四十七話目 精神の試練クリア
最後だってことは伝えるのか。
緊張感を出すために言っていなかったと思ったのだがな。
まあ、別に何でもいいか。
どんな手法を使われようが、俺が動揺することはない。
そして最後の試練が始まった。
俺の右手がジュージューと音を立てながら、溶け始めた。
リアルな手が溶けているという感覚がする。
「痛い! 痛い! 痛い!!」
レミが叫びながら立ち上がった。
どうやらレミの錯覚でなければ、これは痛みを感じる可能性もあるみたいだ。
「痛い! これ絶対幻覚じゃない! 約束が違うぞ! ああ、私の手がぁああああ!!」
『一名失格』
無情にも声は失格を宣告し、レミは光に包まれ転送されていった。
いや、これは本当に幻覚なのか? 確かにリアルな感触だが、レミは大丈夫なのだろうか。仮に実際に手が溶けているのなら、処置しないと二度と剣が握れないくらい溶けていたぞ。
いや、待てよ。
よく考えたら実際に起こっている出来事なら、俺の体は修復を始めるはずだが、全く回復していない。
ということは幻覚なのは間違いないようだな。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、痛覚を騙す高度な幻覚のようだ。
ここまで高度であると、下手をすれば精神がやられて死んでしまうこともあると思うのだがな。あくまで精神的なダメージで死ぬ分には構わないというわけか。
ふと下を見ると、考えているあいだに、両腕と両足がスライムみたいに、どろどろに溶けている。
グレースも俺と同じ状態になっているはずだが、まだ頑張っているみたいだ。
仮に痛覚があった状態でこうなっていた場合、俺も耐え切れるか疑問だ。恐らく気が狂うほどの痛みがあるはず。痛いのが嫌いな俺は声を上げているかもしれない。
そのあとも体が溶け続け、心臓首まで溶けた。
最後頭を残した状態で、気付いたら、体が元に戻っていた。
試練終了かな。
特に動揺する場面はなかった。
どっちかというとグレースが凄いと思ったが。
終わったと完全に油断していたら、今度は体が燃え始めた。
最後だって言っていたのは、どうも嘘だったようだ。
要するに一度ほっとさせて、それからやってしまおうと。
俺は焼かれようがどうしようが、痛みは感じないので、急に来ても問題はないが、グレースは安心していた所をやられて、
「あちゃちゃちゃちゃ!! しまった、忘れとった!!」
と叫んで立ち上がった。
忘れとったってどういうことだ? 試練の内容を知っていたのか?
入った奴から話を聞いたのだろうか。
『一名失格』
グレースも光りに包まれ転送され、俺一人になる。
体が焼かれまくるが、痛みなど感じない俺に全くのノーダメージ。
これで死んでくれればいいんだが、仮に現実であっても死にはしないだろう。
『試練終了。見事合格だ。もう動いていいぞ』
そう声が聞こえた。
流石に動いていいと言われたなら、動いていいだろう。
ここで実は駄目でしたなんて後で言われたら、完全なルール違反だ。
そのあと、光の柱が五本立ち、その中から失格になった全員が現れた。
「いやー、余裕だったじゃんペレスさん。まあ、死なないし痛みも感じないからねー」
とアイシャが出てきていった。
「見ていたのか?」
「うん、何か映像が流れてた」
「最後の溶ける奴とか、燃える奴とかやばかった」
「どっちかというと、痛覚ありで最初の溶ける奴に耐えたグレースさんは、何者なのだろうか。私など速攻で失格したというのに」
「まあ、歳を取ればそれなりに心が乱れ無くなるものじゃよ。しかしぺレスはまだ若く見えるのに、あれだけ耐久力があるとは、ますますもって不思議な男だな」
とそれぞれ感想を言い合う。若く見えるが一万歳だからな。
メオンだけ、やけに黙っている。そのようすを見て俺は、
「お前、虫苦手なんだな」
そう声をかけた。すると、まずいことを聞かれたと、ギクッとして顔から汗をだらだらと垂れ流す。
何だか面白くなったので、
「虫を召喚する魔法があるが、使ってみようか?」
とからかうと、涙目を浮かべて、黙って睨みながら俺の目を見てきた。こいつこんな奴だったか。常に居丈高な振る舞いをする奴だと思っていたから、意外だった。少しは普通の女っぽい面もあったんだな。
「冗談だよ」
何だか可哀想だったので、そう言った。
『それでは最後の試練を行う、最後の間へと転送する』
声が聞こえた後、俺たちは光に包まれて転送された。




