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第2話 転職したのに ~なんで、さらなる破滅エンドが待ち受けているんだ~

 不幸中の幸いにして、仲間が一斉(いっせい)に逃げ出したどさくさに紛れて、俺は九死に一生を得ることができた。

 だが、もう職場にも家にも戻れねぇ。

 この先、どうやって生きてきゃいいんだ。

 俺は一縷(いちる)の望みに賭けて、皇太子との摩擦を噂される貴族の邸宅を訪ねてみた。

 俺の身の上に起きたことを、洗いざらいぶちまけて、どうか、助けてくれと土下座してみた。


 助けてくれた。

 やべぇ、助けてくれたぞ! アスタール様、ありがとう!


 だが、俺の災難はひとつで終わらなかったんだ。

 猫屋敷とも呼ばれるアスタール様のお屋敷で、猫どもの世話係をやらせてもらっていた俺だが。


 アスタール様はマジで皇太子と仲が悪かったらしくて、ある日、帝国兵が屋敷を取り囲んだんだ。

 また皇太子か!

 もう、俺を放っておいてくれよ!

 猫どものクソとマーキングの始末をしてひっそり暮らしてるだけの俺に、皇太子はいったい何の恨みがあるんだ。俺の人生を破滅エンドにしようとするのをやめてくれよ!


 天 使 降 臨 。


 俺は目を疑った。


 あれは! あの子は!


 いったいどういうことなのか、マイエンジェルがアスタール様の潔白を訴えて、証人とか真犯人とかが引き出されてきて、何やら、いろいろとごちゃごちゃやってた後、帝国兵が引き上げたんだ!


 嗚呼(ああ)、女神様!!


 俺はついうっかり、自分の立場も忘れて女神様に駆け寄ってしまった。

 ありがとうと言いたかっただけなんだ。

 だが、俺はハっとした。

 やべぇ、俺、女神様とそのお供達を皆殺しにしようとした刺客の一味じゃん!

 しまった、女神様が俺を覚えてたら縛り首か!?


「あの、なにか?」


 お供の少年が俺を少し警戒して、女神様を庇うように割って入った。

 やべぇ、やべぇ!

 モブの顔なんて覚えてないよな!? どうか、はじめましてと言ってくれ!


「我が主アスタール様をお救い下さり、ありがとうございました。つまらないものですが、これを」


 俺は、懐に手を入れて、とっておきの極上キャットフードを取り出した。

 俺がやるものじゃないんだ。

 エサをやるのはアスタール様の奥様とお嬢様で、俺はトイレ係。


「猫はお好きでしょうか? 中庭でこれを出せば、たちまちたくさん寄ってくるのですが」


 ぱぁっと、女神様の顔が輝いた。

 うお、まばゆい!

 可愛すぎるだろ、その笑顔!

 うおおお、耐えろ俺!

 ここで、女神様の愛らしすぎる笑顔にノックアウトされて昏倒(こんとう)したらもったいない!


「わぁ、ありがとう。子猫もいますか?」


 ああ、なんて甘くて綺麗な声なんだ。

 鈴をふるような声ってこれか。


「子猫なら、三時になれば出てきますよ」

「本当!? わぁ、わぁ、私、猫大好き!」


 喜ぶ女神様にうなずいて、俺はダッシュでペットショップに走った。



  **――*――**



「あぁ、サイファ様、いいなぁ、いいなぁ」


 猫どもがどういうわけだか、お供の黒衣の少年の方になついて、肩に登ったりするのをしきりにうらやましがる女神様。

 くそう、猫になりてぇ!

 俺が猫なら、俺が猫なら……!!


「あっ」


 ちょ、待てそこのクソガキ!!

 子猫がなついてくれなくて涙目の女神様に、お供の少年がキ、キ、キスしやがった!!


「はい」


 白い頬を桜色に染めた女神様に、お供のクソガキが子猫を渡しやがった。


「デゼル、緊張がまだ残ってたから。きっと、今度は大丈夫だよ」

「わぁ」


 子猫を肩に乗せてもらった女神様が、世にも愛らしく、きゃっと笑った。


 ――くくぅッ! イイッ!!


 嗚呼、俺もう死んでもいいような気がしてきた。

 一度ならず二度までも、俺は女神様に命を救われた。

 女神様のためなら、俺もう死んでもいいような気がしてきた。


 何だこれ。

 俺、選ばれしモブ?

 女神様に選ばれしモブ?

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