箸休め編 大阪健太の物語ー後編ー
この話は、ベーコンでレタスな表現を含みます。
お嫌いな方、苦手な方は次に進んで下さい。
読まなくても差して問題は無い!!
……書きたかったんやー、どうしても禁断症状が出て来たんやー勘弁したってー
鼓動が大きくなる心臓を落ちつかせるために吐く息も苦しくなる。
周りに変に思われないように頑張ってるけど大丈夫だろうか。チラリと此方を誰かが見たような気はするがそんな事を考える余裕は今の僕には無い。
高校入学式はつつがなく進み、新入生代表挨拶は彼だった。
あの頃の彼とは思えないほど、スマートにこなしている。
そして、溢れる拍手の音の中で彼と目があったような気がした…途端に震えだす僕の身体。
震える身体を必死に抑えながら、重い足取りで講堂を出て教室に向かう。
そして、担任からの諸注意とクラス1人1人の自己紹介が始まる。
彼の自己紹介に色めき立つ女子達。
あの頃のよりも、背はグンと伸びて体も大きくなり大人びた顔をした彼は女子受けする成長を果たいていた。
回ってくる僕の番は早口で終える。少しでも、記憶に残して欲しくないから…。
しかし、彼と一緒の教室は毎日が辛い。
朝は誰よりも早く来て机で寝たフリをして休み時間になるたびに教室を出て、昼休みは誰にも知られていない秘密の場所でご飯を食べ放課後はすぐに帰宅する。
徹底的に逃げた。
生活費は、祖父母が十分すぎる程の金額を出してくれるのでバイトをしなくてもいい。
高校生活がそれなりに充実して楽しいと思えた矢先、事件は起こった。
異様にダルい身体の中目を覚ました。
いつも起きる時間よりも遅い時間、いくら近いからといって遅刻をすれば変に目立ってしまうから、それは絶対に避けたかった。
重い身体を押しながら走ってギリギリ間に合った。
早くなる鼓動を抑える為に吐く息が苦しく、見える景色が霞んで見える。
何処かで感じるデジャブ感。
「あ…れっ、どう…し…て……。」
重くなる身体を支える事が出来なくなり徐々に倒れる身体、耳をつんざくような悲鳴に駆け寄る誰か。
…………僕を呼ぶ声に反応出来ない薄れる意識。
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気が付いたら白い天井でした。
薬品の匂いがする部屋のベットで寝ていた僕は体を起こす。
「よぉ、起きたのか?」
あぁ、僕は調子に乗ってたんだ。接触も無く辛くてもつつがなく進む毎日にどこかで…。
「風邪だって、もうすぐ放課後だからそれまで寝てろよ。」
僕をベットに押し戻そうとする力はやはり体の通り強かった。でも、どこかに優しさもあったような気がする。
素直にベットに横たわる僕を見ている彼。
何かを言おうとしている目線に耐えられず、僕は顔を逸らしてしまう。
しかし、彼の意を決した声が僕の耳に届く。
「……と、友達にならないか。」
驚愕で目を見開く僕に、頼りない笑みを浮かべる今宮はどこかあの少年と違って見える。
答えを待つ今宮に困惑する僕は震える声で応えた。
「よ、よよよ、宜しく、お、お願いします。」
安堵するように浮かべる笑顔はやはりあの想い出の少年に似ていた。
それからの僕達は、変わった。
朝会えば挨拶を交わし休み時間には取り留めの無い話をしたり、昼休みには僕の秘密の場所で一緒にご飯を食べ放課後にはたわい無い話をして帰った。
失った幸せを取り戻させてくれる幸福に僕は笑顔が増えた。
今宮と仲良くなる度に増える多少のやっかみなんかはあったが、そんな事は気にしないとでもいうぐらい僕の人生に於いては些細なことだった。
そんな生活が続いたある日だった。
今日も僕達は昼ご飯を食べる為に秘密の場所に向かっていた。
上へと続く階段を上りきった先にあるドアを開けた空間は少し暖かい風が吹いている。
ここは、僕が独りになりたくて探していたときに見つけた場所、今は僕達だけの秘密の場所。
「ここももう少しで暑くて使えなくなるかもなー」
今宮がそんなことを言うので、少し伏し目がちになると頭を撫でる感触がする。驚きバッと顔を上げると、バツの悪そうな目をした今宮と視線が絡む。
最近、今宮からのスキンシップが増えたような気がする。
いつからだろう?女子とよく喋るになったから?男子に絡まれるようになったから?
僕の中で今までに無かった説明のつかない熱が増えたから?
「いつまで、そこで立ってるんだ?飯、食わないのか?」
僕は慌てて意識を戻すと、今宮の隣で弁当を広げる。
2つ持った弁当箱の内、1つは僕の分。もう1つは今宮の分。
ここに来る度にパンばかり食べていた今宮を見兼ねて、1人暮らしの長い僕が弁当を作る役目を負った。
1人分作るのも2人分作るのも変わらないし、なにより初めて出来た友達の力になりたかった。
「人参とアスパラを豚肉で巻いて甘辛いタレで焼いた肉巻きはやっぱりご飯に合うね♪」
「……………………そうだな。」
いつも通りの美味しいご飯を食べていると笑顔は出るし、なにより話は弾む……と思ってた。
箸は進んでいるが終始難しい顔をしている今宮に話しかけても、どこか上の空な返事しか返ってこない。
「…ご飯、美味しくなかった?」
「…いや。」
「……どっか体悪いの?」
「……大丈夫だ。」
「………。」
「………。」
あぁ、こういう時の気の利いた言葉でも話せればよかったと後悔する。前に今宮と行った本屋で見た『気まずい恋人との仲直りの仕方』とか『嫌われないパートナーになる10の方法』とか……って僕は何を考えてるんだ!
自問自答しながら悶えていると不意に今宮から声が掛かる。
「……逢坂は好きな奴はいるか?」
「!?」
ギョッとする僕に今宮は衝撃的な告白をしてくる。
「もし、いないなら…俺は、どうだろうか。」
「…………………………!?」
思いもしなかった告白に僕の思考回路は次に出さないといけない言葉を見付けられず、口を魚のようにパクパクとして閉口するだけで音が出てこない。
しかし、どこからかが熱を持ったみたいに身体が熱い、心が熱い、顔が…熱い。
相手の顔がすぐ近くまで迫ってくるが、拒むことはぜずに流れに身を任せる。
どこか浮き足だった歩調で教室へ戻ると、そのまま授業を受けいつの間にか放課後になっていた。
少し人の少なくなった教室に一直線で今宮の席に近付く。少し照れくさいが嬉しい気持ちを抑えきれない僕達にお邪魔虫が忍び寄る。
「今日の日直は、集めたノートを職員室まで持って来てくれ。」
「…あっ、僕だ。」
行ってこいと言う今宮に僕は頷くと、教卓の上にある一クラス分のノートを持って教室を出る。
もう1人の日直は、さっさと帰ってしまったらしい。
やはり、一クラス分あるノートはそこそこ重く職員室まで着くのに一苦労だった。
それから、担任の長い話に捕まってしまい職員室を出る頃には、窓の外に紅い夕日が見える。
急いで戻る教室に人の話し声がする。
複数の話し声の中には今宮の声も混ざっている。
「それにしても、まさかマジで賭けに負けるとはなー」
今のは…今宮の友達で名前は……忘れた。
そんな事よりも、もっと重要な事を聞いたような気がする。
「本当にねー、まさかアレが直人に惚れてるなんて…笑える。」
「うべぇー、どうすんだよ。今宮、このまま継続すんの?」
「当たり前だろ、俺が何のために下手な芝居打ったと思ってんだ。あいつの家、地主やっててそこそこ持ってるんだよ。」
教室から聞こえる笑い声が遠くて聞こえない。
頭の中に響く声が繰り返される。
明るかった光にどんよりとした闇が迫ってくる。
僕はそっとその場所から離れ、自然と足は秘密の場所に向かっていた。
僕は、外を見つめている。
明るく悲しい色をした夕日に包まれて、滲んで霞む景色を眺めている。
どれぐらいの時間をそこに立っていただろうか、もう決心はついた。
あの時無くした心がまた壊れただけだ……
今度はこの壊れた心を持って旅立てば良いだけ……
この綺麗な紅い夕日に向かって…
楽しかったけど、やっぱりピュアはムズイ。
背中を掻き毟りたくなる。
あぁー、ベーコンでレタスはグッチョグチョが書きたい。