがあった。

「昔これ見て、未来から来た人が、ここに残して行った遺物って、想像してたんだよなぁ〜。あー懐かしい。」

そう言って、以前来た時の様にその身長より大きな球体の中間に空いている穴に何気なく手を突っ込んだ。

すると、狭くも無い穴の中に吸われる様に、手が抜けなくなった。

拓は、なんだ?と、ちょっと慌てて反対の手を入り口に当て、引き抜こうとしたが、びくともしない。

助けを呼ぼうとして、辺りを見回すが、近くには誰もいないようだ。吸い込まれた右手は、痺れてきて鬱血している様だ。顔もめり込んでくる。

頭もクラクラしてきて、息が苦しくなって来た。ダメ元で拓は、助けてと、大声で叫んだ。...が、そこで力尽き、気を失ってしまった。

ーーーブラックアウトーーー


それからどれだけの時間が経ったのかわからないが、拓は固め?の布団の上に寝かされていた。額には、濡れたタオルを当てられていて、淹れたてのコーヒーの香りがする。

なんだかわからずに、起き上がると、そこは公園の一角、ブルーシートで出来た家?の横、ダンボールベッドの上だった。

「おう、起きたか。なんか!痛いとこないか?」

家主と思われるおじさんが、話しかけて来た。

...俺、どうしたんだっけ?たしか、腕抜けなくて、苦しくて、倒れた?

「おめー、地べたで、倒れてたで。なんか声がすっから、行ってみたら、まん丸オブジェはなくなってるわ、おめーは起きないわで、しょうがないから、俺ん家に連れて来たんだよ。おっ、コーヒー入ったぞ、飲むか?」

「あっ、ありがとうございます。なんか分かんないけど、助けて、くれたんですよね。...オブジェ無くなったって?」

「ああ、ほれ。」

おじさんはそう言って、斜め後ろを指差した。

40m先のそこは、さっきまで居た美術館前で、あのパブリックアートがあった所には、館の関係者達と思われる人が、5人位と、交番の人たちが、腕を組んだり、首を傾げたりしている。

なんだろう。あんな重い物、盗める訳ないけだろうけど、俺さっきまで、あそこにいし、なんかやだな。疑われそうだ。

ここは、さっさと離れた方が良さそうだよな。

拓は何がなく、首の後ろを掻いた。

「おめー、その痣痛そうだなぁ。大丈夫か?」

「へっ?」

拓は、首と腕に違和感があって、無意識のうちに手が出てたらしい。見ると大きな丸い形の痣が、首から腕にかけて、鬱血している。

「げっ、なんだこりゃ!」

...あー、やっぱりさっきの夢じゃなかった?

やばい。

なんだかわからんけど、

「あ、ああ大丈夫です。ひ、貧血だかで倒れちゃったみたいです。こ、コーヒーご馳走さまでした。そ、それじゃあ、俺はこれで。あ、ありがとうございました。」

拓は、逃げ出した。

それから、公園の西郷像の脇を通り、御徒町方面へ向かう。日が高くなってきたからか、人混みは、けっこう出てきた。

人の波に逆らう様にズンズン進む。

落ち着け〜〜俺。え〜と、とりあえず、ちょっと。

大きなデパートの三階のトイレに駆け込んで、鏡を見た。

肩、首、腕にかけての丸い痣の他には、別に異常は無いかな。くるりと一回転。

次に、自分の顔をじっと睨む。

「あっ、ピアス?こんなんした覚えないけど

?」

右耳の耳たぶには、銀色の5mmほどのピアス。良く見ると、あのパブリックアートの形とそっくりな形の物が付いていた。

拓は、怖くなり、頭を抱えた。

…あ、たんこぶも出来てるよ。気絶して、地面に激突したんか…。

拓は、家に直行、即寝た。


…忘れよう。とりあえず、無かった事にしたかった。



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