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第三章

 家を出て、ノートパソコンで編集していると、上大岡駅が見えてくる。

「その、伊集院(いしゅういん)児童養護施設(じどうようごしせつ)ってのはどこにあるんだ?」

「ここだって。」

 信号待ちの間にスマホを見せる。

「あ~おけおけ。」

 少しスマホの地図を見た後、スマホを返してくる。

 それから10分ほど路地裏などを走って、ようやく到着する。

 後ろの座席を見ると、子供たちはまだみんな寝ている。

「寝てるね。」

「じゃぁ先に施設の人達に手伝ってもらおう。あとで何か言われても困るし。」

「そうだね。」

 施設の前に車を止め、2人とも車を降りると、施設の玄関に立ち、インターホンを押す。

『はい。どちら様ですか?』

「あ、すみません高橋賢治(たかはしけんじ)と申します。子供たちが寝てしまったので、車でお送りしてきたのですが、子供たちを運ぶのを手伝ってくださいませんか?」

『ああ!高橋さんね!ちょっと待ってくださいね!』

 インターホンには女性が出たが、通話を切ってから家の中からドタドタと聞こえてくる。

 しばらく経つと、玄関が開けられ、初老の夫婦が出てくる。

 少し顔が怖い初老の男性は、俺とコウの顔を見比べて、疑問を飛ばす。

「ええっと、どっちが高橋君かな?」

 そこで、コウと2人で来ていることを思い出す。

「あぁ、自分です。こっちは友人で、今日運転手を務めてくれたコウです。」

「そうか。(すず)がいつも君の演奏を聴いているから、名前は知っているのだが、顔を知らなくてな。」

「そういうことでしたか。あ、子供たちを運ぶのを手伝ってくれませんか?」

「あぁ。そうだったな。いいだろう。」

 そういいながら、初老の男性と一緒にハイエースに向かい、スライドドアを開ける。

 俺と初老の男性で子供たちを運び、コウには楽器を運んでもらう。

 コウは、俺と(あかね)の楽器の運搬なんかを頼むことが多く、コウ本人もカーゴ便から小型トラック便のバイトをしている関係で、搬入や積み込みがに慣れているため、とても助かる。

 子供たちを、それぞれの部屋に運んでベットに寝かせ、全員を運び終わると、初老の男性に応接室に案内される。

 応接室に入ると、先に楽器を運び終わっていたコウがソファに座ってお茶を飲んでいる。

「お、賢治~。おわった?」

「終わったよ。」

 促されるままコウの隣に座ると、女性がお茶を持ってきてくれる。

「あ、ありがとうございます。」

 出されたお茶をすすっていると、初老の男性が話し出す。

「今日はありがとうね。自己紹介がまだだったかな。伊集院康太(いしゅういんこうた)だ。名刺は持ってないんだ。」

「大丈夫ですよ。自分も名刺は持ってないんで。」

「そうか。君は高校生だったね。」

 康太さんは、少し笑いながらお茶をすする。

「今日はうちの子供たちがずいぶんとお世話になったみたいだね。」

「いえいえ。自分も楽しかったですし、久しぶりにサックスのアンサンブルをやれましたし。」

「それは良かった。電話でも言ったが、我々では、楽器を用意してやるくらいしかできることがない。それに、この施設は経営状況が良くない。その事を子供たちも分かっているのだろう。だから、我々には楽器の不調やほしい楽譜などを言ってくれない。最低限の消耗品しか我々にはほしいと言ってこないんだ。音楽の事は何もわからない我々では、どの楽譜を買ってやればいいかもわからない。」

 康太さんの話し方は、とても申し訳ないような話し方だ。それを見て、後ろに立っている奥さんも、その姿を見て暗い顔になる。

「何より、今後の彼女たちのことが心配なんだ。実はな、私は病気を患っていてね。今までは貯金でどうにかできていたのだが、さすがにそろそろ厳しくなってきてしまった。他の施設に移そうにも、どこの施設もいっぱいいっぱいなのだそうで、10人の子供たちをまとまって受け入れてくれる施設はなく、どこも1人か2人くらいしか受け入れられないそうでな。」

「10人もいるのか…。」

 隣でボソッとコウがつぶやく。

 そんな事情があったのか…。

 いくら日中とはいえ、みなとみらいは場所によってはかなり治安が悪く、大人でも行きたくないという場所が多い。警察も巡回などを行っているが、安心して子供たちが遊べるほど治安のいい場所は、ごく限られた狭い地域だけだ。そんな所で楽器を演奏しているのだから、何か事情があるのは察せたはずだった。

「いろいろと計算した結果、おそらくあと半年が限界だとおもう。だからせめて、それまでだけでも、彼女たちの相手をしてほしい。どうだろう?」

「……。」

 俺は、頭の中でどうにかこの状況を一変させることを考える。

 どこか全員で入れるような施設を探すか?

 いや駄目だ。そんな施設があったとしても、そこで楽器ができるとは限らない。

 児童相談所に相談するか?

 いやそれも駄目だ。全員が一緒に入れる施設がない以上、相談しても困らせるだけだ。

 じゃぁこの施設に寄付して少しでも経営難を緩和させるか?

 駄目だ。それは根本的な解決になってないし、何よりその案では康太さんの病気のことを考慮していない。

 何か、いい案はないのか。

 その時、とんでもない妙案を思いつく。

「……。」

 だけど、それには時間がかかりすぎる。

「賢治、なんか思いついたんだろ。」

 付き合いがながいだけあって、コウは的確に当ててくる。

「何か、あるのかい?」

「…妙案が、ないことはないです。ですが、それをするには不安要素が多すぎる。」

「その案は、なんだ?」

 康太さんが、とても興味深々に聞いてくる。

「……自分が養護施設を個人経営で起業するという案です。ですが、この案は、自分の収入だけで足りるのか、もし足りないなら、補助金や、児童相談所に相談するなどの事が必要ですので、少し、考えさせてください。」

 結局、そのまま施設を出る。

「あ、そうだ。康太さん。」

「ん?どうしたのかな?」

 玄関を出て、振り向くと、康太さんが不思議そうな顔をする。

「彼女たちに伝えといてください。俺の携帯にいつでも連絡してくれと。それと、いつでも遊びに来てほしいと、自分も学校があるので、いつでもいるというわけではないのですが、連絡してくれれば、いる時間を教えられると伝えてください。あ、これ自分の携帯番号です。」

 そういいながら、電話番号と高橋賢治と東雲皐月(しののめさつき)の名前が書かれた紙を渡す。

「…わかった。伝えておこう。」

「今日いなかった他の子も是非と伝えといてください。」

「ああ。わかった。」

 そのまま2人はハイエースにに乗り、走り出す。

 横を見ると、伊集院夫婦が見送りをしている。

「俺、今すげぇ腹減ってるんだけど、替え玉はおけ?」

 パソコンを出して、編集画面を開いたまま考え込んでいると、コウが話しかけてくる。

「あ~。ラーメンか。いいよ。どこのラーメン屋行く?」

東神奈川(ひがしかながわ)大桜(おおざくら)がいいかなぁ。いや、六角橋(ろっかくばし)極味家(きわみや)もいいな~。それとも横浜(よこはま)一蘭(いちらん)って選択肢もあるな~。」

「どこでもいいけど、1回俺の家いかね?」

「なんで?」

「いや、ハイエースでどこか行くのはきついだろ。俺のバイクで行けばいいし。お前小型二輪持ってるんだろ?ならカブ貸してやるよ。俺はもう1台バイクあるし。」

「あ~それもそうだね。じゃぁ1回お前の家行こうか。」

 そのまま俺の家に向かい、その道中俺は編集を終わらせる。

 思ったより時間がかからなかった。先に日中の収録を編集しちゃったのは正解だったのかもしれない。

 途中渋滞に巻きもまれ、40分かかって家に着く。

 家に着くと、家のWi-Fiで動画をアップデートし、ヘルメットを持って家を出る。

「俺バイク乗るの久しぶりなんだよな~。乗れるかな。」

「大丈夫だろ。元バイク便だろ?」

「それもそうか。」

 コウにヘルメットを渡すと、ガレージのシャッターを開けて、中に入る。

「あ、カブの鍵。ほらよ。」

 キーホルダーから鍵を1つ取り、コウに手渡す。

「さっさと行こうぜ。俺も腹減ってきた。」

 停まっていたもう1台のバイクにまたがると、キックでエンジンをかける。

「これってセルある?」

「いや、見ればわかるだろ。ついてないよ。あ、キャブ車だからかかりにくいかも。」

「頑張るわ。」

 俺はバイクのエンジンをかけるが、コウの方はエンジンがかからない。

 数回キックを踏んでもかからない。

「かかんねぇか~。」

「じゃぁ変わろうか。コウはこっちのバイク乗ればいい。俺がカブ乗るよ。」

「わりぃ。」

 バイクを交換して、カブにまたがると、キックを蹴る。2回蹴ると、エンジンがかかる。

「お、かかった。」

「お~すげぇな。やっぱバイク乗りは違うな。」

「まぁな。それより行こうぜ。どこにするんだ?」

「じゃぁ六角橋の極味家で!」

「おけ。」

 ギアを1速に入れると、アクセルをひねり、走り出す。

 2人で並んで走り、ラーメン屋に着く。

 バイクを止め、ラーメン屋に入り、食券を買うと、カウンターに座ってしばらくすると、ラーメンが運ばれてくる。

「うまそうだな~。」

 コウが箸を渡してくる。

 食べようとすると、LINEが来る。誰かと思うと、茜だった。

≪賢治!今日の動画すごいことになってるよ!登録者数もすごい増えてる!≫

 そのLINEを見て、すぐにYouTubeを開いてチャンネルを見ると、確かにすごいことになってる。

≪118,894回視聴・15分前≫

 と表示されている。

 チャンネル登録者数も、知らないうちに15万人を突破している。

「…コウ。もしかしたら、やりようによっては、さっきの話し、かなり現実味を帯びてきたぞ。」

「どういうこと?」

 咀嚼していたコウは、不思議そうにこっちを向く。

「動画アップしてから15分で再生回数が10万回を超えてる。それに、登録者数も昨日と比べて一気に3万人弱増えてる。」

「お~。それは凄いね。というか、茜ちゃんからのLINE返さなくていいの?」

「あ。」

 急いでLINEを開いて、茜にLINEを送る。


―――LINE―――――

賢治≪ほんとだ。すごいね。≫

アカネ≪というか、あの子たち誰?動画では教えてる子って言ってたけど、そんなことしてたっけ?≫

賢治≪みなとみらいで会ったんだ。楽器を整備してあげるってことでうちに来たんだよ。≫

アカネ≪…賢治。それってただの変態だよ?≫

賢治≪まぁいいんだよ。明日、話したいことがあるんだ。学校が終わったらうちに来てくれないか?≫

アカネ≪いいけど、…私、襲われるの?≫

賢治≪襲わねぇよ。話しがあるんだよ。≫

アカネ≪わかった。いいよ~。≫

――――――――――


「よし、これでいい。」

「お前、麺伸びるぞ?」

「あ。」

 急いでラーメンを食べるが、そこまで伸びてなくてよかった。

 ラーメンを食べていると、コウが替え玉をする。

 ラーメンを食べ終わってラーメン屋を出ると、まだ20時くらいだった。

「なぁ、ちょっとツーリングしねぇ?どうせこれから帰っても暇だし。」

「いいよ。どこ行くんだ?」

「いや、適当に走るだけ。まぁ海を見たいから、山下公園の方とかふ頭の方とかいかね。」

「じゃぁ本牧のふ頭いかね?あそこなら夜でも入れるし。」

「いいね!いこうぜ!」

 バイクにまたがり、エンジンをかけると、ひとまず横浜駅の方に走り出す。

 青木橋で曲がり、みなとみらいの方に抜ける。そのままみなとみらいの端まで走ると、山下橋で山下橋東の方に曲がり、そのまままっすぐ走る。小港橋(こみなとばし)の手前で曲がり、下水処理場前を走り抜けると、錦町(にしきちょう)の交差点を直進してふ頭の方に抜ける。

 そのまま首都高速(しゅとこうそく)湾岸線(わんがんせん)を上に見ながらまっすぐ走っていると、目の前に海が見えてくる。とはいえ、夜だから海はよく見えない。

 ふ頭の海沿いを走っていると、目の前に本牧の海釣り公園が見えてくるが、その前で曲がり、ふ頭のさらに先の方に行く。

 一番奥で駐車場にバイクを止めると、横浜シンボルタワーの先の海岸線にコウと2人で立つ。

「こうやって夜に海を見るのは、できれば女の子と見たかったなぁ。」

「コウ、そういうの気にするのか?」

「するよ~。彼女はほしいし、賢治はいいよな~。茜ちゃんいるし。」

「茜とはそういう関係じゃねぇよ。まぁコウ、これから何かと頼むかもしれないけど、いいか?」

 海を見ながら、コウに聞いてみると、暗いがどうやら満面の笑みを浮かべているようで、肩に腕を回してくる。

「水臭いな~!小学校のころからの付き合いだろ?それに、これでも俺は年上なんだから、頼れよ!」

「…ああ。ありがとう。」

「おうよ!」

 それからしばらく、コウはコーヒーを、俺は紅茶を飲みながら海を眺めて帰った。

 俺は家に帰ってからもう一度チャンネルを見てみる。

≪東雲音楽団

 チャンネル登録者数 18.2万人≫

 動画一本だけでこれだけ伸びるのか。なかなかこんなことはないのだろうが、すごいことになった。さっきの動画も、再生回数が15万回をこえている。

 とりあえず、風呂に入って、そのまま寝る。

 今日は色々あって疲れた。

 気が付くと、日が昇っている。今日は月曜日だ。

 ベットから起き上がり、そのままシャワーを浴びる。

 風呂場から出ると、キッチンに立ち、朝食を作る。朝食と言っても、白米の上に卵をかけて食べるだけだ。まぁ、いわゆる卵かけご飯だ。ちなみに俺は醤油よりめんつゆ派だ。これが意外に旨いのだ。

 タオルを巻いただけのまま自分の部屋に行き、制服に着替える。うちの学校は学ランで、女子もセーラー服だ。茜も、セーラー服が着たいからという理由で、この学校を選んだと言っていた。

 身支度を整え、鞄に筆箱や本などを入れると、一度2階の楽譜庫に入る。

 そして、昨日の撮影環境を思い出す。

 機能撮影の時に立っていたところに立って昨日の演奏を一通り思い出すと、窓を開け、外の空気を吸い込み、自分の心をリセットする。

 窓を閉めて部屋を出ようとすると、ふと床に目が留まる。

 スマホが落ちている。

 そのスマホは、当然自分の物ではなく、コウの物でもなさそうだ。となると、もう誰が落としたかはすぐにわかる。昨日の5人のうちの誰かだ。

 後で康太さんに連絡すればいいか。

 忘れ物のスマホを持って自分の部屋に戻り、そのスマホも一緒鞄に入れると、鞄とグローブとヘルメットを持って家を出る。

 ガレージのシャッターを開けると、CB250の隣に立ち、紐で鞄とヘルメットをもう一つ後ろのシートに縛り付けると、ヘルメットをかぶり、グローブをはめ、バイクをガレージの外に出し、シャッターを閉める。

 シャッターの鍵を閉めると、バイクにまたがり、キックを蹴る。本当はセルもついているが、もともと乗っていたカブがキックだけだったから、キックに慣れてしまった。

 ゴーグルをして、走り出す。

 高校に向かいながら、昨日の話を思い出す。

 再生回数や、登録者の伸び方から、あのまま伸びれば、俺の貯金と合わせて施設を運営するには十分だと思う。どれくらい必要か知らないけど。

 考えている間に、学校の近くに着く。知り合いの家の駐車場にバイクを止めると、ヘルメットとグローブを置き、鞄をほどいて学校に向かう。

 1日中、いつ受けても授業は楽しくない。

 昼休み。学食に行って、カレーを頼んでテーブルに座ると、前に茜が座る。

「相席失礼~。」

「ああ、茜か。」

「茜さんだよ~。いや~昨日の動画はびっくりしたよ。そういえば、話しって何?」

「あ~。まぁ今のうちにさらっと説明しとくか。俺、児童養護施設の運営をしようと思う。」

「え!?児童ふぐっ!」

「バカ!声がでかい。」

 叫びそうになった茜の口を急いでふさぐ。

「ぷはっ!」

 手を離すと、そのまま席に座る。

「はぁ…はぁ…。賢治大胆…。」

「おい。襲ったわけじゃないだろ。」

「…はぁ。それはそうと、児童養護施設って、前々から子供好きとは知ってたけど、そこまでするとは思わなかった。」

 呼吸を整えて、茜があきれた声で言う。

「まぁ、賢治がやりたいって言うんならいいんじゃない?」

「ああ。だけど、人数的に、今の家だけじゃどうにも小さい。だからどっかの建物を買い取るか、建てる必要があるんだよな。」

「それは大変だね。確か賢治の家の隣数軒空き家じゃなかった?そこを使えば、引っ越さなくて大丈夫そうな感じだけど。」

「そうか!あそこを使えば確かに行けるか。あ、早く食わないとチャイムが鳴っちゃうね。」

 腕時計を見て、急いでカレーを掻き込む。

 それを見て、茜も急いでうどんをすすっている。

 それから午後の時間も大して面白いことはない。高校2年生になっても、相変わらず大して張り合いのない生活だ。まぁ今まで音楽一筋で生きてきて、中学では部活に打ち込み、学校がない時間もずっと練習していた。

 6時間目の授業が終わり、HRを終えると、クラスの大半の生徒が部活に向かう。

 俺はというと、部活には入っていなく、そのまま直帰する。

「賢治~!帰ろ~。」

「ああ、いいよ。」

 2人で校舎を出て、学校の敷地を出ると、知り合いの家に向かう。

「やっぱり今日もバイクで来てたんだ。」

「気づいてたか?」

「だって、靴がバイク用のブーツだし。」

 そういいながら俺の履いてるブーツを指す。

 確かに、俺の乗っているバイクは両方ともギアチェンジがあるミッション車だから、どうしても左足の甲にはシフトペダルを上げるため時に傷がつく。まぁカブはロータリー式だからシフトペダルを上げることはないんだけど。

 しばらく歩いて、知り合いの家に着く。

「はい、ヘルメット。」

「ありがとう。」

 自分もヘルメットをかぶると、バイクを車庫から出し、またがってからキックを蹴る。

 それと同時に、スマホを取り出し、知り合いにLINEを送る。≪バイク置かせてもらってたよ。ありがとう。≫

「乗っていいよ。あ、俺の鞄持っててくれる?」

「うん。いいよ~。」

 俺の鞄を抱えながら、茜が俺の後ろのシートにまたがる。

「こういう時、リュックならいいなって思うけど、俺リュック似合わないからな~。」

「賢治は普通の鞄が似合ってるよ。」

「そりゃどうも。しっかりつかまれよ。」

 クラッチを握りシフトを1速に入れると、アクセルを吹かしながらクラッチを離し、バイクを発進させる。

 生徒がいないような道を選んで走り、広い道に出ると、ギアを4速まで順々に上げる。

 走ること30分、家の近くに着く。

「賢治ー!言い忘れてたんだけどさー、明日の夕方久しぶりにいつものメンバーで集まって演奏しないかって長谷川が言ってたよー!場所は西公会堂!行くー?」

「どうするかなー。長谷川が幹事ってことは、俺バリサクじゃなきゃダメじゃん。バリサク持って西公会堂まで行くの面倒なんだよな~。」

「私も行くならドラム持ってかなきゃいけないじゃーん!コウさん呼べばいいんじゃない?」

「うーん。考えとくよー!」

 見慣れた交差点に着き、ウィンカーを出しながら細い道に入ると、すぐに家に着く。

 バイクを止め、茜が下りたのを確認すると、バイクを降りてシャッターを開け、バイクをしまう。そこで、自分の携帯が鳴っているのに気づく。

 スマホの画面を見ると、知らない番号だった。

「はいもしもし、どちら様で?」

『あ、お兄さんですか?友恵です。先日はありがとうございました。今日はご在宅ですか?』

「うん。今帰ってきた所だよ。今日来るの?」

『はい。今日は昨日いなかった5人も一緒に行く予定です。あ、そうだ。昨日携帯落ちてませんでした?』

「ああ、あったよ。やっぱり君たちのだったんだ。」

『はい。澪が携帯がないって言ってました。』

「じゃぁ後で返すよ。じゃぁ後でね。」

 電話を切り、スマホをしまう。

「今の電話、昨日動画に出てもらったって娘?」

「そうだよ。あとで来るらしい。」

「昨日の動画見たけど、あの子たち上手いのね。」

「ああ、光るものがある。」

 シャッターをしめると、玄関に向かう。

 茜と一緒にリビングへ入ると、紅茶を入れる。

「ほんとに賢治は紅茶が好きよね~。というか、コーヒー嫌いだもんね。」

「まぁな。コーヒー飲めないし、そもそも紅茶が好きだし。」

 ポットとカップを机に置き、カップに紅茶を注ぐ。

「ミルクと砂糖は?」

「貰う~。」

 コーヒーフレッシュと砂糖とスプーンを渡すと、自分のカップにも入れる。

「で、どうやって養護施設何て作るの?資金源も。」

「これを見てくれ。」

 そういいながら、自分のスマホを出し、自分のチャンネルを開く。

「あ、これって昨日の動画だね。確か昨日の時点では10万回を超えてたけど。」

 チャンネルのページから動画という項目を選び、一番新しい動画の再生回数を見る。

≪31万 回視聴・19時間前≫

 また再生回数が増えている。

「…すごいね。ここまで伸びるとは思わなかった。

「今までの最高再生回数はせいぜい20万回だった。登録者数も気が付けば30万人を突破してるし。これは、このまま伸びてくれるなら、経営資金も問題ないと思う。」

「確かに、これなら問題なさそうだね。まぁいくら必要か知らないけど。そういえば、どういう形態で行くの?」

「NPOとして設立しようと思ってる。それなら、費用も低く抑えられるから、設立までに時間はかかるし、必要人数も多いけど、その方が気楽だろ。」

 紅茶をすすりながら、茜が話しを聞いている。

「そこで相談なんだけど、茜。俺と一緒にこのNPOに入ってくれないか?」

「……そういう相談だと思ったよ。」

 茜は、カップを置きながら、少し考える。

「…いいよ。その代わり!」

 テーブルを強く叩いて、俺の顔の目の前に指を突き出す。

「私も一緒に住む!いいでしょ?」

「…いいけど。ずいぶん乗り気だな。」

「そりゃ、賢治だけじゃ大変でしょ?」

「それはそうだけど。いいのか?実質俺と2人暮らしだぞ?子供たちの暮らすスペースは別で作る予定だから、茜がここに住むなら、俺と2人で住むことになるぞ。」

「もちろん!それに、この家なら2人で住んでも問題ないでしょ。」

「まぁな。」

「で、私以外の人間はどうするの?」

「コウとかも誘うつもりだ。ほかにも、恩師や音楽家なんかに頼んでみるつもりだ。」

 話をきいて、一度うなずくと、

「じゃぁ、早い方がよさそうだね。」

「とりあえず、週末から始めよう。色々忙しくなりそうだ。」

「まぁ、こっから数か月は気が抜けなさそうだね。」

「というか、忙しくなりそうだね。」

 ササっと茜がネットで調べる。すると、どうやら5か月程度かかるそうだ。

「これは、かかるね~。」

「かかるな。」

 ネットで色々調べ、色んな人に電話をかけて入ってくれるように頼む。コウは2つ返事でOKが返ってくる。ほかにも音楽家や音楽教師、学校で校長をしている人に連絡して、入ってもらえないかを聞いていく。

 結果、20人以上の人からOKをもらえる。理事は俺に茜、それに、コウと私立の学校で理事長をしている人を理事に入れる。もちろん本人に許可ももらった。監事には、音楽家の友人と学校で教頭をしている人にお願いをする。

 そんなこんなをしているうちに、子供たちが来たようで、インターホンが鳴る。

「あ、あの子たちが来たかな。」

 インターホンを見ると、子供がいっぱい映っている。

 玄関を開けると、楽器を持った子供たちが元気に挨拶をしてくる。

「あ!こんにちは!」

「お邪魔します!」

 みんなおもいおもいに挨拶してくる。

「はい、こんにちは。入っていいよ。」

 子供たちを招き入れ、玄関で靴を脱いでもらっていると、リビングから茜が出てくる。

「お、元気だね~。こんにちは、佐々木茜(ささきあかね)だよ。」

 茜の名前を聞いて、子供たちがずいぶん動揺する。

「佐々木茜!?佐々木茜って、学生ドラマーの!?」

「去年の3月にやってた学生奏者だけの演奏会で、高橋さんとデュエットしてたあの打楽器奏者!?」

「高橋賢治と佐々木茜は仲がいいって噂、本当だったんだ…。」

 茜と一緒に、子供たちを2階の楽譜庫に案内して、そのあとは引き続き、NPOの立ち上げに向けて調べ物を続けていく。

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