三十話目 決闘開始
「本当に今日も決闘するんだねー」
決闘場に人がある程度集まっていた。先日よりも人は少ない。
5人は観客席まで足を運び、決闘を観戦する。
席について誰が出てくるのかを待っていた。
最初にバグダムドに挑む挑戦者の方から姿を現した。
その挑戦者の姿を見て、5人は息を飲む。
「あの人って」
「人化したドラゴン?」
ドラゴンの翼を生やした女が挑戦者として、姿を現した。
「いえ、あれは……私と同じドラゴンハーフでしょう」
「分かるの?」
「見ればわかります。本当のドラゴンと比べると、翼に若干違和感を感じますので」
「分かんないわね」
「しかし、ドラゴンハーフが私以外にいるとは……しかし、あの外見……」
「どこかバラシア殿に似ているな」
顔はそこまで似ているというわけではないが、髪の色はバラシアとまったく同じ金髪だった。
バラシアはその外見に少しひっかりを覚えながら見ていた。
決闘場に立つマシャは少し緊張していた
いくら自分の強さに自信を持っているとはいえ、いざ戦いの前になって一切の緊張も感じないほど、マシャは無神経ではなかった。
しかし、緊張しているといっても、動きを鈍らせるほど強い緊張ではない。このくらいの緊張ならば逆にした方がいいと、マシャは前向きに捉えていた。
そして、決闘場にバグダムドが姿を現した。
「お前が挑戦者か? ……?」
バグダムドはマシャを見て怪訝な表情を浮かべる。
何かが解せない。そんな感じの表情だ。
「そうだ。私の名はマシャ!」
「マシャ? どっかで聞いたことあるなだな。それにドラゴンとは聞いていたが、その髪にその顔……お前まさか」
「そうだ! 私はメレサ・サーナルドの娘のマシャだ。不本意なことに貴様のような外道の血も引いているが、貴様は確実にここで殺して、母を助け出してみせる!」
娘であると聞いたバグダムドだが、意外にもあまり驚いていないようだ。彼は少しガッカリしたような表情を浮かべる。
「あー俺様の娘かお前……通りでなんか性欲が沸かないと思ったんだよな。娘は抱けねーわ。あと、一応言っておくが、娘だからと俺様は手加減しないぞ。俺様に挑んだ以上、お前は死ぬしかない」
「死ぬのは貴様だ」
二人のやりとりを聞いていた観客がざわめき出す。」
「娘? あのドラゴンが? いや、暴虐王の娘ならドラゴンハーフか」「暴虐王の血を引いているということは、あのドラゴンハーフも凶暴なのか?」「話を聞く限りそんな感じじゃないけど」「強いのかな?」「暴虐王の娘なんだし、強いんじゃないのか?」
そんなざわめきなど気にすることなく、マシャは腰にかけていた剣を引き抜き、バグダムドに斬りかかった。
凄まじいスピードだ。その速度を追えたものは観客には誰もいない。
唯一そのスピードを見極められたのは、斬撃を躱した暴虐王のみ。
「いきなり始めるとは、マナーがなってないな」
バグダムドの軽口には耳を貸さず、マシャは斬り続ける。
すべての剣をバグダムドは避けて対処していた。
「何をしているのか分からないくらい速いけど、全部避けられてるのかな?」「でも暴虐王って、相手の攻撃絶対避けないよね。効かないから」「でも避けている……ということは……」「あの子、結構強いんじゃない?」
観客は戦いのようすからそう判断して、口には出さないが心の中でマシャを応援し始めた。
○
「……さっき、メレサ・サーナルドの娘って名乗ってたよな」
レミが頬に一筋の汗を流しながら、そう言った。
「確か、メレサさんって、バラシアさんのお母さんの名前だよね……」
「じゃあ、あの子って……」
「「「バラシアさんの妹なの?」」」
3人の声がかぶった。
「私の妹……そして父親はあの男……名前は……マシャ」
バラシアは信じられないものを見るような目で、マシャを見る。
「私に妹がいたのですか……」
バラシアの目には、一生懸命戦うマシャの姿が写っていた。
母のために一心不乱に戦う妹の姿を見て、バラシアは立ち上がった。
そして、決闘場のほうに向かって歩き出す。
「ちょっとバラシアさん!? 何を」
「戦ってきます。妹を一人で戦わせるわけにはいけません」
「いやでも」
「あの戦いに入る気なのか? そもそも途中で参戦していいのだろうか?」
説得しようとしたが、バラシアは聞く耳を持たなかった。
バラシアは一目散に戦いに参加しに行った。




