ゲーマーにとって「人外」とか「人間やめてる」は褒め言葉だそうです
エタってません
1:10 pm 海岸エリア
飯を終えてログインした俺たち6人は、もはや恒例となりつつある海岸エリアでの戦闘練習を始めていた。幸運なことに俺たちの番は最後の方、さらに言えば時間が異なる為被ることもなかった。正直被ったら勝てる見込みはなくなるから、ホッとした。
「じゃあまずはゆっくり撃ち込んでくから、思った通りに動いてくれ」
今相対しているのはカイだ。俺の練習相手を買って出てくれたこの幼馴染は相当強い。一部では優勝候補とさえ言われているらしい。そんなカイの攻撃を全部、とは言わない。8割、いや半分でも受け流せるようになれば…と僅かな希望を抱いている俺である。
「いくぞー」
些か間の抜けた声とともに、カイはまずゆっくり木剣ーー今回の為に安価で購入した練習用ーーを振り下ろした。それを俺は、
「ほいっ」
野球選手がするように杖を握り、木剣を横から軽く弾く!
カンッと乾いた音が響き、俺の杖に根元を叩かれた木剣の軌道が逸れる。これは学校の剣道の授業でやったから復習のようなものだ。…なんて言ったかなこの動作。
「よし、じゃあ続けていくつか」
そう呟いたカイは、俺の横で空を切った木剣の切っ先を翻し、下段から切り上げてきた。ならば!
「はっ!」
杖を握る左手は木剣を滑らす為下へ、右手は離して縦一直線になった杖の上部を手のひらで支えた。
予想通りというか、斜めに構えた杖に滑るような角度で入った木剣は、木製同士をこすらせたような音を立て上へ滑っていく。
「いいじゃん。じゃあスピード上げていくぞ!せぇぇぇい!」
1つ1つの動作にホッとしている段階の俺に、急にスピードの上がった剣技が迫った。
「ちょっ、カイ!速いって!」
カンッだった音は次第にガッガッという衝撃音に変わっていく。心なしかカイは嬉しそうに笑っていた。まるで好敵手を得たかのように。
1:50 pm 海岸エリア
『あなたの試合まで残り5分です!当該エリアまで転移しますか?』
カイによる稽古と言う名の一方的な撃ち込みは、インフォが鳴り響くまで続いた。
「最初はぎこちなかったけどだいぶ改善したんじゃないか?」
汗を拭うような仕草を見せるカイに対し、俺は這々の体で砂浜に倒れ伏した。出す声も掠れている。
「…そりゃ良かった…」
と、砂を踏む音が複数聞こえた。カイ以外の4人が近づいたのだろう。
「2人とも凄かったねー」
「私なんて最後の方目で追えなかったわよ?」
「カイがアホみたいなんはいつも通りとして。ソバタも大概、人外なんちゃうか?」
女性陣3人が慰めてくれる。見えていないが、声からしてゆき、カナさん、プロムだろう。お世辞ではあるだろうけどやはり嬉しいものだ。頑張った甲斐がある。…いや待て。
「…人外は酷いな。現にカイにボコボコにされたわけだから」
ここまで言った瞬間、俺の体が持ち上がった。どうやら誰かが大の字で転がる俺を引っ張り上げてくれたようだ。
「ほらよ。そもそも忘れそうになってたけどソバタ、お前はソーサラーだからな?カイの猛攻についていけるソーサラーな時点で人外な」
どこか呆れた口調で聞こえたのは三条の声だった。持ち上げてくれたのは三条だったようだ。
「大丈夫か?もう試合なんだろ?」
こう言う細かいところで心配してくれるのが三条なんだな、と出会ってから数度と感じたことを思い出す。
「ああ、少し休めば問題ないな。…そういえば俺は転移できるけどみんなどうするんだ?」
鍛錬をここで続けるならいいが、見にいく場合は走って会場まで戻らなければならない筈だ。
「ソバタ、フライお願いね?」
「俺が転移しても問題ないのかな…まあ掛けてみるか〈フライ〉!」
俺を除く5人の体が浮き上がる。これ、俺が転移した瞬間効力が切れるとかならないのだろうか。
「じゃあ全速で会場まで行くから!始まってすぐ負けないでよね!」
がんばれー、と口々に言い残し、みんな飛んで行った。
…じゃあ俺も転移するか。
『会場へ転移します!』
フッと意識がボヤけ、視界が暗転した。