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追う者

追う者


お世辞にもきれいとは言えない8畳の部屋で目が覚めた。

時間は・・腹が減っている・・お昼ぐらいか?

とりあえずパソコンの電源を入れる。


俺は今フリーターと言うやつだ。少ない貯金とバイトで生計を立てている。

これでも昔は東京で新聞記者をしていた。あの事件がきっかけで、実家に逃げるように帰ってきた。もうあれから3年か・・・

今は生きる意味が見いだせないでいた。

腹が減った。コンビニに弁当でも買いに行くか?


今は実家に住みついている。両親とも健在で、元気すぎて顔を合わせるたびに小言を言われるので喧嘩になるくらいだ。

実家はコンビニが近かった。俺が東京から実家に戻ってきた時には建っていた。もちろん俺が地元の高校に通うころはなかったので、高校生の時にあれば便利だったのに。と最近思ったりもする。

近くのコンビニに着いたがいつもと様子が違う。

パトカーが一台コンビニの前に止まっていた。

「警察?」

制服を着た警察官が店長と話をしている。


顔見知りのバイトの子がいるので話しかけてみた。

「よっ、何かあったの?」

「あッ、こんにちは」

「警察来てるけど、強盗でもあった?」

「いえ、レジの中のお金が消えたんです」

「消えた?」

「そうなんですよ。しかも、店長は私を疑っているんですよー。しんじられない。」

「で、あんたが盗ったの?」

「とってませんよ」

「詳しく教えて」

「もう上がる時間なのでレジの中を確認していたら、1万円札だけなくなっていたんです。店長も横にいたのに 盗るなんてできるわけがありません。」

「へー、お金が消えた?」俺はニヤリと笑った。

何も買えそうにないので何も買わずに家に帰った。カップラーメンでも食べるか。


実家に着くとまず台所でお湯を沸かした。

部屋中 物で埋まっている足の置場もない自分部屋に戻ると、お湯が沸くまでパソコンの前に座りパソコンのキーボードをたたき始めた。過去の資料を印刷する。


お湯が沸いたので台所に行きカップにお湯を注ぐ。それを持って自分の部屋に持っていく。

プリンターが一所懸命に動いている。


カップラーメンを食べながら近くのコンビニやスーパーを検索し地図もプリンターで出力した。

一通り印刷した資料を鞄につめて部屋を出た。

ふるそうな原付バイクにまたがり真新しいヘルメットをかぶり実家を後にした。


先ほどの警察の来ていたコンビニから少し離れたコンビニについた。

ひとりの店員に声をかけた。

「すいませーん。店長さんいますか?」

「はい、・・今日は夕方には来るはずです。」

「そうですか。ありがとうございます。そうそう」

名刺を渡す。

「フリーライター 高橋・・さん」店員は不安げな顔で見つめてくる。

「そうそう、最近このコンビニで窃盗事件とかありませんでした?たとえばお金が消えているとか」

「はい、先日レジからお金がなくなったって騒いでいました。」

「ありがとうございました。」高橋はニヤリと笑った。


あの時と同じだ。不可能な犯行。犯人はおそらく超能力者だ。それしか考えられない。物体を瞬間で移動させることができる能力。今度こそ奴を捕まえてやる。


――過去にさかのぼる――


俺は東京の大学を卒業後、東京の地方紙の新聞社、東東新聞社に就職した。

それから4年ほど過ぎたある日、不可解な窃盗事件を取材することになった。

コンビニやスーパーのレジから突然お金がなくなる事件である。

ある範囲に集中して50件近く。

中にはバイトの子が疑われて警察に突き出されるケースもあった。


俺はほとんどの店の防犯カメラを見せてもらった。レジ近くで不審な人物は見当たらなかった。が、見せてもらっているうちにほとんどの防犯カメラに写っている男を発見した。

偶然の一致だろうか?いや、ちがう。俺もそうだが、だいたい決まった店に行くはずだ。

近くにあるとは言っても、こうもいろんな店に行くのはどう考えても不自然だ。

その男の名前と現在住んでいる住所を突き止めた。梅沢と名乗っているらしい。本名かどうかはわからないが。アパートも窃盗事件があったお店の範囲に入っていた。

仕事も定職にもつかず遊んでいるらしいが、金には困ってはいないらしい。

簡単に調べた結果、毎月きちんと家賃も納めているし、借金等も無いみたいだった。


ちょうど梅沢のアパートを訪ねると、上下黒のトレーナー姿の梅沢がアパートから出てきた。

話しかけるか迷ったが、梅沢を尾行することにした。なぜか地下鉄に乗り少し離れたコンビニに入って行った。

コンビニの中で様子を探っていると、週刊誌を立ち読みしているだけだった。

立ち読みが終わるとペットボトルのお茶とお弁当を持ちレジに向かった。不自然な行動は今のところ見られなかった。

右手をポケットにずっと入れていたこと以外は。

店を出たので、引き続き尾行すると梅沢は突然右手をあげてタクシーを止め乗り込んだ。

行きは地下鉄で帰りはタクシー?不自然な行動だった。

もしかして・・・

タクシーのナンバーを控え、あわてて先ほどのコンビニに引き返す。

ちょうどカウンターの中には店長と書かれたプレートを付けている人がいた。

名刺を渡し事情を話す。レジを確認してもらった。1万円札が6枚なくなっていた。

この窃盗事件を担当している知り合いの刑事に電話をした。

「沢田さん、東東新聞の高橋です」

「あー高橋さん、どうしました?」

「例の窃盗事件の犯人が分かったんです。」

「本当ですか?」

「はい、名前は梅沢と名乗っています。詳しくは後でお話しますが、今コンビニから盗んだ金を持っているんです。コンビニの定員の指紋が梅沢の持っている一万円札から出れば証拠になりませんか?」

「そうですね、こちらでも検討してみます」

「よろしくお願いします。私はこれから梅沢に会ってみます。もし犯人なら説得して出頭させるか、とにかく梅沢を連れて署の方に向かいます。」

「無理はしないでくださいね。」

「はい、ではまた連絡します。」


急いでタクシーを捕まえて梅沢のアパートに向かった。

梅沢の部屋の前まで来ると少し緊張しながらベルを鳴らす。

「すいません。東東新聞社の高橋と申します。」

ガチャ、梅沢が出てきた。

「新聞はとらないよ!」梅沢は新聞の勧誘か何かと思ったのだろう。

「ある窃盗事件を取材しておりまして」名刺を渡した。

「窃盗事件?俺に何か関係あるの?」梅沢はおもしろくなさそうに答えた。

「いえ、梅沢さんが犯人を目撃している可能性が高いものですから」

「はー?」

「コンビニやスーパーのレジから現金がなくなる窃盗事件が発生していまして、防犯カメラを確認してみるとそのほとんどのカメラに梅沢さんのお姿が映っていました。」

「それで俺が犯人だとでもいうのか」と梅沢は怒った口調で言う

「いやそう言う訳ではないのですが、犯人を目撃している可能性が高いと思いまして、お手数ですが警察まで一緒に行っていただけませんか?」

もしこのまま警察で梅沢の持っている1万円札を調べてもらえば先ほどのコンビニの店員の指紋が出るはずだ。物証になる。

梅沢は少し考えてから思ったより素直に

「わかりました。いいですよ。少し待ってください、着替えますから」と言い梅沢は着替えに部屋に戻った。

以外に素直だな?犯人はこいつじゃないのか?

「お待たせしました。じゃ行きますか」

「ハイ、お願いします。担当の刑事さんが目黒署にいるんです。そこまでよろしいですか」

と言うと、梅沢は

「じゃ、車を拾うのに大通りまで出ましょう。」と言い歩きだしたのでついていくことにした。


大通りに出て少し歩いたところで・・・突然、俺の目の前に一台の車が猛スピードで向かってくるのが見えた。「キキー」と大きなブレーキの音と共に・・・俺の体に走った鈍い衝撃とともに意識がなくなった。


気がつくと、そこは病院のベットで寝ていた。体中激痛が走る。周りを見回すと久々に見る両親の顔がそこにあった。

あとから聞いた話だが、俺が道路の真ん中を歩いていたそうだ。

俺は理解した。梅沢 が瞬間移動で俺を車の前に飛ばしたのだと。


運よく一命はとりとめたが、3か月入院しリハビリに6か月の期間を要した。

その後、梅沢を捜したが見つからなかった。なんとも言えない敗北感と脱力間で会社を辞め実家に戻た。


もうあれから3年か・・・梅沢を今度こそ追い詰めてやる。

印刷した地図のコンビニを一軒一軒回っていく。何度もお願いして防犯カメラを見せてもらった。2週間、根気よく調査を進めていると、梅沢はいなかったが新たに別の男がほとんどの店で確認できた。


こいつが犯人だ。


山崎和夫(38歳)。住まいはひたちなか市のアパート 水戸市の居酒屋でバイトをして生計をたてている。夜な夜な友人らと派手に飲み歩いるらしい。居酒屋のバイトだけでは考えられない。

友人たちに話を聞いた結果、金に困らないお守りを肌身離さず持っているらしい。

お守りの形はまるでストップウォッチの様だったと、証言を得た。


どうやって接触をする。まともに行けば今度こそ殺されかねない。

すこしの間 尾行をして奴の行動を把握するか。・・


その日の山崎の行動は夕方から21時ぐらいまで居酒屋でバイトをして、そのあとは飲み屋やキャバクラ、バーなどを何軒も梯子しながら飲み歩いていた。


もう周りは明るくなってきた。朝の6時30分だった。

ようやくタクシーに乗って帰るようだ。

タクシーを原付で追いかける。しばらく走るとコンビニの前でタクシーを降り、コンビニに入って行った。

山崎はコンビニで買い物をしたらしくビニール袋を持って出てきた。

朝の通勤で交通量の多い道路をいきなり渡り始めた。

その時、「キーーーー」とブレーキ音と共に山崎は車にはねられた。


俺はその光景を呆然とみていた。


車が、かなりスピードで行き交う道路を、まるで車を無視するように道路を横断していった。酔っぱらっていたからか?

はねられる瞬間ポケットの中を探していた。まるで財布をどこかで落としたかのように。


山崎は死亡した。司法解剖で多量の飲酒が裏付けられ、酔っぱらいの飛び出しということになった。


目の前で起きた、山崎の死についていくつかの疑問が生まれてくる。

一連の窃盗事件が山崎の犯行なら なぜ、瞬間移動しなかったのか?

または、何らかの理由でできなかったのか?

お金や他人(俺)は瞬間移動をすることはできるのだが、自分自身はできないのか?

それならば向かってくる車を瞬間移動すればよいはずだ?


もうひとつ気になることがあった。死亡した山崎は交通事故後の持ち物に、例のお守りはなかったのである。


そこで一つの答えが見えてきた。例のお守りが瞬間移動に必要ではないか・・と。


ここ最近例の窃盗事件は起きていない。

やはり山崎が犯人だったのだ。山崎が死亡したので犯行はおきない。

つまり窃盗事件は永久に起きないと言うことか・・・

なんとなく張り合いが無くなった感じだ。また元の生活の戻るのか。

また、あとちょっと言うところで犯人を捕まえられなかったことで前にも味わった脱力感と敗北感が全身を覆った。


山崎が死亡して、また生きる意味がわからないまま、だらだらと生活を送っていた。

2週間ほどたったある日、何気なくリモコンでテレビを付けた。


昨日、茨城県水戸市郊外の大型ショッピングセンターの駐車場で殺人事件が発生しました。被害にあったのは同市に住んでいる無職、大谷タケシさん(32歳)

被害にあった大谷さんは仲間と歩いていると少年2人に肩がぶつかったと口論になり、少年達に金品等を要求していたところ、何者かが前方より投げた石が大谷の頭部に直撃しました。その後、病院に運ばれましたが、脳挫傷により死亡が確認されました。


アナウンサーが事件のあった場所の簡略化したパネルを持って説明をしている。

ここで少年たち2人と被害にあった大谷さんたち3人がいた場所です。

ここから少し離れたこの場所で口論しているのを目撃している人が複数いますが、石を投げた犯人の目撃はありません。

そして、目撃者たちからの死角になるのがこの場所だけです。

殺害された大谷さんから死角になるこの場所まで20m以上も離れています。

そこから野球ボール位の石を投げたことになります。

司法解剖の結果なんと投げた石は初速160km/hはでていたのではないかとの見解です。


テレビを見ていて高橋はニヤリと笑った。

この犯人は窃盗犯と同じ能力者だ。つまり投げた石を瞬間移動させたのだ。


今度は殺人者か・・・・・・


平日の昼間だが大型ショッピングセンターともなると大勢の人でにぎわっていた。

事件のあった現場をウロウロしていると、ガタイの良いおっさんと中肉中背の比較的若い青年に声をかけられた。

「すいません」

すぐに分かった。刑事だ。名刺を渡して挨拶をする。

「フリーライターの高橋と申します」

「フリーラーターの方ですか?われわれはこう言う者です」

警察手帳を見せてもらった。相手がしゃべろうとする前に

「事件を取材しようと思いまして、変な事件ですね。そうまるで・・」

「ほー、まるでなんだね」ガタイの良い刑事に言われた。

「超能力を使ったみたいな」

「ふん、ゴシップ誌かなにかか?」若い刑事が言う

やはり警察ではそういう発想はできないわけだ、いや大きな組織では無理だろう。

「それじゃ失礼します。」立ち去ろうとすると

「高橋さん、この方たちが今回の事件の目撃者なんだが」

ガタイの良い刑事に数人の名前等の書いてあるメモを渡された。

「どうしてこれを」

「何かわかったら教えてくれ、ギブ アンド テイクだ」

「ありがとうございます」

そう言ってその場を立ち去った。何やら若い刑事がガタイの良い刑事に詰め寄ってるようにみえたが俺の知ったことではない。

裏があるのかもしれないが、このメモはありがたかった。

次の手が見えない状況だったからだ。


何人かに話を聞いたが面白い話は聞けなかった。

最後の一人だが、通勤で毎朝通る道路が、山崎が車にはねられて死亡した道路だった。


若いのに、この辺で一軒家を構えるなんて大したものだ。

「ピンポーン」家のチャイムを押す。

「はーい」インターフォン越しに男性の声が聞こえる。

「すいません。先月の大型ショッピングセンターでの事件でお話をお聞きしたいのですが?」

「どちら様ですか?」

「フリーライターをしている高橋と申します」

「はぁ、少々お待ちください。」

ガチャとドアが開き、少し背の低い真面目そうな青年が出てきた。年は同じぐらいか?

「フリーライターをしている高橋と申します」

名刺を渡し、話し始めた。

「先月の大型ショッピングセンターでの事件を目撃されましたよね」

「近くには居ましたが見てはいません」

「そうですか・・この事件の犯人はどんな人物だと思います。」

「テレビでやってましたよ、大リーグ級の投手じゃないんですか?」

「私は、超能力者が犯人だと思っているんです。」

「超能力者?ははッ。石を超能力で飛ばしたとか?」

「違います。」

「ハイ?」

「瞬間移動みたいな能力ではないかと思っています。」

一瞬の表情を見逃さなかった。

「はー?あははははっ」

「いや、まじめです。この水戸市や隣のひたちなか市のコンビニ等で窃盗が立て続けに起こっていたんです。金額は少ないのですが数万円ぐらい、いつの間にかレジからお金がなくなる事件が20件ほど」

「バイトの子が盗ったとか?」

「それはないです。防犯カメラにもそのような映像は残っていませんでした。ただしその時間帯に20件中ほとんどのお店の防犯カメラである男が映っていました。」

「その男は見つかったのですか?」

「はい、見つかったのですが交通事故で死亡しました」

「そうですか、でもなぜ私にそこまで話すのですか?」

「交通事故があったのがひたちなか市後台のコンビニの近くなんです。」

「那珂市後台のコンビニ?」

確か通勤でコンビニの近くを通るはずだが・・・

「国道349号線沿いのコンビニですよ」

「あー、私が朝立ち寄るコンビニですね」

あのコンビニに立ち寄っていたのか。

「はい、そうです。この方に見覚えありませんか」

山崎の写真を見せた。

「初めて見ます」

山崎のことは知らないみたいだ。

「そうですか。山崎和夫さんと言います。住まいはひたちなか市のアパートで水戸市の居酒屋でバイトをしていたそうです。とても金回りが良かったそうです。居酒屋のバイトだけでは考えられないんですよ」

「その写真の人が犯人ですか?」

「さーそれはわかりません。すでに亡くなっているので、ありがとうございました。」

そう言って俺は向きを変えて歩いていった。

何かが引っかかった。窃盗事件の何かを知っているような……まるで事件の犯行方法を知っているような……。

ある質問をぶつけることを思いついた。振り返りもう一度話始めた。

「そうそう、石神さん」

驚いたような顔でこちらを見ている。

「山崎さんの所持品からいつも肌身離さず持っていたものがなくなっていたそうです。何でも友人には金を生む大切なお守りだと。その友人が話すにはストップウォッチにしか見えなかったそうですが?」

「はぁ」

俺は石神が一瞬動揺したのを見逃さなかった。ストップウォッチと言う言葉の時に

石神さんにお礼を言い帰ることにした。

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