プロローグ
「今日もご視聴ありがとうございました。では、また次回の動画でお会いいたしましょう。さようなら~。」
挨拶を終えてしばらく経つと、カメラの録画を切り、鼻から上だけの狐の仮面を外す。
「…はぁ、今日も疲れた。」
サックスをスタンドに置くと、パソコンデスクの前に椅子に座す。
「毎日投稿やめようかなぁ。コンサートの出演料とかだけでも生活はしていけるしなぁ。でも俺の動画を待ってる人もいるし、動画の視聴者の中には子供たちも多いし、やめるわけにはいかないよなぁ~。」
ぶつぶつ言いながら、昨日アップした動画を開く。
≪75,386回視聴・20時間前に公開済み≫
動画の左下に表示された数字に目を落とす。
今朝見た時から数万回再生回数が増えている。
「今日の動画は今撮った動画を張り付けてアップするだけだし、さっさとやって寝ちゃおう。明日は土曜だし、学校もないし。」
そのままビデオカメラにコードを接続し、動画を編集し始める。
約1時間後、編集が終わり、動画をアップし、寝間着に着替え明かりを消してベットに飛び込む。
すると、手に持っていたスマホがバイブしながら光る。
「ん?」
画面を見ると、雄二からの電話だ。
「どうした?」
『おう賢治明日は頼むな!」
「わかってるよ。9時に桜木町だろ?ちゃんと覚えてるよ。」
『ならいいんだ。ちゃんとサックス持って来いよ?学祭で使う演奏をとるんだからな!』
「わかってるよ。お前こそ遅刻すんなよ。」
『ああ。それじゃぁよろしくな!東雲皐月さん!』
「それはネットでの名前だ。明日は公式にコラボって形なんだからな。」
『わかってるよ!じゃぁな!』
その一言を最後に電話は切れる。
「……自由な奴だな。」
今度こそ寝ようとすると、またスマホが光る。
「…今度は何だ?」
今度はLINEだった。
≪賢治、明日は遅刻すんじゃないわよ?≫
「…茜か。」
―LINE―
賢治:≪大丈夫だ。たった今雄二から電話が来たから。≫
アカネ:≪あ~先越されたか~。じゃぁ問題さなさそうだね~。≫
賢治:≪お前らの中で俺はそんなに時間にルーズなの?≫
アカネ:≪あーそういわれると雄二君よりは信用あるかな。まぁとりあえずちゃんとサックス持ってきなさいよ?一応アルトと一緒にソプラノも持ってきたら?≫
賢治:≪アカネがそういうなら両方持ってくよ。じゃぁ、そろそろ寝るわ。≫
アカネ:≪早くない!?まぁ、お休みなさい。皐月さん。≫
――――
スマホを充電器にさすと、そのまま目を閉じる。
(東雲皐月かぁ。なんとなくでつけた名前がここまで伸びるとは思わなかったなぁ。)
布団に入って目を閉じてると、やがて、そんなこともどうでもよくなる。
東雲皐月。本名高橋賢治。
職業、高校2年生。管楽器奏者。YouTuber。
高校に通いながら『東雲音楽団』の名前でYouTubeに動画をアップしたり、管楽器奏者としてコンサートに出たりして生活費を稼いでいる。
親はどうしたのかという質問をよくされるが、中学卒業の数日前に交通事故で2人とも他界し、祖父母も遠い田舎だった上、どうせもう高校生だし、何よりも当時はもうYouTubeの広告収入だけじゃなく、中学生演奏家として、いくつかのコンサートに出たりしていたから生活費は充分足りていたから、生まれ育ったこの横浜で両親の残した一軒家で暮らせている。
もうすぐ夏だ。
開けた窓から入る風が、優しく顔を撫でる。これがとても心地いい。
目を閉じていると、気づいたころには眠りに落ちていた。