追う者2
追う者2
石神の周辺を調べてみた。
話を聞いても悪い噂は出てこない。
近所の評判も良い。近所付き合い、挨拶などもきちんとする。
会社ではあまり目立つ方ではないが仕事はできる。しかも真面目だ。
休日は娘たちと一緒にいるのをよく見かけるそうだ。
金持ちではないが平均並みな生活を送っているようだ。
石神の妻にも話を聞いたが、夫婦関係も悪くない印象だ。
考えられるのは絡まれている少年を見るに見かねて、チンピラを殺したか?
そもそも殺すつもりはなかったのかもしれない。
たまたま一人死亡した。そう考えた方がしっくりくる。
石神の妻の話では、石神がストップウォッチを持つようになったのが、先月の中旬ごろと言っていた、山崎の死亡時期と重なる。
コンビニで山崎が落としたものを石神が拾った。それは間違いないと思うが……
つけっぱなしのテレビのニュースに耳を傾けた。
昨日お昼頃、東京都 新宿区の路上で 山田会系 暴力団 一八会 組長 中山 康太郎 さん(48歳) が 家を出たところ、飛んできた包丁が首にささり、病院に運ばれましたが出血性ショックにより死亡が確認されました。
俺は急いで石神のアリバイを調べてみた。昨日はちゃんと会社に出勤している。
そもそも瞬間移動できるのならアリバイは意味がないか?
とうとう動き出した。正義の味方にでもなるつもりか。
明日は東京に行くか?その前に石神に探りを入れてみるか?
石神の携帯の番号は調べてわかっていた。
「ハイ、石神です」
「こんばんは、高橋です」
「おい、何で俺の携帯番号を知っているんだ」
かなり怒っている様子だ
「先日、教えて頂きませんでしたか?」 とぼけてみた。
「教えてないはずだが」
「そうでしたか?なぜで知っているんでしょうね。あっ、そうそう知っていますか?東京で面白い事件が発生してるんですよ。例の超能力者だと思われる」
「東京で?」
「そうなんですよ。明日取材に行こうと思っています。」
「そうですか、がんばってください。」
ツーツーツー 急に携帯電話を切られた。
翌日電車で東京に向かい知り合いの編集者がいる出版社の前に着いた。
村沢と言う記者を呼び出してもらった。
「村さん 久し振り」
「高橋、久しぶりだな。田舎に帰ったんじゃなかったのか?」
「今日出てきた。」
「俺になんの用だ?」
「先日の組長が殺害された事件を取材してるの誰」
「俺だよ」
「やっぱりね。協力できるかもしれないぜ」
「犯人の目星でも付いているのか?」
「ただでは教えられない。」
「わかったよ、上司に掛け合ってくるよ。ちょっと待ってろ」
「ありがとう」
5分ほどまっていたら村沢が走ってきた。俺の記者時代の知り合いだ。たまたま年が同じだったので気があった。
「あまり金にはならんかもしれんぞ」
「かまわない。」
「よほど因縁があるみたいだな、高橋」
「ああっ」力なく返事をした。
「早速、取材に行きますか」
移動中電車の中で俺は今までのいきさつを村沢に話した。
「ちょっと待て、それで犯人は逮捕できるのか?」
「だから記事に書くんだろ。」
「そうだな。でも今回は包丁だ。確実に相手を殺す気だ。」
「そうだ、ただの殺人鬼だ」
警察の発表によると包丁は量販店で販売されていて関東地区の多くの店舗で扱われているものだった。凶器から犯人の特定は難しい。
凶器に指紋等は付いていなかった。
警察は暴力団同士の抗争とみている。
対立している組を今あたっているところだそうだ。
2日が過ぎ、村沢と昼飯を食べていると、新たな事件の情報が入ってきた。
『臨時ニュースです。
自由民政党の選挙対策委員長の 古閑 武 議員が演説中に突然飛んできた包丁が胸部にささり重症を負った模様です。急いで病院に運ばれましたが、現在重症と言うこと以外の情報は入っていません。警察は傷害事件として犯人の行方を追っています。』
「政治家まで殺すのか?」村沢は少しおびえて言った。
「政治家もヤクザも一緒なんだろう。要は正義の味方になりたいただの殺人鬼さ」
「俺たちでは手に負えない気がするんだ。このままじゃ記事にできないし。この資料、知り合いの刑事に渡してもいいか?」
「ああ、いいよ。俺は俺なりに調べてみるよ。また報告する。」
村沢とは別れてひとりで調査をすることにした。
中山組長の事件をまず調べようとしたが、極端に目撃者が少なかった。
そこで、古閑議員の事件を先に調べることにした。
演説中と言うこともあり倒れた瞬間の目撃者はたくさん得られたが、投げた犯人の目撃者はいなかった。やはりこの事件は超能力者の犯行だ。つまり石神の犯行だ。
そこで、石神の写真を見せて話を聞いて回ったが、当日石神見た者はあらわれなかった。
事件当日の石神の行動を調査したが、不審な行動は見当たらなかった。
証拠が見つけられないまま、次の日曜日が来た。中山組長が殺されて丁度一週間後だった。
おそらく同一犯と思われる殺人事件が起きてしまった。
『今日のお昼頃、東京都 港区の路上で 暴力団組長 太田 昭宏 さん(59歳) が 事務所に入ろうとした時、いきなり首から血が噴き出しました。病院に運ばれましたが出血性ショックにより死亡が確認されました。首には鋭利な刃物で切られた傷がありますが凶器は見つかっていません』
事件当日の石神の行動を調査したが、不審な行動は見当たらなかった。
また、石神の写真を持って、太田組長が殺害された付近の聞き込みをしていた。
「あのーすいません。私、フリージャーナリストの高橋と言います。先日・・・」
言葉に詰まってしまった。その女性は見覚えのある顔だった。
「高橋君じゃないの」
「あっ川口先輩。・・・相変わらずお綺麗ですね」
「なに社交辞令みたいなこと言ってるのよ」川口は名刺を見ながら
「ジャーナリスト?実家に戻ったって聞いていたけど」
「ハイ先日出てきまして、例の連続殺人事件を調べているんです」
川口は東東新聞時代の先輩であり政治部の記者をしている。当時、部署は違ったが、俺をかわいがってくれていた先輩の友人と言うこともあり、何度かお酒を飲んだことがある程度の知り合いだった。
「へー」あまり話題がなかったので
「すいません。この人を見たことありませんか?」と石神の写真を見せた。
川口は写真をみて
「たぶん会ったことはないわね。誰なの」
「おそらく連側殺人事件に関係しているはずなんです」
とてもびっくりした様子で
「この事件に関係が、ねー詳しく教えてくれない。絶対に他言しないから」
「わかりました」
外で立ち話も何なので喫茶店に入り、今までの状況を説明した。
川口は一通り説明を聞きいたあと、今まで調べた資料を見ていたが、資料の途中で突然
「がんばってね、こちらでも情報が入ったら教えるから」
と言って、連絡先の入った名刺を渡して、急いだ様子で去っていった。
その日、付近の聞き込みをしたが、石神を見た者はいなかった。
数日が過ぎ、今度は自由民政党の井吹議員が首を何者かに切られて殺害された。これで4人目だ。
4人目の事件の翌日、井吹議員が殺害された付近の聞き込みをしていると
「ピピピピピッピピピピピッ」と携帯が鳴り出した。
携帯を見るとなんと石神からだった。少し恐怖を感じたが出ることにした。
「もしもし、お久しぶりです石神さん」
「高橋さんは今、東京ですか?」
「朝から晩までこちらで調査をしております」
「いい加減、殺人事件が起こるたびに私の周りで聞き込みするの、やめてもらえませんか。職場の周りの人から変な眼で見られてしまいます。」
「すべて話して頂けると、こちらも聞き込みしなくてもすむのですが」
「高橋さん、あなたは勘違いをしていますよ。」
「そうでしょうか?私はあなたが犯人だと思っています。」
「今回の連続殺人犯、誰が犯人か教えてあげましょうか?」
「なに!」
「最近、あなたの資料等を見た女性が犯人です」
「なぜ、それを」
「では、取材がんばってください」
「ツーツーツー」
どう言うことだ?最近、資料を見せた女性?
川口先輩が・・・まさか・・石神の陽動作戦か?
今までの俺の仮説が覆ることになる。
『能力者は一人ではない』
頭の中が混乱している。
「ふー」と息を吐いてから、事件を整理してみることにした。
6月22日(日) 中山組長殺害 包丁で殺害
6月24日(火) 古閑議員殺害 包丁で殺害
6月29日(日) 太田組長殺害 首を切って殺害
7月 3日(木) 井吹議員殺害 首を切って殺害
日曜日に組長が殺され、平日議員が殺されている。
しかも、日曜日の組長と同じ殺害方法でその週に議員が殺害されている。
「・・・」
もしかして組長は実験台・・本命は議員・・・
川口の名刺を取り出した・・政治部・・・
つまり殺害された両議員とも演説をしていたわけだから取材に行っていてもおかしくない。
動機は……前に酔った時にあの政治家の利権がどうのこうの言っていたような……あの時は興味がなかったので聞き流して覚えていないが……それが動機……
翌日、川口の写真を持って太田組長の殺害事件があった付近の聞き込みをした。
ちょうど事件のあった場所の道を挟んで反対側の喫茶店に彼女が来ていたと言う証言を得た。はっきりとした時間はわからないがパトカーや救急車などが来て騒がしくなる前までお店にいたと言うことだ。
それから数日後 7月9日
今日は自由民政党の 志村 信高 元官房長官らの演説のある日だった。
会場は物々しい雰囲気に包まれていた。
会場に入るのには金属探知器みたいなもので身体検査を行われ、やっとの思いで会場に入ることができた。
記者の集まる席の中から彼女を捜した。彼女は前の方に陣取っていた。
壇上の周りにはSPらしき人がたくさん居るのが素人目にもわかるほど警備は厳重だ。
志村議員のスピーチが始まってから、特に彼女を注意深く観察した。
彼女は鞄から黒い物体を取り出し何かを確認してからそれをポケットにしまった。
その後、数秒して、会場は騒然とした。おそるおそる壇上の方を見た。
壇上の横に置いてあった国旗の竿の先端の尖った部分で胸を貫かれた志村議員の姿があった。なんとも言えない無残な光景だった。
会場を出るには、警察の取り調べ等を受けてからしか会場を出られないようなので、待ち時間の間に先ほどの彼女の行動を思い起こし考えることにした。
鞄から取り出した黒い物・・・ストップウォッチ・・・
確か梅沢も窃盗の時に片方の手をポケットに入れていた。
山崎も交通事故にあう前にポケットの中を探していた。
今回、彼女もストップウォッチを確認してからポケットに入れて何かをした。
残っている会場の人に状況を聞いてみると、国旗が一瞬消えて、次の瞬間、志村議員に突き刺さった。とのことである。
結局、会場から出るのに3時間もかかった。
丸一日、悩んだ。
彼女に真相を確認するかどうか?場合によっては殺される可能性がある。
殺される恐怖に押しつぶされそうになる。しかし、逃げるわけにはいかない、いいや、逃がすわけにはいかない。もうあの脱力感、敗北感を味わいたくはなかった。
殺される覚悟で彼女に会うことを決心した。
直接電話をして明後日、日曜日のお昼に会う約束をした。もちろん内容は伏せてある。
雑誌記者の村沢の力を借りて、彼女との会話の内容を、携帯電話を通して録音してもらうことにした。俺が万が一殺されてた場合は村沢が警察にそのデータを持ち込む手はずになっている。
いよいよ日曜日の朝が来た、昨夜は一睡もできなかった。一度、村沢のいる出版社に立ち寄って、会話を録音するマイクのテストなどを行ってから彼女に会う予定だ。
まずはビジネスホテルから出版社に向かうために、歩いて最寄りの駅まで向かった。ホームで電車を待ちながら、短い人生だったが悔いの残らない人生だったと自分に言い聞かせながら、今までの人生を振り返っていた。
ふと反対側のホームに目をやると、見覚えのある顔が………「いしがみ」…
その瞬間、ホームに入ってきた電車がすぐ目の前に……
いや、俺が電車の前にいるのだろう……避けようとする暇もなく、電車にぶつかった。意識が遠のいて……
本日午前9:05、(山手線)神田駅構内で男性が普通電車にはねられました。男性は全身を強く打ち即死しました。警察によりますと、目撃者の証言から争っていた様子もなく事故か自殺の両面で調べを進め、身元の確認も急いでいます。
JR東日本によると、救出作業などの為、同線は……………