ムキムキはなりたいけど好き好んで見たくはない…かな
現在、戦場に立つプレイヤーは8人まで減っていた。三条はもちろん、奇跡的に俺も生き残っている。全員戦闘がひと段落ついたのか、互いに間隔を離して周囲を伺っている。勝ち抜けるのは4人だったから、それぞれが1対1で勝負する流れか?
ちなみに炎上していた変態はもういない。最後の方で抱きつかれかけたが、さすがに変態のHPが尽きるのが先だったようだ。彼は俺の目と鼻の先で消えていった。「もう少しで抱けたのに…」と言う不穏な一言を残して。
…さて、戦場内の立ち位置からして、恐らく俺がぶつかるのは正面の男だ。男も俺を見つめている事から、あちらも俺を相手として認識したのではないだろうか。戦闘前に観察しておこう。
そいつは茶色の革ジャンのようなものに機能性の高そうなズボン、左手には弓を抱えていた。見たところ軽装の狩人、と言ったところか?注意する点はその腰に見え隠れする柄。恐らく短剣だ。つまり接近戦も視野に入れているのだろう。
俺が勝つにはどうしたらいいだろうか、と思考を加速させる。俺の杖はリーチがそこそこある分、それよりも内側に踏み込まれれば相手の土俵だ。それは避けたい。残るは遠距離であるが、それも出来るか微妙だ。なにせ相手は弓を持っている。鳩もそこそこの速さではあるが、相手の技量次第では辿り着く前に全て撃ち落とされてしまうだろう。フライを使って飛ぶのもおそらく悪手だ。あれは矢への対応に集中した時にバランスを失えばすぐ墜落してしまう。
ならば…どうしたらいい?杖の届く、でも弓も短剣も届かない距離をキープしかないか。また難しい注文ではあるけど、やるしかない。
俺の手札は魔法関連で鳩、トランプ、アテンション。武器関連で杖か。やはり杖と鳩の手数で押すのがベストだろう。しかしそれを繰り出すタイミングは重要だ。杖で相手を倒す場合は、鳩で注意をそらさなければならない。その場合はアテンションも使うことになるだろう。鳩で倒す場合には、俺に注意を向けさせる必要がある。どちらもおそらく一回やれば二度目は対応されるだろう。カイを見てわかったが、二度は通じないのがゲーマーだ。
…どちらも決め手にはなり得ないな。その原因は俺のステータスの振り方にあるが…ん?待てよ、俺のATKとMATKを両方足せば足りるんじゃないか?
つまりこうだ。鳩と杖による同時攻撃だ。それには第3の手段で注意をそらさなければいけないが…
「さ、じゃあやろうぜ、噂の奇術師君!」
俺の準備が終わったと思ったのか、向こうから声をかけてきた。自信満々な、男にしては案外高い声である。
「噂がどういうものか知らないが…まあ、始めるか」
思考は中断したが問題はなさそうだ。要は接近戦の応酬の中で機を見つけることが出来れば俺にも勝機はあるだろう。難しいが、やるしかない!
互いに自身の獲物を構える。距離は…約100mくらいか。相手まで一直線でも15秒はかかるな。その間は矢が飛んでくるはずだ。鳩に守ってもらうか。
「〈アテンション〉〈マジカルピジョン〉〈マジカルピジョン〉〈マジカルピジョン〉〈マジカルピジョン〉」
勿論全てを防御に回す愚はしない。相手の射撃を邪魔する為にも呪文一回分の鳩たちを複数の軌道で着弾させるため、大きく弧を描いて飛ばした。幻で出した鳩は俺に集中させる為、俺の後方に配置した。
俺が走り出したのと、相手が矢を放ったのは同時だった。まずは一本目…
急速に向かってくるそれを視界に収めていた俺は、急に矢に強い印象と細かい座標が流れ込んできたのを感じた。矢の周りに赤い気のようなエフェクトがチラチラ見える事から気のせいではない事がわかる。…これはもしかしてロックオンのスキル効果であろうか?いきなりでびっくりはしたが、今はありがたい。矢を撃ち落としやすくなった。
一番近い鳩で迎撃する。鳩に刺さったその矢は、勢いを相殺にはできなかったものの当たってもダメージがない程度まで減らせた。
俺はそのことにわずかな安堵を覚えつつ、さらに脚を進める。相手は既に矢をつがえているが、その顔は…焦り?何か問題でもあったんだろうか。
残り約80mになったところで第2撃が放たれた。今度の矢も狙いが良いのか真っ直ぐ飛んでくる。これも俺は予め配置してあった鳩を微調整し矢を防ぐ。素直な射撃はほんとに対処しやすいな。
一方で相手方に飛ばした鳩は急接近し…ドドドッ!と派手な音を立て相手に命中した。アテンションの効果もあって全く気づいていなかった様子で、バランスを崩し転んでいるのが見える。よし、このうちにさらに!
俺は残りの鳩を追撃に行かせ、自分も更に駆ける。70…60…50…どんどん距離が縮まるが、一向にこちらへ矢は飛んでこない。弓矢は諦めたのだろうか。よく見れば相手はボロボロになりながらその手に短剣を握り、弓矢は下に置いている。
「くそッ魔法使いが動けるなんて聞いてねえぞ!」
想定通りだ。このまま短剣の範囲外から攻撃を加えていけば!
「はあああああ!」
まずは走った勢いそのままに突きを放つ。だがこれは間一髪で避けられた。
「シッ!」
避けた相手は短剣を切り込んできた。その銀色の凶刃を俺も必死に避けるが…、腕を軽く斬られてしまった。
「グッ…」
今まで感じたことのない痛みに、思わず声が出る。痛い、痛い!
しかし冷静に対処し続けていたからだろうか。痛みは感じるものの、堪え切ることができた。また、痛みのおかげか、戦闘前のシミュレーションが不意に思い浮かぶ。…忘れてた。相手の動きを誘導して自分の土俵に持って行かずにどうするんだ!
気を取り直し、再び上段から突きを放つ。対する相手は避けた後短剣を逆手に持ち、伸ばした俺の腕を切りつけにくる。だがこれは予想した通りだ。最低限の動きを持って叩き落とす!
「フンッ!」
極限の集中力を以って杖を操作する。心持ち時間がゆっくり動いている気もする。
伸ばした右手を戻し、杖の端を掴む左手を前に伸ばす。これで杖は右に…相手の短剣をに当たる!
カンッと金属がぶつかる音がし、短剣が弾かれる。動画で見た通りに杖を使えたかな?
「せえい!」
左手を杖の中央に滑らせ、今度は左側を先にし、相手に叩きつける!鳩の追撃を恐れたのか相手は後ろに飛んで避けるが…それこそ俺の狙いだ。叩きつけると見せた杖を先端を相手に向けた状態で横への運動を止める。同時に、
「はあああああ!」
杖の真ん中を持つ左手と右手に渾身の力を込め、突く!
「〜!!」
ドンッという音と同時に声にならない悲鳴が聞こえる。まあそりゃ、こんな質量の塊が服しか着てない腹に当たったら痛いよな、うん。
そう考えている間に最後の仕上げの準備をした。結果、相手は俺と対面しているにも関わらず上を向いてしまう。一瞬ではあったが、それは大きな隙だ。気づいてももう遅い。
俺は杖を剣のように大きく振りかぶって構え…撃ち下ろす!相手は俺の大きな動作に気づくが間に合わず、トドメの一撃を脳天に食らって倒れた。
ずばり、後ろに残っていた幻の鳩を上に飛ばしたのだ。結果、相手は幻の鳩に視線を誘導され上を向いてしまっていた。
敵を倒せた喜びと杖を振り回した疲労でホッと息をつく。やっと落ち着いた気が…
「痛!なんだこれ?」
同時に、脚に強烈な痛みを感じた。見下ろすと、そこには…短剣!?もしかしてどこかで投げられたのか?うーむ、間一髪の勝負だったんだな…
『決闘終了!』
『決勝トーナメント進出おめでとうございます!』
『種族レベルがレベルアップしました!』
『職業レベルがレベルアップしました!』
『奇術がレベルアップしました!』
『火魔法がレベルアップしました!』
『光魔法がレベルアップしました!』
『持久走がレベルアップしました!』
『軽業がレベルアップしました!』
『ダッシュがレベルアップしました!』
『回避がレベルアップしました!』
俺たちの戦闘が最後だったようだ。相手が消えると同時に、インフォが鳴り響く。俺の脳内には繰り返し、決勝トーナメント進出の文字が踊っていた。
「おーいソバタ!やったな!見てたぞ!」
遠くから三条が走ってきた。三条もどうやら決勝トーナメントに駒を進めたらしい。
「ああ、間一髪だったけど、なんとか勝てた!」
三条の声に、俺も叫び返す。勝てたという言葉を発した事で、より勝ったという印象がはっきりした。
これで俺も本戦に挑めるんだな!
お久しぶりです。毎度ながらの生存報告(゜∀゜)
ソバタ
人間 男 種族Lv22
職業 マジシャンLv10
ボーナスポイント14
ATK10
DEF2
MATK12
MDEF2
SPD11
DEX11
LUK2
セットスキル
SP残32
火魔法Lv14 光魔法Lv22 闇魔法Lv18
雷魔法Lv8 時空魔法Lv17 奇術Lv23
鑑定Lv30 軽業Lv32 識字Lv10
魔力回復上昇(微)Lv24 持久走Lv6 罠Lv4
ダッシュLv9 敵感知Lv20 回避Lv17
隠蔽Lv5 殴打Lv3 高速詠唱Lv14 杖術Lv8
水泳Lv22 マッピングLv- ロックオンLv1
取得呪文
ファイアボール
ヒートタッチ
ファイアアロー
フレイムラジエーション
シャインボール
ライト
シャインアロー
ホーリーライト
???
ダークボール
カモフラージュ
ダークアロー
イビルスピリッツ
ライトニングアロー
ボルトタッチ
ディメンションアロー
フライ
テレパス
マジカルピジョン
カード
アテンション
ジャンボ