第十一編 驕って失敗しました
武器屋を出ると、道具屋に行き旅の準備を始める。
「お金はあるうちに最低限の準備は必須ですよ。」というオサカの助言に従った。
傾きはじめた太陽を背に疲れた体で宿屋に訪れる。
高さは一軒家だが横は2軒分ぐらいの大きさだった。
「いらっしゃいませー、きゅうけいですか?しゅくはくですか?」
カウンターには赤毛の小さな女の子が立っている。
見た目通りのたどたどしい言葉ながらしっかりと店番をこなしている。
「…宿泊で頼む。部屋は一部屋、とりあえず1週間ぐらいで」
「はい、い、1はくぎんか1まいだから…い、1しゅうかんで……ぇーえっと……」
小さな手で必死に数えていると、後ろの入り口から女の子に良く似た女性が来た。
「シェル、お客さんかしら?」
「お母さん!しゅくはくで1しゅうかんだって。」
同じような色合いの赤毛に優しそうな目元の女性が笑みを浮かべている。
「ようこそ、若芽の宿へ。私はエルナ。それと娘のシェルです。シェル、ご挨拶は?」
「は、はじめまして、シェルです。」
俺達は会釈を返し、1週間分の宿泊を頼んだ。
「宿泊料金は朝晩の食事込みで、銀貨1枚ですので1週間で銀貨7枚ですね…はい、確かに。
では、こちらがお部屋の鍵になります。お部屋は通路の一番奥ですから分かりやすいと思いますよ。」
「ありがとう。」
鍵を受け取ると、通路からいちばん奥の部屋に向かい旅の疲れを癒す。
内装は、2つのベットに小さな机に椅子、小さなタンス、魔石で明かりを灯すランプが壁にかけてあり、窓は木窓の部屋だった。
「「疲れた〜」」
俺達は緊張の糸が切れたような声を上げる。
オサカは木の板に布を被せただけのベットに身を預けながら深いため息を吐く。
「…ノーダさん、何してるんですか?」
ノーダは机に向かい、リュックサックからネタ帳、スキル執筆で鉛筆を出し何かを書き始める。
「これまでの旅をネタ帳に纏めてるんだ。」
「ネタ帳?」
オサカに小説家を目指していたが上手くいかず、悩んでるときにウサ耳少女にカバンを盗まれて追いかけたらこの異世界に来た話をした。
「…というわけで、この世界で経験したことをいつか小説にしたくてネタを付けてるんだ。」
「…………乃田さんは…どうしてそんなに、真っ直ぐに…夢を追えるんですか。」
「うーん、それがやりたい事だからだな。」
「そう……ですか…。」
オサカの何処か寂しそうな声にノーダは気になったが、オサカは其れっきり話すことは無くベットに横たわり寝入ってしまった。
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翌朝、宿で朝食を食べた俺達は仕事を探すためにギルドに向かう…が、ギルドの前には人相の悪い冒険者達がこちらを見ていた。
どう見ても、敵意を抱いた視線を送る冒険者に俺達2人の緊張が走る。
ゆっくりと近づいてくる冒険者に距離を取る俺達は………一目散に逃げた。しかし、冒険者達は追ってくるし、この小さな村に逃げる道など無く地の利も向こうが有利なようですぐに挟み撃ちになってしまった。
「何なんだ、お前ら!」
下卑た笑いを浮かべる冒険者達は、それぞれの得物を抜く。俺達は交戦の構えを取る。両者は時が止まるように動かない、痺れを切らし先に動いたのはオサカと対峙する冒険者だった。
切りかかってくる相手を難なく躱すオサカはショートソードの腹で振りかぶり殴る。冒険者は1メートルは吹っ飛ぶが、そこは腐っていても冒険者。呻いてはいるが体勢を整えオサカを襲う。
繰り出される攻撃をときには避け、ときには斬りかかるオサカは決定打の攻撃が出来ずにこう着状態に入ってゆく。
《スキル:執筆 グリンゴブリン、マジックゴブリン》
《スキル:執筆》を発動したノーダの前に折れた剣を持ったグリンゴブリンと木の枝のような細い杖を持ったマジックゴブリンが出現する。
余談として、森を抜ける頃に分かった事だが一度にスキル執筆で呼び出せる魔物や武器の数は執筆のレベルに依存しているのだと判明したし、呼び出す魔物も通常の魔物よりも強化されて召喚されていることがわかった。
その頃には、執筆のレベルも3になり召喚した魔物や逢坂の連携により森での戦闘に苦もなく終わらせる事が出来ていた。
だから、今回の戦闘も余裕だろうという心持ちでノーダは2匹の魔物を呼び出す。
それは、森での魔物との連勝に驕りが生じた結果だろう。
自分の身長より倍はある大剣を自由自在に操る冒険者だが、グリンゴブリンの剣捌き、マジックゴブリンの火魔法でのサポートでノーダ側が善戦していたようにみえたがそれは大剣使いの冒険者が使うスキルで事態は転機する。
《スキル:ウエポンパワー》
「ギギギィ」
大剣から繰り出される力強いスキルにグリンゴブリンが押され始めてマジックゴブリン共々倒された。
「シィイイネェエエエエエエエ!!!!」
ノーダよりもふた回りも大きい男は自分の身の丈以上の大剣を両手で振り下ろそうとしていた。
「ノーーーーダにーーーーい!!!!」
叫び声で現実へと引き戻される。
オサカは相手の対処で動けず声を張り上げノーダを促すが、ノーダは自身の驕りや直面している恐怖によって動くことができない。
しかし、死はノーダに確実に迫ろうとしたその時……またもや事態は転機した。
どこからか聴こえる風切り音、続く大剣使いのうめき声……大剣使いの手に矢が刺さっている。
ノーダはハッとした表情を浮かべ矢が打たれた方向を見ると、そこには日の逆光に晒されて見え辛いが確かにいる
ーーーーーーーーー例のウサ耳少女。
「乃田さん!!!!」
少女が建物に隠れると同時にオサカからの怒鳴り声が上がる。
《スキル:執筆 ポイズンスパイダー》
現れたポイズンスパイダーが出した糸により次々と拘束され身動きできない冒険者達。
集まる野次馬からどうやって逃げようと思案するノーダをブチ破るように彼は来た。
「お前達!!何をしているんだ!!!!」
この村の守衛隊員で周りからいつも怒ってると思われている顔の怖い男、その名を「ヤンタナ」と言う。
やっと、出せたよ。ちょっとだけど(笑)