スタンド・バイ・ミー
気分はまるでスタンド・バイ・ミーだった。
小さなリュックにありったけの想いと、少しばかりのお菓子を詰めて。
浅いストローハットを深々とかぶるあの子の小さな手を握ると、僕らは並んで歩き出す。
たかだか隣町に行くってだけで何を大げさな事を!と思われてしまうかもしれないが、少年の日の僕らにとって、それはとてつもない大冒険だった。
整備された歩道にはワクワクとドキドキは存在しない。
だから僕らは敢えて山道を越えて行く。
自分の背丈よりも高い草木をかき分け、時には清らかな小川に足をつけて休んでみたり。
今なら車で20分程の道のりを、あの日の僕らは随分と時間をかけて歩いたんだ。
ベン・E・キングの歌詞の意味なんてさ、あの頃の僕らにはサッパリ理解できなかった。
「ねぇ、次はどこへ行こっか?」
僕に向けて不意にあの子が尋ねた言葉。
僕は答えるんだ。
「君が側に居てくれるのなら、目指す先やたどり着く先なんか大した意味なんてないし、何処だっていいんだ」って。
僕の言葉にあの子は首を傾げるだろうか?
大人になった今、ベン・E・キングのそれの意味にやっとたどり着いた気がした。