始動_6
我儘で移り気。何より綺麗なモノが好きなシオンが一目惚れすることを予測して
マグナはシオンにサークリットをわざわざ紹介した。
マグナは軍事に長けたアースランドとの強い繋がりを欲していた。
もちろん、サークリットには婚約者がいたため、シオンとのことがうまくいくとは
マグナも思っていなかった。
それを足掛かりに、アドリアンに妹の誰かを送り込みたかったのだろう。
でも、シオンが思いの他、頑張った。いや、駄々を捏ね続けた。
それは飽き性なシオンらしからぬ、執着だった。
そんなシオンに折れてこの結婚はまとまった。
表向きはそう思われているし、シオンもそう思っていたようだ。
だけど、全ての情報、状況から私が察するに、多分、それだけじゃない。
侯爵家の婚約者がいたサークリットだが、寵妃マリアを妃に欲していた。
でも、婚約中から裏切りを重ねられた元婚約者はそれを許さなかったようだ。
だから、サークリットは婚約を破棄して、
マリアを自分のモノにする手立てを欲していた。
そう、シオンの我儘はサークリットにとって、渡りに船だったのだ。
しかも、我儘に合わせ、娶ったのだから、とシオンが多少の不遇を受けても、
ウードランドは強く出れないことまで見越して・・・・・・
そして、と私は勝手に軋み始めた胸に手を当てる。
『シオンには寵妃の存在が意図的に隠されていた。
彼女はこの国に来るまで、サークリットが既に寵妃を据えているなんて
知りもしなかったのだ・・・・・・』
ギュッと目を瞑る。
それを隠したのは、隠せたのは2人。兄マグナとそして・・・・・・
ふにゃりと泣きそうな顔で笑うのは、紫音なのか、シオンなのか・・・・・・
「大丈夫、ありがとう」
その顔にハッと目を見開いたナールは恥じるように目を反らした。
そう、もう一人は目の前にいるこの人、ナールだ。
信じていたんだろう、誰より、この人を・・・・・・
恋焦がれていたんだろう、誰より、あの人に・・・・・・
頼りにしていたんだろう、誰より、その人を・・・・・・
全ての心の支えに裏切られ、失い、絶望したシオンは・・・・・・
子どものように無邪気で夢見たままの少女は大人になれず、自ら望んで消滅した。
誰が悪だとか、シオンだけが被害者だとかいうつもりはない。
でも、この人もまた”私”にとって、もう、敵、なのだ。
この世界にも、私の家族はいない。




