なお楽しみでこのあと眠れない人の図
前回のあらすじ
模擬戦
11:05 pm 研究所内・中庭
変則ルールを用いた決闘はログアウトまで続いた。最後の方はフライを用いた空中レースしていたのだが。
ログアウトした後はいつも通り着替え、現在コーヒー片手に中庭のベンチに座っている。ここにはそこそこ自然も残してあり、やはり機械ばかりの屋内より幾ばくか落ち着くのだ。それに…
「ね、それで、そのミスリル球はどうするの?」
隣に座るフェイと話せるのが大きいな。
「そうだな…フェイ、杖に組み込めるか?」
俺が聞くと、フェイはにっこりしてグーサインを出した。
「任せて!あー、でも時間はかかるわよ?闘技大会出るんなら終わった後になっちゃうけどいい?」
聴きながらコーヒーを啜ると、マグカップの中は空になっていた。
「もちろん、それでいいよ」
フェイの手元を見れば彼女のコーヒーも無くなっていた。
「それにしても今日は色々あったのね。充実してる感じかしら?」
そうだな、とフェイの言葉に心の中で同意する。海中探索から始まって迷宮を見つけ、迷宮で迷って。カイたちに助けて貰ってから迷宮を踏破して魚人の城を見つけ攻略したのだから。今日は他の日よりも内容が濃かった気がする。
…あの城と配備されていた魚人の数を見た時は無謀そのものと思ったが。
「充実してる…うん、してるな。そういうフェイはどうなんだ?」
生産職の日常も気になる。ずっと鍛治を続けていたりするんだろうか。
フェイはうーん、と首を傾げてから口を開いた。
「私は色んなものに手を出してるから普通の人とは違うかもしれないわね。アクセサリを作ってみたり、師匠について鍛治を体験してみたり。ギルドの依頼に駆り出されてモノを供給したりかしら」
そう喋るフェイは楽しげであった。充実してるかなど聞くまでもないだろう。その笑顔を見て俺は少しほっこりした。
「…アクセサリってなんだ?」
アクセサリと言えば幼稚園くらいの時に女の子がプラスチックの宝石などで遊んでいた記憶があるが…
「そうね…装備した人の能力を上げたりするものよ。腕輪とか指輪、後は首飾りね。ソバタくんの場合は前に出てケーンを振り回すこともあるし、あんまりジャラジャラしたものをつけてると逆に邪魔になるから覚えておいたほうがいいわね」
「なるほど…」
今度フェイに見繕ってもらおうかな。自他共に認める服のセンスの無さがあるから、俺が選ぶときっとおかしなことになる。カイに笑われるのだけは癪に触るんだよな。
「いつかでいいから、俺にも作ってくれるか?勿論、料金は払うし」
言うのにちょっと恥ずかしさを覚えたこの言葉に、フェイの目が輝いた気がした。さっきも見たが、これは恐らく生産職の目なのだろう。苦境に陥ったカイたちに通じる真剣さに興味が綯い交ぜになったような光がある。
「任されたわ。…ふふ、どんなものを作ろうかしら」
こうして俺はフェイにアクセサリの約束をし、別れた。
明日は遂に闘技大会だな。フェイに誇れるくらいな活躍はしたいところだ。俺にしかできない戦い方で勝ち抜いてみせる!