第十三編 やっと、始まり。
宿に戻って夕食を頂くことにした。
「お待たせしました、ボアボアのシチューに黒パンです。」
エルナは一口大に切られた肉に人参やジャガイモだと思われる野菜が入った少し濁った色をしたスープと黒色のパンをふた切れ、テーブルに次々と置いていく。見た目に反して鼻をくすぐるいい匂いに朝食しか食べてなくてとても空腹だったと思い出す。
「「いただきます!!」」
2人はあまりの美味しさにペロリと食べてしまった。
水のお代わりに来てくれたエルナに明日宿を発つことを言う。
「まぁまぁ、何かご不満でもありましたか?」
少し哀しそうな表情のエルナに慌てて訂正する2人。
少し気を取直したエルナにここら辺に街はあるかを聞いてみた。
「…それでしたら、ここから南に3日行った処にフルカンという街があります。夫が食材買い出しに行く街なんですよ。」
イイ考えがあると悪戯っ子のような顔を浮かべるとカウンターの向こうにいるであろう誰かを呼ぶ。
直後、カウンターの後ろにあるドアから茶色の髪をしたクマ耳の獣人が出てきた。
「オウ、ヨンダカ」
少し聞き辛い発音をしているクマ耳獣人がエルナの隣に立つ。
「ここの料理人で私の夫キノワです。アナタ、コチラハ、ボウケンシャノ、ノーダサントオサカサンヨ。」
「オウ、オレハキノワダ。ソレデドウシタ?」
「コチラノカタタチガ、アシタフルカンニ、イクミタイナノ。チョウド、ショクザイガナクナッテルシ、イッショニイッテクダサイネ。」
「オウ」
どうやら、フルカンの街までの道案内をしてくれるという。
此方としては願っても無い事だが本当に良いのかと言うと、払ってもらった宿代の分だし安全に街に着く為だから気にしないでと言うのでその言葉に甘える事にした。
「この人はこれでも元冒険者だったのよ。だから大船に乗った気でいてね。」
朗らかに笑うエルナの顔を見つめるキノワの優しい目にいい夫婦だなと思うのだった。
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翌朝、部屋を引き払う為に少し掃除をするが、殆ど使ってないので簡単!簡単!
この宿での最後の朝食を食べる為に食堂に移動する。
小さい村だからだろうか、客は俺達以外いないみたいだった。
少しすると、料理を持った看板娘シェルと女将エルナがやって来る。
「ホーンラビットのスープとくろパンです。」
シェルは料理をテーブルに乗せようとするが背が届かないらしい。それぞれ料理を受け取り食べてゆく。
「おにいちゃんたち、もうでていっちゃうの?」
小首を傾げて問いかけてくる。
そうだよー、寂しい?なんてちょっとした悪戯心でからかってみる。
「ううん、しなないようにがんばってね。」
あっけらかんとした口調で否定するとすぐにカウンターに戻ってしまった。
幼女ツメタイ。
熊の獣人キノワがが水差しを持ってやって来る。
「キノワさん、朝食美味しかったです。」
「…オウ」
オサカのお礼に照れたのか少し頬を赤くするキノワだった。
俺達は、ギルドで用事を済ませて戻ったら一緒に村を出ると言う約束を交わすと宿を後にした。
そして、場面は冒険者ギルドクバサナ支店解体場に場所を移す。
作業台の上に置かれているのは色々な魔物の爪に牙や耳、皮に肉、魔石に中には瓶詰めの目まであった。
「解体終わったぞ!」
「おはようございます、ノーダさん、オサカさん。」
手を振る筋肉隆々のガンツの隣にいたのはツリ目ナテウだ。
「申し訳ございません、此方の不手際で買い取る部位を聞いていなかったので金額をご用意出来ておりません。」
頭を下げたテナウが申し訳なさそうに言ってきた。
こっそりと使ったスキル観察で使えそうなやつを見繕ってそれ以外を引き取って貰う事にした。
ノーダ達のギルドカードを受け取ったテナウは一礼すると部屋を出ていき、買取り以外のやつをリュックサックに入れていく。
入れ終えると、テナウが袋と紙を持って帰ってきた。
「お待たせしました。此方が解体費を除いた今回の報酬、此方がその証明書になります。ご確認頂けましたらサインをお願いします。」
その紙にはズラッと事細かに買取り部位と金額が書いてあった。1番下には代表でノーダの名前を書いた。
「そして、こちらが御二方のギルドカードです。ご確認下さい。」
返却されたギルドカードを見た俺達は首を傾げる。
確かに、表示されている名前は俺達の名前で間違いないがカードが鉄から銅に変わっていた。
「あの、これは…。」
困惑するオサカの言葉に会釈をしたテナウが答える。
「ウインドスネークを倒しただけでなくこれだけ多くの魔物を討伐した功績により今日からお二人のランクがDに変わりました。おめでとうございます。」
テナウの賛辞にランクが上がる際の価値などは理解しているつもりだがこれから起こるであろう厄介ごとを考えると素直に喜べない2人だった。
ギルドを出た2人は、キノワの待つ若芽の宿へ向かう。宿の前には、一頭の馬に繋がれた馬車とキノワ一家が待っていた。
「すみません、遅れました。」
「イヤ、チョウドジュンビ、デキタトコダ。」
ノーダが謝るといつもの口調でキノワが言った。
オサカは馬車を興味深そうに見ている。
「気になるのかしら。私達みたいな庶民は、馬車と馬は厩屋に行けば借りられるからそれで街まで行くのよ。」
オサカの後ろにいたエルナが笑みを浮かべている。
オサカは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
「サテ、ソロソロシュッパツ、シタイガ、オマエタチ、ニモツハドウシタ?」
手ブラ同然の格好の俺達を見てキノワとエルナは不思議そうに首を傾げているし、シェルは大丈夫なのかな?とでも言いたげな顔をしている。
余計な混乱を避ける為に、スキルやマジックボックス等は秘密にしておきたいがどうしても止むを得ない事情が出来たり、信用出来る相手だったら話そうと決めていた。
そして、この一家は信用に値する人物だと判断を下し話す事にした。
「……実は、秘密にして欲しいんですけど俺達マジックボックスを持ってまして荷物は全部そこに入れてるんです。」
背中に背負ってたリュックサックから野営用テントを取り出す。3人は驚いた表情をしていたが、エルナがキノワに何か話すとキノワは宿の方へ走る。
暫くすると、キノワが寸胴鍋と紙に包んだ黒パンを抱えて戻ってきた。
「ボワボワのシチューが入ってるんですけど、街に行く途中にでも食べて下さいね。」
流石に貰い過ぎたと言っだが、これも報酬を払わない代わりだと言われたのでその好意に甘える事にした。
寸胴鍋と黒パンをリュックサックに仕舞うと、キノワが手綱に握る馬車に乗り込む。
「ソレジャア、イクゾ。」
手綱を引いた馬はゆっくりとしっかりとした足取りで進む。
後ろの方では、俺達の旅の無事を祈る声が聞こえ、やがて遠ざかってゆく。
さて…、前途洋々意気揚々俺達の旅が始まった。
やっーーーと、一章のようなものを書き上げた。
お金の下りは計算が面倒くさいから割愛。
人はそれを、手抜きという。
それと、気が付いたらブックマークされてました!
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