魚人の口調はギョ
前回のあらすじ
入城
5:10 pm 秘蒼城・一階ロビー
俺は決められた扉を全て確認し、集合場所の階段の麓まで戻ってきた。どうやら一番乗りのようだ。
残念ながら目立った成果はなかった。見つけたものといえば魚人が持っていた槍のようなものだけだろう。簡素なベッド…のようなものなどが置いてあったので、どうやらこのエリアは魚人の居住地のようである。しょんぼりしながら周りを見れば、扉を開けては閉める他のみんながいた。その表情が優れないところを見ると、俺と同じで大したものは見つからなかったのだろう。と、ゆきが帰ってきた。
「お疲れ。めぼしいものはあったか?」
期待薄に問いかけると、露骨に残念そうな顔をしてゆきは、
『なーんも』
レアアイテムがあると息巻いていたゆきだけに、ショックも大きいようだ。今は言葉が少ない。
帰ってきた他の四人も似たようなものだった。
『気を取り直して階段登るか。ここまで誰もいないとかえって不気味だな』
部屋を探索していたこの時間、モンスターは全く見かけなかった。もしかして門の前でどんぱちした魚人で全部なのだろうか。
『奥の部屋で待ち構えてる!とか?「ふははは、よく来たな」的な』
ゆきがよくわからないモノマネを交えてきた。そもそも…
『モンスターが喋ってるの見たことないぞ』
そう、今まで遭遇した魚人は何も喋らなかったから俺も喋らない設定なのかと思っていたのだが。
『イベントによっては喋るって聞いたよボク!ほんとだもん!ムンコちゃんが言ってたー!』
誰も信じた顔をしないゆきは頬を膨らませる。まて、ムンコちゃんってあのムンコか…信憑性あるのかそれ。
話がひと段落したところで移動を開始した。長く続く巨大な階段は、外側からの見た目とは裏腹に、一直線に続く。尖塔の中とかいけないのかな。そんな道は見つからなかったし。
5分ほど泳いだところで大きな扉の下に辿り着いた。
「なんか強そうな雰囲気あるな…6人で本当に大丈夫なのか?」
『どうにかなるだろ。まあ強いて作戦を立てるならソバタのテレパスを通してカナが全体の指揮をとる、くらいか?』
「んなまた適当な…」
まあ敵の陣容もわからないのではどうしようもないか。
俺が不安に駆られている間に、カイが扉に手を添えて言った。
『んじゃ、行くぞ。気合い入れてけ!』
『『『『了解』』』』
「お、おう」
カイが添えた手に力を入れる。同時に、重厚な扉が少しずつ開いていった。
「…暗いな」
中は真っ暗だった。前回の牛頭馬頭のように中に入ると照明がつくのだろうか。
『入るぞ』
カイの号令に従い、中へ足を運ぶ。と、急に辺りが明るくなった。光の元を辿れば、上に巨大なシャンデリアが飾ってあった。俺は審美眼があるわけでもないが、あれはロビーにあったものより大きく、豪華絢爛であるだろう事は分かる。
視線を前に戻せば前方奥にはモンスターの集団がいた。一番前には数え切れないほどの見慣れた魚人。その奥には背丈が一回り大きい魚人がいる。その手に持つのは…杖?魔法が使えるのだろうか。数は大体10体程度か。さらに奥には杖持ちと背丈が同じくらいの魚人が控える。杖持ちと区別した理由は、その体躯にあった。ボディービルダーのように鍛え抜かれた逆三角形のフォルムである。あれの槍を喰らえばひとたまりもないだろう。数は5体だ。
一番奥には玉座らしき椅子に踏ん反り返る魚人がいた。一番奥で座っていると言う事は、王、つまりボスモンスターなのだろう。しかし…
『あの一番奥の、王っぽくないよね』
ゆきが指をさして指摘したように、その表情には怯えが見える。なんというか、狭量の狭い王とでも言った風だ。
その魚人の王はゆきの言動にに侮辱されたとでも感じたのか、瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にしていた。両拳は椅子に打ち付けている。なんだろう。めちゃくちゃ怒ってるな。
『イベント【魚人王の怒り】を開始します!』
遠巻きにそんな様子を見ていると、こんなインフォが流れてきた。これ、イベントだったのか。という事は…
『ギョギョ!お前ラァ!よくも私の城を荒らしてくれたな!許さァン!』
魚人王が喋り出した。城を荒らしたことに怒ってるのか。部下を倒したことじゃなくて?あっ…察したぞ。
『人望なさそうだなあの魚人』
「それは言ってはいけない」
カイは思ったことをそのまま口に出していた。