三十三話目 決闘4
「ち、逃がしたじゃねーか」
不機嫌そうな表情でバグダムドは言った。
「まあいい。お遊びはここまでだ。これからは本気を出す。てめーらも、さっきの奴らも皆殺しにしてやる」
「さっきまでが本気でなかったと?」
「てめーは本気であれだったのか?」
「……あれは50%ほどの力だ」
「俺様は三割くらいだな」
「ほざけ!」
マシャは先ほどよりさらにスピードを上げてバグダムドに斬りかかる。
まずは右手を狙う、次に左足、右足、右手、首、相手の各部位のかわるがわる狙って斬る。稀にフェイントを入れて、後ろに回りこみ斬りかかったりもする。しかし、このテクニカルな一連の攻撃をすべてバグダムドは防ぎきる。
これは一旦下がるべきだとマシャは判断し、一旦後ろに下がろうとする。すると、
「飛黒斬!」
そういいながら、バグダムドは剣を振る。
すると、斬撃が飛び、一直線にマシャへと向かってきた。
かなりのスピードだ。予想外の攻撃にマシャの対処が僅かに遅れあたりそうになる。
「マジック・ガード!」
バラシアがそういうと、マシャの目の前に魔法の壁が張られる。
その壁が斬撃をガードし、マシャに当たらずにすんだ。
「助かった」
「援護は任せてください」
その2人の様子を見ていたバグダムドは、
「面倒だな。後ろのあいつをまず再起不能にする必要があるな。殺すのは惜しいが、勢い余って殺す可能性もあるか。ま、いいか、その時はその時で」
「先ほども行ったとおり貴様の相手はこの私だ」
「そうだな。お前の相手は俺がしてやるよ。あいつの相手は、こいつがしてやる」
そういうとバグダムドは、親指の先を噛み切り、血を地面に垂らす。
結構な量の血が地面に流れる。親指の先を切っただけにしたには流れすぎなくらいの血が流れ落ちる。
その血が地面に血溜まりを作る。そして血溜まりがだんだん上に盛り上がっていき、人型になる。
人型になった血は、バグダムドと瓜二つの姿になった。
「こいつは俺様の十分の一ほどの強さだが、そこそこ強いぞ」
「!!」
分身はバラシアへ、バグダムド本人はマシャへと攻撃を仕掛けた。
「っく!」
バラシアは迫り来る分身に対応するため、魔法を使う。
しかし、すべての魔法を避けられる。分身体とは言え物凄い戦闘能力を持っているようだ。
あっさり接近を許し、腹の辺りを蹴られる。
「ガハッ!」
バラシアは後ろに勢い良く吹き飛ぶ。そして、壁に叩きつけられる。
「っ!」
そのようすを見ていたマシャが救援に向かおうとする。
しかし、
「お前の相手は俺様なんだろ?」
バグダムドに救援を阻まれる。
バラシアは蹴られたのと、壁にぶつかった衝撃で意識を朦朧とさせながら倒れている。
その隙を狙って、分身が止めをさそうと攻撃をする。
「飛翔斬!」
攻撃が当たる寸前、マシャが斬撃を飛ばして分身を斬り裂いた。
分身は一瞬で斬り裂かれたが、無理をして救援をしたため、マシャはバグダムドの剣撃をもろに受ける。
肩口をざっくりと剣で斬られ、鮮血が飛び散る。
マシャは斬られたあと、倒れているバラシア前に移動し、かばうように立つ。
肩から大量に血を流して尚も、彼女の目から闘志は消え去っていない。
「諦めが悪いな……くくく、お前は勝てんよ。俺様は最強だからな」
自信満々だというような表情でバグダムドは言い放った。
マシャは剣を構えバグダムドを睨み続けた。
○
さーて、結構歩いて王都が見えてきた。
結構飛ばされてたから、だいぶ時間がかかった。
さっさと死ぬ方法は見つけたいし、決闘場に行って暴虐王を殺すかー。
しかし、次の決闘を受け付けるのはまた5日待たされるのかね。
それだと面倒だな。
その後、俺はしばらく歩いて王都に入った。
「お、お主もう戻ってきたのか」
いきなり前から声をかけられた。
ツインテールの赤い髪の少女だ。
「えーと……お前は……メオンか」
「なぜもっとすっと言えんのじゃ」
メオンが怒ったように言う。
「いま決闘場で戦いが始まっておるぞ。放っておいたら賢者の女が死ぬかもしれんから、早く行ったほうがいいかもしれんぞ」
「なに? 決闘? 今やってるのか?」
「ああ、黄の賢者とその妹と、暴虐王が戦っておる」
「それで賢者が死ぬかもしれんと」
「そうじゃ」
「ふーん」
死んでも生き返らせればいいといえばいいけどな。
まあでも、一度危ない所を助けてやった方が、ちゃんと手がかりを喋ってくれる可能性は高くなるな。助けた方がいいか。
「じゃあ、急いで助けに行くかー」
「なんじゃ助けに行くのか。生き返らせられるからいいと言うと思っておったんじゃがな」
俺は決闘場に急いで向かった。




