第十編 解体屋とお金
「シィイイネェエエエエエエエ!!!!」
ノーダよりもふた回りも大きい男は自分の身の丈以上の大剣を両手で振り下ろそうとしていた。
「ノーーーーダにーーーーい!!!!」
「あぁ、…………どうしてこうなった。」
本当にどうしてこうなったのだろうか。
ちょっと、冷静になって考えてみよう。
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ラーラに連れられて来た所は、ギルド内にある解体場だった。
そこで、出会ったのは筋肉隆々のガンツさん。Bランクの元冒険者で引退後はここで魔物の解体をしているらしい。
「それでは、ノーダさん。ここに出してもらえますか。」
大きな作業台上にリュックサックからグリンゴブリン10体を出していく。
「とりあえず、今のところ頼みたいのはコレなんだ。本当は、他にもあるんだが…解体してもらえるかわからないんだ。」
俺の言葉にしかめっ面をしたガンツは「兄ちゃん、俺の腕を舐めてもらっちゃあ困るぜ。」と胸を張り自信満々に言うのでその言葉を信じてみる事にした。
「うぉっ、こりゃ〜驚いたな。」
驚きの色を浮かべているガンツを余所に俺は次々と倒した死骸を出していく。
「コレで全部だ。なるべく、早く金に換えたいんだが大丈夫か?」
グリンゴブリン×10体、マジックゴブリン×5体、ポイズンスパイダー×5体、ウインドスネーク×1体
全て、あの森で倒した魔物だ。
ゴブリン系は楽勝だった。グリンゴブリンと攻撃魔法が使えるマジックゴブリンのツーマンセルを組んでいても所詮はE−ランクだし、コブリンは徒党を組んで行動するがよく仲間割れを起こしたりと注意が逸れ簡単に討伐出来た。
でも、蜘蛛と蛇は違った。
ポイズンスパイダーは…倒すのは簡単だった。小型犬ぐらいの蜘蛛だが、ピアノ線の様な糸で自分の体長の倍の巣を作り、時には冒険者も餌食になる程の見つけにくい巣を作るので強さはDランク。
しかし、ここはオサカの《スキル:検索》と俺の《スキル:執筆》の出番。
《スキル:検索》がレベル2になって使えるようになったのは位置検索。これは、味方の位置情報はもちろん敵の位置情報もマップに表示出来るスキルだった。そのスキルの力を使い蜘蛛の位置を割り出し《スキル:執筆》で召喚したマジックゴブリンの火魔法で巣を焼き払い襲ってくるのをオサカの脳天攻撃で倒した。もちろん、別のマジックゴブリンの水魔法で鎮火も忘れない。
ウインドスネークは偶然だった。慣れない森歩きで疲れた俺達が、幸運にも発見した川にそいつはいた。成人男性2人分はありそうな躰に人1人丸々呑み込めそうな口から出した舌で、器用に川の水を飲んでいた。
初めて出会う魔物は《スキル:観察》で観察する。
《ウインドスネーク:名前の通り、風魔法を使う蛇。臆病な性格をしており、風魔法で逃走するので討伐は非常に困難。革が非常に高価で結構な値段で取引されている。Cランク》
オサカに目線を送り、慎重に近付くがやはり索敵に長けているらしくこちらに気付き逃走してしまったが、位置検索でウインドスネークの位置を確認して二手に分かれ、2時間の苦労の末に討伐する事が出来た。
「…そうだな、ここまでとは思わなかった…あぁー、グリンゴブリンならすぐに出来るが、他は時間が欲しい。とりあえず、明後日まで待ってもらえるか。」
ガンツの言葉に了承すると、グリンゴブリンの解体が始まる。討伐証明部位の右耳を切り取り、胸に刃を当て心臓部分からビー玉ぐらいの大きさの石を取り出す。
この石は魔石と言われている魔物の核で、大きさは魔物に寄って様々だが生活用品から魔道具まで使われる貴重な物だ。と説明された。
「ハイ、グリンゴブリンの耳と魔石ですね。それでは換金してきますのでお待ち下さい。」
ラーラは解体物を受け取ると、部屋を出る。
まだ続く解体作業を見学していたが、なかなか慣れるものではなく2人して青い顔をしていた。
程なくして、ラーラは戻ってくると少し重い麻袋を俺に渡してきた。
「グリンゴブリンの討伐証明部位の耳が10体で銅貨20枚、魔石は銀貨55枚ね。それに、解体費を差し引いて全部で金貨5枚と銀貨5枚。」
麻袋の中を確認するとリュックサックに仕舞う。
ラーラに手頃な値段の宿を聞くと、『若芽の宿』がオススメだと紹介されたので行く事にした。
ギルドを出て、道を歩いているときに感じた視線を感じながら……。
「ノーダさん、宿に行く前に武器屋に行きませんか?」
「武器屋?」
俺は首を捻る。それにしても、ノーダさん、か…他人行儀だなぁ……寂しいなぁ。
「ノーダさんのスキルで武器を出せるようになりましたけど、新しい武器はノーダさんが一度目にしないといけないから買うにしてもスキルで出すにしても一度行くのはアリだと思います。」
そうなのだ、前にも言ったかも知れないがオサカが持っている折れた剣は俺のスキルの力でだしたもの。確かに、買う買わないにしても武器を見るのはテンションが上がるし、スキルの強化にも繋がる。
俺はオサカの言葉に同意し、俺達は武器屋を目指すことにした。
2本の剣が交差した看板がある建物を見つけ中に入ると槍や剣が壁に飾られ盾もあり、大きな樽の中に色々な武器が入ってる。ショートソードにロングソード、ロングスピアにエトセトラ。大きな魔石の付いた杖や装飾でゴテゴテしたメイスは厳重に鍵のかかったガラスケースの棚に飾られている。
鎧ももちろんあった。フルアーマーから胸当て、ローブ、兜にエトセトラ。
まさに、The!武器屋という内装だった。
「すみませーん、誰かいらっしゃいませんかー」
奥から、人当たりの良さそうな職人系オヤジが出てくる。
「おおぅ、らっしゃい。何にする?」
「すみません、こちらに双剣用の剣って売ってませんか?」
「双剣…?生憎だが、うちには双剣用の剣っていうのは無いな。普通剣は片手か両手だからな。」
オサカのスキルであれば両手に武器を持てばイイが、前に「やっぱり双剣は浪漫ですよ」とオサカが言ってたのを思い出した。
「そうだな…お前さんぐらいだったらそこの樽に入ってるショートソードか1番イイだろう。」
カウンターから出てきたオヤジに連れられ、1つの樽に近付くとオサカは一振りのショートソードを渡されていた。何度か感触を確かめたオサカは同じやつをもう1つ手に取った。
「隣の兄ちゃんはどうする?」
「俺は剣よりも、防具が欲しいな。なんせ身を守るものは無いし金も無いので…。」
防具コーナー?に移動すると、革の胸当てを持たされ着けるように促される。
ボアボアの皮から作ったから耐久力はあると自慢げに言うので、もう1つ同じ物を買うことにした。
「良し、ショートソード銀貨6枚、ボアボアの胸当てが銀貨8枚の合計金貨1枚と銀貨4枚だな。
だが、兄ちゃん達…初心者だろ。オマケで金貨1枚にしといてやるよ。」
「よく僕達が初心者と分かりましたね。」
「ハハハッ、そりゃぁそんな格好で来る冒険者なんて初心者以外にいないだろうが。」
武器屋のオヤジの言葉に2人で顔合わすと恥ずかしそうに下を向いてしまった。