自室にカレーのルー置いてあるっておかしいだろ?
初めてお目にかかります。金箔です。なんとなく暇なのでちょこっと書いてみました。
ーーー20XX年、著しく発達したVR技術は医療ばかりか様々な形に変え、人々に恩恵を与えてきた。そして先駆けて開発していた人気ゲーム会社・三雲遊戯は、遂にVRMMOを完成させた。ずばりゲーム名は、「Saga Owner's Online」略してSOO。今回我々は、開発部の葉月啓介に取材することができた。ーーー
雑誌から顔を上げ、時計を見る。時刻は朝6:30。幼馴染にして悪友、佐藤海斗との集合まであと30分あるな。みなさん、朝が早いと思うかもしれない。俺も思う。なんだって夏休みの2日目にこんな早起きしなきゃならないんだ、と。家族が誰も起き出さないため一人分のコーヒー、パンしかテーブルにはない。普段と違うところをさらに挙げるなら、テーブルの横にデカめのスーツケースがあることか。これは俺のだ。なぜかと言えばーーー〈ピンポーン〉…海斗なんだろうなぁ。あいつはいつもそうだ。集合時間を決めるとその30分前には行動したがる。全くもって理解できない。
だからと言ってあと30分ドアの前で海斗を待たせるのもどうかと思い、俺はドアを開けた。まあ実はドアを開けたら別の人が、と言うこともなく、お出かけ完全装備の海斗が立っていた。
「よう健太!おっはー!今日は待ちに待ったβテストだぜ!はやくいこーぜ!」
「相変わらず朝からハイテンションだな…まあ待て、まだ朝食中だ。面倒だから中入って待ってろ」
そう、今日はVRMMOの最初の作品となるSOO、そのβテスト初日なのだ。βテストでは応募した中から選ばれた200人が2週間、施設に篭ってゲームをプレイする。勿論、日本中から応募は殺到した。俺はあまり乗り気ではなかったのだが、海斗が勝手に俺の分も応募して、その無駄に強い運で当て…今に至る。
「お邪魔しまーす…ってその雑誌、SOOのじゃん。なんだかんだ言ってお前も興味あんじゃねえか」
海斗は勝手知ったら家のように物色しだす。まあまあ慣れたからなにも言わないが。
「そう言うわけじゃないんだが。昨日気付いたんだが俺はこのゲームについて何も知らん。…少しくらいは情報無いとどうしようもないだろ?」
手早くパンを頬張りながら反論するが、本当に何も知らない状態で始めたらひどいことになるのは目に見えている。前に海斗に勧められたゲームをやったことがあるのだが、複雑かつ説明らしい説明もなくやったせいでチュートリアルすら突破できなかった。習うより慣れろ?無理だ。
「よし食い終わったな?じゃあ行こう!そしてしよう!」
早速荷物を持って飛び出そうとしたいた海斗を宥めにかかる。
「わかった、わかったから。少し落ち着け。まだ集合まで2時間有るだろ?移動に1時間しかかかんないんだからもうすこしゆっくりしても「だめ」はぁ…いくか」
スーツケースを持ちながら思った。なんだかんだ俺も甘いな。
11:30 am 三雲遊戯研究施設・中庭
俺は少し早めに着いたあと、海斗と談笑しながら集合時間を現地で待った。ここは三雲遊戯がSOOを開発している特別な施設と聞く。
「ここで2週間すごすのか…」
こういうことは新鮮で、つい口に出てしまう。海斗じゃないが、やはり少しは俺もワクワクしているらしい。と、中庭のお立ち台?に人が登って来た。どうやら開会式が始まるらしい。
『マイテス、マイテス。よし。…ゴホン、ようこそ諸君。私が開発部長の葉月だ。君たちはこれから2週間、この研究施設でゲームを体験してもらう。私が言うのもなんだが、とても素晴らしいゲームが作れたと思う。でも完成にはもう少し。それにはβテストをしなければならない。君たちには思い思いにプレイしてもらって、SOOをより高みに押し上げてほしい。…以上!』
『では、以後の説明に入ります。…
開会式が終わった後、俺たちは各部屋へ通された。俺は211。海斗は212だった。何故海斗が隣の部屋なのかは…もう運命を感じるほどだ。
部屋には専属の研究員が2人付いていた。俺たちテスターはゲーム中浴槽のようなところに入り、全身を秒単位で検査してくれるらしい。
説明によれば1日のスケジュールはこうだ。
6:00起床
6:30朝食
8:30ゲーム開始
12:00昼食
13:00ゲーム再開
18:00風呂(大浴場有り)
19:00夕食
20:00ゲーム再開
23:00就寝
…なんというかまあ、清々しいまでにゲーム三昧だな。付け加えるならこのゲームはβテストに限り、ゲーム中の時の流れが通常の2倍速であるそうだ。つまりは合計のゲーム時間は…23時間?まじか…海斗あたりは血涙を流すほど喜ぶだろう。初日は部屋の整理をして昼食を取ってから、14:00にゲームスタートの予定だ。まずは飯だな。どうせ部屋の外で海斗が待ってそうだな。早く行ってやるか。
1:00 pm 研究所施設内・食堂
俺は海斗と共に、食堂で昼食を頼んだ。昼食を部屋で食べると言う選択肢もあったが、食堂を一回は見て見たいと言う思いもあり(海斗が行きたいと行ったのが大部分で)、現在○リー○ッターの食堂にありそうな長机で、隣に並んで食べている。ちなみに俺はいつも海斗の左隣に座る。何故かって?俺は左利きだからだよ。ここで我が同志はピンとくるだろうが、左腕でご飯を食べると右腕でご飯を食べている左の奴とぶつかるのだ。昔は海斗の右に座ったこともあるが、何度もぶつかるうちに海斗との共通認識でも出来たのだろうか。いつからか自然に位置が決まっていた。それはさておき…
「海斗…お前昨日もカレー食べたよな?なんでまたカレー食べるんだよ」
海斗はカレー好きだ。どの程度かといえば、自室にルーを保管しているくらいだ。あいつの部屋はカレー臭い。
「いいだろ別に。SOO開発している人の食ってるカレーが気になったんだよ。いいぞーこれ、実は隠し味に…」
カレー談義が始まった為、俺は意識的にシャットダウンした。もう物心ついた頃から聞いているからか、カレーの話だけを意識からカットする事が出来るようになった。無駄な特技である。
ちなみに俺が食べているのは蕎麦だ。うむ。ここのはコシがあって(割愛)
1:58 pm 211号室
腹一杯食べたあと、俺たちは各々の部屋に戻り、最終調整をした。調整したのは俺ではなく研究員だが。
ーー遂に始まるのか…。情報によれば最初に選べるジョブはファイター、ソーサラー、ハンター、あとはマーチャントらしい。俺はどうするか。実は前々から考えていた。やはり現実では出来ないことがしたかったからソーサラーに決めた。
『午後2時となりました。各テスターはだいぶ開始してください』
館内アナウンスが遠くに聞こえる。俺は浴槽ーー本来の名称はわからないーーに横たわり、重厚感のあるヘッドギアをすでに装着している。電源も入っている。後は音声入力だけか。そういえば噴水前で集合と海斗は言ってたっけか。
「…ログイン!」
感想等是非