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たたかう奇術師  作者: 金箔
5日目
40/45

予選開始!

エタってません(生存報告)

9:00 am 闘技場

『決闘開始!』

会場のアナウンスとともに戦いの火蓋が切って落とされた。思わず杖を握る手に力が入る。そうだ、どこからきても対応できるように…俺は杖を3等分するように握り直す。これで左右の攻撃には杖の端、前からの攻撃は杖の中央で対応できる。と本に書いてあった。

さて、現状受け流すということが出来るかどうか怪しい為、さっきまで考えていた戦術は使えない気がした。他に何かないのか…と考えたところ、思いついたのは『能ある鷹は爪を隠す』だ。要は俺の手札を隠し、奇襲として使うのだ。

例えば俺が動きながら魔法が使えること。パーティ全員ができるから忘れかけていたが、さっきの試合を見て思い出したのだ。魔法職は普通、詠唱中は動けない。つまり、俺が動けないフリをした後に、安直に攻撃を仕掛けてきた相手に杖を突き出せるだろう。

そう思いを巡らす間、未だに剣戟の音は聞こえない。疑問に思い周りを見渡す。すると…

「「「…」」」

全員、誰を攻撃していいのかわからない状況であった。周りを警戒しつつ、迷っている状態だ。うーん…ここで攻勢に出れば全員の視線がこちらに向くだろう。それはつまり相手全員が攻撃の矛先を見つけるってことだ。それだけは避けたいが…

「俺がいくぞ!〈クラッシュ〉!」

と、聞いたことのある声と共にこの試合最初の剣戟音が響く。そちらを見れば、三条が斧を思い切り振り抜いた後であった。フリ抜かれた相手と思しき人はだいぶ吹っ飛ばされていた。あれは痛そう…

「三条!いたのか!」

俺が駆け寄ると、三条は片手を上げて挨拶の代わりとした。

「ソバタ、チーム組もうぜ。俺たちならこの相手全員敵でも勝てるな!」

三条は不自然に大きい声でそう言った。ふむチームか、確かに4人の勝ち抜きならそういう考えも…いやちょっと待て。不自然に声が大きい?

そこまで考えた時、ブワッと何かを背筋が感じ取った。例えるなら強力なモンスターから向けられるもの…殺気?

周囲を見れば、全員こちらに獲物を向けている。お、おい…

「三条、声大きいって。相手刺激してどうすんだよ…」

諌めようとした俺に向けられたのはグーサインだった。

「これくらいないと楽しくないからな!じゃあ後ろは任せたぜ!指示も出してくれ!」

三条の無茶苦茶な注文に頭が真っ白になり…

「おまえはもっと楽しめよ!」

続けて放たれた激励に目が覚めた。

楽しむ…そうだな、これはゲームだから楽しまないとダメか。ならとことんやってやる!

俺は被っていたシルクハットを取り、穴を上に向けた。更に杖をシルクハットにかざす。

「行くぞ!〈マジカルピジョン〉〈マジカルピジョン〉〈マジカルピジョン〉〈マジカルピジョン〉!」

魔法はやろうと思えば視認できる範囲なら何処からでも撃てる。なら、ここからでも…

詠唱とほぼ同時に、何もなかったはずのシルクハットの中から次々と鳩が飛んで行く。セットした火と雷、光が派手に煌めいている。

「「「おおおおー」」」

即興の手品もどきに、観客や相手からどよめきが漏れる。闘技場は束の間、俺のステージに変わった。

「いいねぇ、まるで手品みたいだ!」

後ろを振り返った三条に言い返す。

「タネも仕掛けもありませんってな」

一度上空へ飛んで行った鳩たちを呼び戻し、俺の周りに付かせる。と同時に三条へ指示を出す。

「じゃ、前の奴らを頼む」

俺は杖を握り直し、火の鳩たちを三条より先に相手へ着弾させた。続けて三条が斧を振りかぶり、襲いかかる。

「うおっしゃあ!」

ガッと鈍い音を立てて、よろけていた相手はそのまま斧に殴られ、地に堕ちた。

ようやく状況が読み込めたのか、他の相手も続々動き出した。こちらへ向かってくるもの、各々戦い出すもの、ひたすら逃げるもの。みんなそれぞれの動きを始める。俺は俺で鳩が突撃したら補給するいつもの戦闘を展開した。と、

「私が相手だ!行くぞ!」

突然、渋い声の敵対宣言が響き渡った。まるで日本の昔の戦のような掛け声ーー実際のものは知らないがーーに思わず振り向いた。果たしてどんな相手に挑んだのだろうか。

…ん?1人の男が突っ込んできている。もしかしてこの人がさっきの声なのか?

それは黒いスーツを着…いやタイツ…?いやこれは裸だ!服に見えたのは日焼けした肌か!

「裸は帰れ!」

黒く日焼けした上半身を輝かせながら拳を振りかぶるその男は、どこからどう見ても変態だった。

「全裸ではない。ふんどしを履いているだろう?」

パンチを放ちながらも冷静かつダンディな声で話しかけてくる。まあ確かに下を見れば申し訳程度の面積のふんどしを巻いていた。これ、ポロリはあるんだろうか、ポロリ。いや期待してないけども。

このゲーム、ムンコといいこの変態といい、やけに嫌な部分だけ現実味が深くてその…なんというか奇抜性が強調されている気がする。

鍛え抜かれた肉体から繰り出された右拳は鋭かったが、俺は間一髪で後ろへ避ける。更に追撃とばかりに左拳が出てくるが、いつまでも避けてばかりの俺ではない。いつでも行けるように構えていた杖を突き出す!

「はああああ!あれっ!?」

勢いよく繰り出した杖は変態を直撃し…ぬるっという擬音とともに滑る。

「ファッハッハッ!私の身体には特製の油がベットリと塗ってある!多少の攻撃ではまともに入らないのだよ!」

気色の悪い発言を聞き、ますます戦闘意欲が薄れて行く。うわあ…逃げたい…

「さっさと沈んでくれ…」

滑らないよう杖を体に垂直に入れようと試みるが…結果は芳しくない。何度か良い突きが出来はしたが相手もまたそれを見越して鍛錬を積んだのであろうか、全て嫌な感触を残して左右へ、上下へとずれていく。このままでは先に有効打を当てられてしまうな。なにか状況を打破できるものは…

「ちなみにこの油は洞窟深部に生息しているガマガエルから採取したのだ!今ならなんと一本200Gな!」

考えを邪魔するかのように、矢継ぎ早に口を開く変態。いや、それを言われて尚油を買いたい人なんていないだろ…なんの通販番組だよ。

油…ん?油って…よし。

考えが不意にまとまった。

「〈マジカルピジョン〉」

俺は虚空から鳩を呼び出す。セットした魔法は、火だ。ここまでくれば分かる人もいるだろう。

「行け!」

火を纏った鳩たちは一直線に変態へ向かう。俺との攻防に集中していた変態は一拍遅れてその事実に気づいたようだ。急いで距離を取ろうとするが…もう遅い。鳩は変態の身体に…油でテカテカの身体にその火を引火させる。

ゴウッ!

激しい音と光、熱を伴って炎上する。うわ、なんというか…

「人間キャンプファイヤー?」

ある種壮観な光景に立ち尽くす。いや、中身は見えないからグロくはないのだ。皮膚が焦げることなく燃え続けてるって感じで。

「熱い!動きながら魔法使えるとは予想外!一本取られたわ!」

俺の呟きに炎上中の変態は叫びを返した。なんかこの変態、燃えながら笑っているんだが…もしかしてそっちの気も?

「だか!私が死ぬまでに気を抜くとはまだまだツメが甘いぞ!」

そう言うや否や、突然に変態は走り出す。おい嘘だろ!?

「来るなぁ!」

さすがにこれは杖を突いても杖が引火しそうである。逃げるしかない!

俺は脱兎のごとく走り出した。ここに火を纏って追いかける変態との追いかけっこが始まったのだった。なんでこんな長い間死なないんだよ…

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