繋いだ手は暗中を彷徨う_3
マグナとサークリットはこの後、早速、
草案作成の打ち合わせを始めると言う事で、ようやく解放された私は席を立つ。
廊下に出ると、ほっと息をつく。
誤魔化せたとは言い切れないが、乗り切った。そう思っていた。
姫様、と声が掛けられ、びくりと身体が跳ねる。
恐る恐る振り返ると、ナールがいた。
私の怯えを見て、マグナがすかさず私の前に出ると、
ナールは悲しそうに目を伏せた。
そんなナールの傷ついた姿を見ていられなくて、
私は思わず、ナールの元へ駆け寄る。
そんな私にマグナ達が戸惑うのも当然だ。
でも、これは、きっと、身に沁み込んだ習性、条件反射のようなもので、
私の意思とか関係なく、身体が動く。
なぜかは分からない。
でも、この人の前に出ると、
ダンスの時もそうだが、私らしくないというか、
自分で自分がコントロールできなくなる。そんな違和感が付き纏う。
そんな私の手をナールが大切な宝を包むように、その手に取る。
それに咎めるような視線をシャルリーゼが送ったが
私は動けなかった。
ナールは祈るように呟いた。
「・・・・・・・・・ずっと、ずっと、お待ちしていますから・・・・・・・・・
マグナ様も、陛下も・・・・・・、もちろん、私も・・・・・・」
クシャッと顔が歪み、涙が零れる。
そんな私にナールは母国でそうしていたように、その手で優しく涙を拭って、
優しい笑みを溢れさせながら、愛おし気に私の両頬をその大きな手で包む。
「・・・・・・いついつまでも、私はお傍に仕えますからね・・・・・・・・・」
それは、ナールがどうしても外せない用で傍を離れる度、
怒り狂い、泣き喚くシオンを宥めるのに、ナールが誓った言葉。
ナール殿っ、と咎めるようなマグナの声。
振り解け、と言わんばかりに鋭くナールの手を睨み付けるシャルリーゼの視線。
だけど、私はピクリとも動けない。
そんな私の頬を優しく撫ぜて、ナールは微笑む。
「きっと、この和平協定を成して見せます。姫様のために・・・・・・」
待っていて下さい、とそう囁きながら、
私の額に優しいキスを落として、ナールは去っていった。




