第十二編 ギルドマスターと視線
クバサナ村の守衛隊員ヤンタナはいい意味で一直線な人間である。
クバサナ村で生まれたヤンタナは、小さい頃から正義感の強い子供だった。それは、今は亡き父の影響が大きいのだろう。
ヤンタナの父親は、ある国の王都で騎士の地位に就いていた。といっても、騎士もピンキリでその中でも最弱の位置の騎士だったので偉いかと言われると何とも言えないが…だがしかし、騎士は騎士。
決して、驕ることなく平民に優しく騎士の務めを果たしていたが、ある陰謀に巻き込まれ騎士の地位を棄てこの村に逃げてきた。
そして、この村で冒険者となり1人の女性と運命の出会いを果たし、ヤンタナは産まれた。
そんな父だったから、ヤンタナは真っ直ぐな子供になったのだがヤンタナが成人のときに護衛の依頼中に盗賊に襲われ冒険者の父を亡くし母と子2人で今まで生きてきた。
「それで、お前達はいったい何をしたんだ。」
少し不機嫌そうな顔をしているヤンタナに状況を説明する。ギルドに行く途中でこの冒険者達に絡まれたこと、逃げていたが戦闘になったこと、何よりいまだに出ているポイズンスパイダーの説明が1番苦労した。
自分のスキルで出した召喚モンスターで自分の身を守るだったとはいえ、町中でモンスターを乱闘騒ぎに使うのはいい顔をされない。
途中から応援にきた守衛隊長のソウにもヤンタナにした同じ説明をする。
「なるほど、君たちの言い分は理解した。しかし、ここまでの騒ぎになってしまったらな…ヤンタナ、ギルドに行って誰か連れて来てくれ。」
ヤンタナは頷くとギルドの方角へと走ってゆく。
ノーダはポイズンスパイダーをしまいオサカと待つことにした。少しすると、ヤンタナに連れられて見覚えのある女性がやって来る。
ギルドの受付にいたツリ目美人ナテウだ。
「お待たせしました、後はこちらで引き受けますのでそこの人達は詰所の牢屋にでも入れておいて下さい。」
守衛達に告げ、連行される雁字搦めの冒険者達を冷視するとノーダ達の方に視線を向ける。
ちょっと、その視線にゾクっとしたのはご愛嬌であり、オサカがノーダの服を引っ張り正気に戻すのはいつもの事である。
「申し訳ありません、詳しい事情を聴きたいのでギルドに来て頂けますか。」
有無を言わせない一瞥をくれるとギルドへと向かうナテウについていくノーダ達。
ギルドの2階にある一室に通されると、壁には大剣が飾ってあり大きな仕事机がある部屋に負けない身体をした男が座っている。
「よく来た!俺はここのギルドマスターのオスカイオだ!さて、詳しい話を聴きたいのだが…」
ノーダは、オスカイオにこれまでの顛末を話した。
もちろん、自分達の素性やスキルなどは誤魔化してだが。
しばらく、思案するオスカイオは頷くとテナウに指示を出しナテウは部屋から出ていった。
「本当は、ギルドは冒険者同士の争いには関与はしないんだが、あいつらは最近少しヤンチャし過ぎていてな。それにお前たちはまだ新人だ、あいつらは相応の対処をしておくから、それで許してやってくれ。」
「別に俺達はそれで良いですよ。対人訓練が出来たと思うことにします。」
というか、こちらとしても無駄に目立つのは避けたい。
そうかそうかと豪快に笑うオスカイオの部屋に控えめなノックが響く。
テナウが小さな袋を持って入室すると、それをノーダ達の目の前の机に置く。
「どうぞ、お納めください。」
困り顔になりながら説明を求めるようにオスカイオに視線を送るが「ただの迷惑金だ。」としか言わない。受け取らなければならないような意思表示をされているが正直な話、胡散臭いとしか思えなくて素直に受け取ることが出来ずどうしようかと迷っていると
「お心はありがたいのですが、そのお金は受け取れません。私たちはが起こしてしまったようなものでもありますしそのお金は壊れてしまった物の修繕費にでも当ててください。それでもどうしてもとおっしゃるなら、明日私達が受け取る予定の魔物の解体料金に色を付けるぐらいの落とし所でお願いします。」
ノーダが困ってるのを助ける為に出てきたのか、オサカはいつもの弱々しい態度ではなく堂々とした振る舞いで言った。
オスカイオはまたも思案顔を浮かべると、テナウを下げさせ口角を上げる。
「ガハハハハ!よっしゃ、それは任せてくれ。お前達もういいぞ。」
ノーダ達は、オスカイオに会釈をすると部屋を出る。
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「宜しいのですか?このままで…」
部屋の片隅の誰もいない筈の空間からテナウが現れオスカイオに問う。
オスカイオはいつもは見せない真剣な目付きでノーダ達が出ていったドアを見ている。
「最低でも、ポイズンスパイダーを召喚できるような奴だからな…これ以上面倒事を起こされる前に出ていってくれればいいが。」
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ギルドを出ると、西の空が真っ赤に染まっていた。
朝は、東から日が出ていたのでこの世界は元の世界に似ているところもあるようだった。
「いやー、びっくりしたよ。ああいう事にはなれてなくてさ。なんか手慣れてたけど経験でもあるの?」
「いえ…昔、父の付き合いでああいう場に何回か手伝いとして行っただけですので……。」
それよりも、どう思いますか?あのお金…」
オサカが問いかけてくる。オサカが言わんとしている事は分かるがまだ現状何かが起こった訳ではないし起こす気もない。でも、このままこの村に残っていると何かに巻き込まれそうだし異世界モノでもお約束な展開に走ってるのは気のせいでは無いと長年の小説家志望の勘がいっている。
「そうだな…面倒ごとに巻き込まれるのはゴメンだし。
幸い明日には解体料金が貰えるし旅の準備も出来てる。宿の金は痛いが、オサカが良かったらだけどな…俺はこの村を出たい。」
「そうですね、僕もそれでイイと思います。」
オサカも了承の意を示し明日朝一番に解体料金を受け取りこの村を出ることにした。