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所有者3

所有者3

最近、巷で騒がれているニュースを見ていた。

暴力団の組長と国会議員が続けて飛んできた包丁で殺害された。

3人目の被害者はいきなり首から血を噴き出して死亡した。


各マスコミが事件の共通性や犯人像などを競って報道していた。


これは間違いなく能力者の犯行だ。

きっと2人目までの犯行は

(時が止まった中、物をナイフで切りつけても切れない。しかし時が動き出すと同時に、時が止まった中で切りつけた切り口が切れる。つまり、時が止まった中では物体を壊すことはできない。時が動き出すのと同時に破壊が進行する。)

を知らなかった可能性がある。

3人目の殺害で現場に包丁を残さなくても殺害できることを知ったのだろう。

と言うことは、事件を起こしている奴も能力を最近手に入れた。


高橋はこの一連の事件の犯人が私だと思っている。

事件が起こるたびに私の周りで聞き込みをするのだ。かなり迷惑だった。

高橋を殺すか迷っていた。だが、連続殺人の犯人も気になっていた。

考え事をしていると突然携帯電が鳴り出した。

「ピピピピッ ピピピピッ」

携帯を見ると見覚えのない番号だった。電話にでる。

「もしもし」

「もしもし、はじめまして、連続殺人の犯人です。」

それは女性の声だった。声の感じで年配ではないようだ。

「はい?」

「私もストップウォッチを持っています。」

間違いなく犯人だ。しかしなんと返事をしていいか迷ったが、正直に

「あなたがストップウォッチ持っている証拠はありますか?」

「はい、7月3日に自由民政党の井吹議員を殺害します。前回と同じ方法で」

「・・・・」私は言葉を失った。

「7月3日に井吹議員を殺害してからまたご連絡します。」

「お名前を教えて頂けませんか?」

「次に電話する時、教えます。」

「はいわかりました。お電話お待ちしています。」

「ツーツーツー」

犯人と言う女性からの電話だった。

なぜ、俺の連絡先をしっているのか?最初の疑問だった。

高橋が私から情報を聞き出すために誰かに演技をさせた可能性もある。

それなら辻褄があうが、犯行予告はいったい……

私がストップウォッチを持っていることを確信していた。

……考えられるのは……

もし、能力者が高橋の資料を読めば私がストップウォッチを持っていることはわかるはずだ。


今考えても答えは出ない。7月3日を待つしかないか。


7月3日 当日、速報で井吹議員の殺害が報道された。

前回の組長同様、いきなり首から血を噴き出して死亡した。殺害方法も予告通りだった。

夕方に彼女から電話があった。

「はい、石神です。石神 圭介です。お電話お待ちしていました。」

「信用していただけましたか?」

「はい」

「私は川口 泰子と申します。」

「なぜ、私に電話をしたのですか?」

「同じ能力を持っているからです。電話をした理由は、たぶん今の気持ちを聞いて頂いて、あなたの意見も聞きたいと思ったからです。私も最近この能力を手にしました。いろいろ悩んだ結果、いままで心の奥でくすぶっていた思いを行動にすることにしました。」

「それが今回の殺人ですか?」

「そうです。一部の政治家の所為で本当に日本の為に世の中を変えようとする者は育ちません。今の日本からその一部の腐った政治家を削除したいのです。その一部の腐った政治家は利権しか追及せずに国民のことなど考えようともしません。いくら国民の為にがんばろうとする政治家がいてもつぶされてしまします。ましてや国民の為に政治家を志す者など……虫けらのようにひねりつぶされます。…………私は日本の政治を変えたいのです。これが私の考えです?」

・・・少し、間をおいてから、

「すごいことだと思います。私にはそこまで考えることはできませんでした。」

「しかし、あなたも自分自身の為に能力を使っていないじゃないですか?」

「そうですね。でも、あなたはすごいと思います」

「まだ、この殺人を続けます」

「はい、わかりました。私もできるだけ協力します。しかし、高橋と言う自称ジャーナリストにマークされていますので、簡単には動けないんです。」

「はい、高橋君のことは知っています。また、ご連絡します。」

電話を切ってから、深呼吸をした。

話を聞いた限りおそらく個人的な復讐……ストップウォッチを持たなければ……よかったのに……

思考を切り替えてこれからの対応を考えなければ。

彼女がこのまま暴走を続けて警察に捕まり、ストップウォッチの存在が警察ばれるのは、最悪の展開だ。何とか手を打たなくては……

高橋君と言っていた。……高橋の同級生か先輩か

一つ言えるのは、高橋も川口を知っている。

しょうがない高橋に探りを入れてみるか。

携帯電話と取り出し、

ツルルルル、ツルルルル

電話に出ると高橋は元気な声で話を始めた。

「もしもし、お久しぶりです石神さん」

「高橋さんは今、東京ですか?」

「朝から晩までこちらで調査をしております」

「いい加減、殺人事件が起こるたびに私の周りで聞き込みするの、やめてもらえませんか。職場の周りの人から変な眼で見られてしまいます。」

「すべて話して頂けると、こちらも聞き込みしなくてもすむのですが」

高橋は川口とどんな関係だろう?この疑問が残るままだが……

「高橋さん、あなたは勘違いをしていますよ。」

「そうでしょうか?私はあなたが犯人だと思っています。」

「今回の連続殺人犯、誰が犯人か教えてあげましょうか?」

「なに!」

「最近、あなたの資料等を見た女性が犯人です」

「なぜ、それを」

かなり動揺している様子だ。

「では、取材がんばってください」

「ピッ」

電話を切った。

あの動揺の仕方から、高橋は川口が犯人だと知らない。「なぜ、それを」と言っているので、おそらく資料は見せたことがある。そう考えると辻褄が合う。彼女は高橋の資料をみて私の電話番号を知った。

あとは高橋がどう出るかだ。


数日後、志村議員が公演中に殺害された。

殺害状況を見るなり、これも川口の仕業だろう。

さて、どうしたものか?

高橋が何らかの証拠をつかみ、逆に川口が高橋を殺害することを期待しているのだが……

今の所、動きはないか……


ツルルルル、ツルルルル

川口からの電話であった。

「こんばんは、川口さん」

「こんばんは」

「志村議員も、あなたですよね?」

「はい、そうです。実は高橋君に感づかれたみたいです。」

内心はドキッとしたが、平常心を保ちながら

「そうですか、それでどうしますか?」

「じつは……」

「どうしました?」

「実は、本当に殺害したかったのは、古閑 と井吹 だけだったんです。でも」

彼女は電話越しに泣きながら話をする。

「志村議員が死ぬのをみて、なんとも言えない感覚が……恐怖感が襲ってきたんです。」

良心の呵責と言うやつか。

「まず、高橋を何とかします。どこに寝泊まりしているか知っていますか?」

「神田駅近くのセントラルシティホテルだと言っていました」

「わかりました。高橋の件は任せてください。それと、今度会ってゆっくりお話しませんか?もしよろしければ明後日の日曜日お時間ございますか?」

「明後日の日曜日のお昼に、高橋君に呼び出されています。」

「わかりました。その場所には私が行きます。日曜日の3時に待ち合わせしましょう。場所は……そちらがあまり詳しくないので静かにお話ができる場所連絡ください。」


日曜日、高橋の止まっているビジネスホテルの前で高橋の出てくるのを待っていた。

高橋は私に気が付かないようで駅に向かって歩いていた。見るからに思い悩んでいるようだった。俯いて歩いている。

高橋の向う一本奥のホームに急いで向かった。

線路を挟んだ向かいのホームに着くと。高橋は下を向いて考え事をしている様子だ。電車が入ってくると。

高橋がまっすぐ真正面を見た。私に気がついたらしく私の名前を呼んだ「いしがみ」

その瞬間、ストップウォッチを押した。


「ピッ」


制止する時間の中、急いで線路を横断した。高橋が持っていたバックを開けると、中にはノートパソコンが一台と今まで調べ上げた資料が一冊、あとはめぼしい物はなかった。ノートパソコンと資料を取り出してから、鞄を閉めた。高橋を入ってきた電車の前に突き飛ばした。最初にいたホームに戻り、ポケットの中からストップウォッチを取り出す。


「ピッ」


時間が動き出す。先ほどのノートパソコンと資料を自分のカバンに詰め込み、ゆっくりと歩きだした。


待ち合わせの公園のベンチで座って待っていると、すらっとしたスーツを着た女性がこちらに歩いてきて目の前で止まった。

私は立ち上がり、

「お会いするのは初めてですね、石神圭介と言います。」

「はじめまして、川口泰子です。」

「どうぞ、座ってください。」

「はい」泰子はベンチに腰をおろした。

「これが私のストップウォッチです。」

石神はストップウォッチをポケットから出して見せた。

「これがわたしのです。」

泰子も同じくストップウォッチを見せた。同じ黒色だった。

「色も同じですね。マニュアル読みましたか?」

「はい。」

「僕なんか英語ができないので翻訳するのが大変でした」

「わたしもです」

少し無言のあと石神は話を始めた。

「先日のお話の続きですが、」

「実は、今回の殺人は復讐だったんです。本当に殺したかったのは古閑と井吹だけだったんです。私の恋人が古閑の秘書をしていました。彼は将来政治家になって自分の為にではなく国民の為の政治をすると言っていました。しかし、8年前の政治献金が消えた問題で当時秘書だった彼は会計責任者として責任をおしつけられ、最後に自殺しました。」

川口はハンカチを取り出し眼がしらを抑えながら話をすすめた。

「もちろん彼はそんなことはしていません。私なりに調べました。訴えるほどの確証は得られませんでしたが、事件の概要はわかってきました。その黒幕が古閑と井吹だったのです。」

「そうでしたか……」私は静かに答えた。

「しかし、その事件には関係のない、志村議員を殺して……死ぬのをみて、ここ数日、夜も眠れずなんとも言えない恐怖が襲ってくるんです。」

「そうですか」

……少し沈黙の後私は話だした。

「高橋はこの能力をおおよそ知っていました。」

「はい、私も資料を見せてもらったのでそれは知っていました。」

「その上で、高橋はあなたが犯人であると突き止めたみたいです。」

「やはりそうですか、今日、お昼に約束の場所に行ったのですが、高橋君は来ませんでした」

「彼は亡くなりました」

「あなたが………そうですか」

「警察もあなたをマークしているみたいですし。これからどうしますか?」

「もう疲れたので・・・・自首し」

彼女の言葉をさえぎるように

「逃げてください。いや、絶対に警察に捕まらないように逃げてください。貴方のとった行動はいずれこの日本の為になるはずです。」

泰子は私の顔を見ている。

「今頃、利権にまみれた政治家は毎日恐怖と闘っていることでしょう。公演などできないはずです。あなたは逃げてください。そうすればあなたの恋人の様なすばらしい政治家が出てきます。きっと彼もそれを望んでいるじゃないですか?あとは私が引き継ぎます。」

「逃げるってどこに」不安そうに私を見つめる

「お金は私が用意します。東京を離れてください。」

「ですが…………」


静かな時間が流れた。私は周りの様子をうかがっていた。

「やっぱり来ました。警察です。」

「えっ」

「泰子さん 逃げてください。ここは私が引き受けます」

「え…………」

「早く!!」私は大きな声をだした。

泰子は交通量の多い道路の方に走り出した。あわてて警察も泰子を追いかけた。


――泰子は走りながら――

今はとにかく逃げよう。きっと彼もそう思っている。自分を正当化することが、この恐怖感を取り除いてくれる。

走りながら後ろをみた、スーツを着た男たちが追いかけてくる。

右手でストップウォッチを持つとボタンに親指をかけ、交通量の多い道路に飛び出した。その瞬間にストップウォッチのボタンを押す。


「ピッ」


その瞬間 私の周りの雑音が消えた。

私は公園のベンチから立ち上がると、足もとにしるしをつけた。

ゆっくりと道路の方に歩きだす。

私は動かない泰子の右手からストップウォッチを取り上げる。

また公園のベンチへもどり足もとのしるしに合わせベンチに腰をおろした。


私は泰子から取り上げたストップウォッチをポケットに入れて時間が動き出すのをまった。


「ピッ」


「キキーーーー、ドスン」

鈍い音とともに泰子の体は吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。


刑事たちはあわてた様子で大きな声を出している。


私は泰子が持っていたストップウォッチのプレートを見た。

やはり名前が消えていた。

泰子は今、所有権を失った。つまり死亡したことになる。


私はベンチから立ち上がり交通事故のあった方向を見つめた。

「石神圭介さんですね」

振り返り私は答えた。

「あなたたちは?」

男は警察手帳を見せ

「警視庁捜査一課の宮本と言います。」

私は悔しそうに話した。

「彼女はあなたたちを恐れていました。だから逃げだしたんす。彼女が何をしたと言うのですか?」

「下手な演技はやめてください。今度はあなたを捕まえます。」

そう言うと宮本はクルッと振り返り部下を引き連れて帰って行った。


すべてお見通しか。

彼女は復讐の為に殺人を繰り返した。しかしそれを正当化するために、世の中の為になど大義を得ようとした。

しかし、復習が終わると彼女も気ずいたのだろう。人を殺したと言う事実を……

良心の呵責に耐えられなくなった。そのまま出頭されれば警察にストップウォッチのことがばれる。それは私にとって非常にまずいことだ。

最初から計画していた。

お互いにストップウォッチを見せ合った後、私のストップウォッチと彼女のストップウォッチを交換した。彼女が私を殺そうとした時の保険の為に。

そう、彼女は自分の時間を止めようとして、私のストップウォッチのボタンを押したのだ。


ちなみに私のストップウォッチのプレートの名前も消えていた。

『最後に時間を止めた人が死亡した場合、現在の所有者の所有権は強制的に放棄されます。


もう一度自分のストップウォッチのボタンを押す。


「ピッ」


今は他人を犠牲にしてでも、私の生活を守りたい。


―――ただそれだけだ―――

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