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所有者2

所有者2


何日か過ぎ、晴れた日曜日の昼過ぎ、家族4人で大型のショッピングセンターまで買い物に行くことにした。地方なのでもちろん車で行くしかないのだが、駐車場が混んでいて少し離れた駐車場に止めることになった。


駐車場からショッピングセンターに歩いていると少年二人が見るからにガラの悪そうなチンピラ3人に絡まれていた。

それを見て私はニヤリを笑った。あのチンピラ達を懲らしめてやろう。今までの実験の成果を見せてやる。と心の中で思い、手に薄手の手袋を付けてポケットの中でストップウォッチがあるのを確認した。

娘に「何で手袋をつけるの」と聞かれたが。「内緒」と答えた。

少し離れた横を通る。ポケットの中のストップウォッチを握りしめた。

通り過ぎたあたりで、ストップウォッチを押した。

「ピッ」


その瞬間 自分の周りの雑音が消えた。


まず、足もとに石で立ち位置にしるしをつける。

急いでチンピラのいる所に近づいた、1人は後頭部を拳で3度ほど殴ってみた。


もう一人は近くにあった丸い石を頭部にめがけて投げつけた。

投げつけた石は手から離れると空中に浮いた状態で停止した。


ここ数日でいろいろと試した。時を止めてペンを立ててそのペンをデコピンしてみた、あまり動かない何度か続けてデコピンをする。それでも動かない。

ストップウォッチを押して時を動かした。

時が動き出すのと同時にペン立ては2mほど飛んでいった。何度か試してみたが、デコピンの回数が多い方が遠くに飛んだ。

理論はわからないが瞬間的な衝撃は蓄積して時間が動き出すと共に合計された衝撃となるみたいだった。


そこで時間を止めた状態でボールを投げてみた、手から離れた瞬間にボールは空中に浮いた状態で停止した。時を動かす。時を動かすとそのままボールは投げた方向に飛んで行った。


時間を止めた中で物を動かすのは難しかった。慣性の法則ってやつか。下手に物を動かすと時間を動かした時にその方向に動いてしまうからだ。


今回、1人は後頭部を3回ほど殴った。おそらく気絶するはずだ。もう一人は石がぶつかって頭から血を流すだろうがこれぐらいやらないと反省しないだろう。


先ほどしるしをつけた立ち位置に戻りストップウォッチを押した。

心の中でつぶやく(時は動き出す)


「ドタッ」との大きな音のする後方を振り向いた。

チンピラ2人が倒れていて、倒れたチンピラを見ておどおどした少年たちは、そのうちに走って逃げて行った。


「あの倒れている人たちさっきの少年たちにやられたのかな」と嫁が言う。

「そうなんじゃねーの」

「最近の少年はこわいねー、パパも気を付けてね」

「俺は絡んだりしないって」

などと話しながら横目でチンピラ達を見た。

怪我のなかったチンピラが倒れている2人のチンピラを介抱しながら、携帯電話で話していた。野次馬が増えてきたので買い物に向かった。


2時間ほど買い物をしてショッピングセンターから駐車場まで帰り道、例の事件のあった場所は野次馬でいっぱいだった。

野次馬を少し避けて駐車場まで行く途中、ガタイの良いおっさんと中肉中背の比較的若い青年に声をかけられた。

「すいません」

「はい?」と答えると

「そこであった事件ご存知ですか?」とおっさんが聞いてきた。

「は?」と私が答えると横から嫁が

「喧嘩ですよね」

「目撃されたんですか」

「ハイ」と嫁がちょっと自慢げに言う。

「旦那さんも見ましたか」と聞かれた。

ちょっと言葉に詰まった。たぶん警察関係だろう?不自然な行動だけは避けいと思いながら、警戒したように

「あなた方はどちら様ですか?」

「あっすいません」と言いながら警察手帳を見せて質問を続けた

「旦那さんも目撃されましたか」刑事に聞かれた。

「はい、まー」

すると横からまた嫁が

「最初は少年2人がチンピラ3人に絡まれていたように見えたのに、横を通り過ぎると『ギャー』と声がしたので振り向くと、チンピラ2人が倒れていて少年らが走っていくのを見ました」と身振り手振りを混ぜて答えた。さらに「家の主人の弟のお嫁さんの兄が少年課の刑事なんですよ」などと話が脱線していった。

嫁の話を若い刑事が担当しているうちにおっさんの刑事に話かけられた。

ただ、不自然な発言だけしないように・・心臓の鼓動がすこし速くなった。

「殴り合いとかは見ませんでしたか」

「私は見ていませんね」

「少年たちの声とかもききませんでしたか」

「聞いていません」

逃げた少年の服装や見た目などを聞いてこないと言うことは、少年はすでに保護されている可能性が高いな と思いながらチンピラがどうなったかすごく気になった。

聞くと怪しまれるか?いや怪しまれても大丈夫、証拠はない。

「あのぅ、倒れていた人たちの怪我はどうですか?」

刑事が言う

「死亡しました」

一瞬目の前が真っ白になる、考えるよりも先に言葉がでる。

「どっちが」

「どっち?どちらと言いますと」刑事は鋭い目で質問してきた。

「二人倒れていたように見えたものですから、お二人共ですか?」

「いえ、青いシャツを着ていた方ですね」

「そうですか」さっきのはまずかった、もう下手な質問はやめよう。


怪しいと思われたのか連絡先を聞かれて、その場を立ち去った。

帰りの車の中は先ほどの事件の話で嫁が興奮して話している。

それを聞きながら考えていた。私はたった今殺人者になった。しかしそれほど動揺はない。

自分が超能力者だからだろうか。それとも絶対に証拠はないし、逮捕するには超能力の存在を証明しなければならないこと。それは無理だろうと言う安心感からか。

しかし、あの少年たちが殺人犯にはならないかそれがすこし心配だった。


翌日、朝テレビを付けるとニュースで

昨日、茨城県水戸市郊外の大型ショッピングセンターの駐車場で殺人事件が発生しました。被害にあったのは同市に住んでいる無職、大谷タケシさん(32歳)

被害にあった大谷さんは仲間と歩いていると少年2人に肩がぶつかったと口論になり、少年達に金品等を要求していたところ、何者かが前方より投げた石が大谷の頭部にあたりました。その後、病院に運ばれましたが、脳挫傷により死亡が確認されました。

そのニュースを内心穏やかでない状態で見てから会社に向かうことにした。


仕事が終わり帰ってくると、嫁がまた興奮気味に話してくる。

「ねぇニュース見た」

「ネットで見たよ」

「怖いわね 犯人は何を考えているのかしら。もし外れて私達とかに当たったらどうするつもりだったのかしらね」

「コントロールに自信があったんだよ」

「でも20m以上離れていたんでしょう?しかもテレビで検証したら衝撃から時速160km以上で投げたらしいよ」

「へーそうなんだ」

まーそうなるわけか。目撃者の証言などから、犯人が見当たらなかった。つまり隠れられる場所と被害者までの距離が最低でも20m離れていたわけだ。

でも私は目の前で投げている。

大リーガーの投手ならできそうな事件になってしまったわけか


事件から翌周の日曜日、嫁と子供たちは買い物に行っている。

日曜日の昼間何もやることがないので、家でごろごろしていた。

「ピンポーン」家のチャイムが鳴る。


「はーい」インターフォン越しに答える

「すいません。先月の大型ショッピングセンターでの事件でお話をお聞きしたいのですが?」

「どちら様ですか?」インターフォン越しに見た感じでは刑事で無さそうだ。

「フリーライターをしている高橋と申します」

「はぁ、少々お待ちください。」

家に入れるのは何となく嫌なので外で話をすることにした。

外に出てみると、ひょろっとしたやせ気味の背の高い男が立っていた。

「フリーライターをしている高橋と申します」

名刺を差し出し、また高橋と名乗る男は話しを始めた。

「先月の大型ショッピングセンターでの事件を目撃されましたよね」

「近くには居ましたが見てはいません」

「そうですか・・単刀直入にこの事件の犯人はどんな人物だと思います。」

「テレビでやってましたよ、大リーグ級の投手じゃないんですか?」ふざけて答えた。

「私は、超能力者が犯人だと思っているんです。」

「超能力者?ははッ。石を超能力で飛ばしたとか?」なんとなく言ってみたが少し焦った顔をしてしまったかもしれない。

「違います。」

「ハイ?」

「瞬間移動みたいな能力ではないかと思っています。」

「はー?あははははっ」

「いや、まじめです。この水戸市や隣のひたちなか市のコンビニ等で窃盗が立て続けに起こったんです。金額は少ないのですが一回数万円ぐらい、いつの間にかレジからお金がなくなる事件が20数件ほど」

「バイトの子が盗ったとか?」

「それはないです。防犯カメラにもそのような映像は残っていませんでした。ただしその時間帯に20数件ほとんどのお店の防犯カメラである男が映っていました。」

私は一瞬で理解した。前の所有者だ。そして何らかの原因で死亡した。

「その男は見つかったのですか?」

「はい、見つかったのですが交通事故で死亡しました」

「そうですか、でもなぜ私にそこまで話すのですか?」

「交通事故があったのが那珂市後台のコンビニの近くです。」

「那珂市後台のコンビニ?」

「国道349号線沿いのコンビニですよ」

「あー、私が朝立ち寄るコンビニですね」自分の心臓の鼓動が速くなるのが分かった。

「はい、そうです。この男に見覚えありませんか」

写真を見せられたが、案の定初めて見る顔だった。

「初めて見ます」

「そうですか。山崎和夫さんと言います。住まいはひたちなか市のアパートで水戸市の居酒屋でバイトをしていたそうです。とても金回りが良かったそうです。居酒屋のバイトだけでは考えられないんですよ」

「その写真の人が犯人ですか?」

「さーそれはわかりません。すでに亡くなっているので、ありがとうございました。」

と言い、フリーライターの高橋は向きを変えて歩いていった。が突然振り返り

「そうそう、石神さん」

高橋は話を続ける。

「山崎さんの所持品からいつも肌身離さず持っていたものがなくなっていたそうです。何でも友人には金を生む大切なお守りだと。その友人が話すにはストップウォッチにしか見えなかったそうですが?」

ドキッとした。「はぁ」と答えたが、頭が真っ白になった。こいつは間違いなくこのストップウォッチのことを知っている。

高橋は私の顔を見てニヤっと笑ったように見えた。

くるっと私に背を向けてゆっくりと歩きながら高橋は帰って行った。

家の中に入りソファーに寝転がると、渡された名刺を見ながら考えていた。

高橋を殺すか?いや、おそらく取材した人物などの記録は付けているだろうし。それを奪ってからでも遅くはない。物証は無いはずだ。少し様子をみるか。

とりあえず嫁にはストップウォッチのことは誰にも言わないように口止めするか?

それも不自然か・・いっそのこと、高橋にストップウォッチを見せるか?

いやそれはまずい。裏には取説が書いてある。取説を見せるわけにはいかない。

指紋は今のうちにふき取っておこう。山崎(前の所有者)の指紋が出ると厄介だ。

あと、考えられるのは・・・

ガチャと玄関が開く音がした。

「ただいまー」嫁が大きな袋をさげて帰ってきた、その横を娘が走りながら

「ただいまーパパ」

「お帰り」

駆け寄ってくる下の娘を抱き上げると、その拍子にストップウォッチがポケットから落ちた。

「あっ」と言った瞬間、上の娘がストップウォッチを拾い右のボタンを押してしまった。

「ピッ」

その瞬間 自分の周りの雑音が消えた。

動かない娘の手からストップウォッチを取り上げた。


ストップウォッチのボタンを押す

「ピッ」

また、時は動き出す。


娘は手に持っていた物がなくなったので首をかしげている。

「何を買ってきたの?」と娘に話しかける。

「ひみつ」娘が言う

「あっそうですか。別にママに聞くからいいよ。」

「聞きたい?教えてあげようか?」

「じゃ、教えて」

「かわいい洋服」にこにこしながら娘が言う。

この時間が幸せだと思いながら・・もう一方で別のことを考えていた。ストップウォッチの取り扱いは気をつけなければならない、ただ今回、収穫もあった。自分以外の人間がボタンを押しても時が止まるのは所有者だけ。

ん、待てよ。取説の3行目、

『最後に時間を止めた人が死亡した場合、現在の所有者の所有権は放棄されます』

もしかして、このストップウォッチを他の人(所有者以外)が押してから、押した人が死ねば・・・

私の所有権は放棄される・・・そうとも取れる内容だ。ただ簡単に確認はできないな。



数日が経ち、仕事が終わり家に帰ると

「ただいま」

「お帰りなさい。そうそう今日、高橋さんって言う記者さんがお見えになったのよ」

「あー例のショッピングセンターの事件の件だろ」

「ちがうよ、コンビニ窃盗の件なんだって」

そっちで来たか

「へーそれで」

「何でもあなたが毎朝立ち寄るコンビニの近くで、交通事故で亡くなった人が犯人じゃないかって言ってわよ」

「ふーん、それで」

「あなたが大事にしている様な黒いストップウォッチを持っていたそうよ」

「あーこれね、前回来た時も同じことを聞かれたよ」

「あらそう。それを見せてほしいんだって」嫁がストップウォッチを指さす

「別にかまわないけど、あと何か聞かれた?」

「どこで手に入れたとか、いつから持っているのかとかそんなこと」

「そうなんだ。あいつなんか胡散臭そうだから気をつけろよ」

「はーい、ご飯出来てるわよ。」

「ありがとう、今日は何?」

「あなたの大好きなハンバーグ」

「それは楽しみだ」

食事をしながら、高橋のことを考えていた。

あいつはどこまで知っている?俺がストップウォッチを持っている事は前回話したか?いや話していないはずだ。

どうせ探りに来ているだけだ。しかし俺がストップウォッチ持っているのはわかったわけだ。

あいつなら次はどう出る。いつから持っているのか聞いてきた時点で、コンビニの窃盗犯とこのストップウォッチが同じものだと思うはずだ。

そもそもあいつは何がしたい?この能力がほしいのか?それとも・・・・

考えているうちに一つの疑問が生まれた。

そもそもこのストップウォッチは ほかにあるのだろうか?・・・


一週間ほどが過ぎ、夕食を食べていると突然

「ピピピピピピピピッピピピ」

携帯が鳴った。

誰だろう?初めて見る番号だ。食事中なので席をはずして電話にでた。

「ハイ、石神です」

「こんばんは、高橋です」

「おい、何で俺の携帯番号を知っているんだ」思わず大きな声を出してしまった。

「先日、教えて頂きませんでしたか?」

「教えてないはずだが」

「そうでしたか?なぜで知っているんでしょうね。あっ、そうそう知っていますか?東京で面白い事件が発生してるんですよ。例の超能力者だと思われる」

「東京で?」

「そうなんですよ。明日取材に行こうと思っています。」

「そうですか、がんばってください。」

ピッ 携帯電話を切った。


このストップウォッチは2個あるのか・・・それともハッタリか?

もし、2個あるならば時間が止まった空間は共有できない・・。


今は動かない方がいい。

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