それぞれの葛藤_14(※他視点)
「円満に離婚する方法、ですか・・・・・・」
ムジカからの報告書を読んだ王妃は思わず、額に手を当て、そう呻き、
国王も疲れたと言わんばかりの顔を見せる。
申し訳ありません、とうなだれるのはアドリアン。
基本的に、自分の意思や願いを我慢し続けてしまうシオンだが
実はよく、独り言でそれらを漏らしている。
本人は全く気付いていなくて、多分、必死に思考に囚われているのだろうけど、
孤児院で作業していた頃も、庭で1人、物思いに耽る時も
よく、考えている事をダダ漏れにしている。
そんなシオンを実の孫よりはるかに可愛い、と激愛しているのがベオウルク。
ベオウルクは既に鬼籍に入った先代国王の無二の親友で、
その先代に、クラゲのように適当で、雲のように掴み処がないくせに
ここぞと言う所では、鷹のように抜け目がなく、飢えた狼より獰猛で
人情を解しているとは思えない身勝手な妖怪爺、と酷い二つ名を付けられている。
そんな彼がシオンを猫可愛がりしているのだ。
それだけではない。
高位貴族の中で、誰もが一目を置き、難敵と言われ
懐に入れてもらうのが血縁ですら難しいと言われる御仁方が
なぜか挙って、シオンを気に入っている。
実は、国王夫婦はシオンとサークリットの間の御子を当初諦めていた。
初夜であんな事があったことだし、
シオンは御子を産まなくとも、王太子妃としてよく務めてくれている。
本来なら、当初諦めていた、
ウードランドからアースランドに嫁いできた妃であるシオンの
アースランドの永住が叶ったのだ。
しかも、当初考えていたお飾りの王太子妃ではなく、
どこに出しても恥ずべき点など一つもない、我が国の王太子妃として。
それ以上を望むのは、国母としての役割までシオンに望むのは酷だと思った。
だが、彼ら、高位貴族にシオンが異常なまでに気に入られ、話は変わった。
シオンを蔑ろにし続けるサークリットを
シオンの価値も分からないサークリットを、
この国の後継者として、彼らは疑問視し始めた。
元より、下位貴族の令嬢に入れあげ、我儘を貫き、
婚約者を挿げ替えてまで手に入れるという大きな失態を
サークリットは既に犯している。
だから、今回の件は、その上、ということだ。
彼らは既に、シオンとシオンが産む御子への後ろ盾を決めてしまった。
このままぼんやりしていれば、王家の血筋は傍流へ流れる。
アドリアンもサークリットもシオンの心を捕えられないなら、
大人の女性として芽吹いたシオンの心を掴む王家の血を持つ王弟の誰かか、
王姉の産んだ息子の誰かが彼女と共にこの国の頂きに立つ権利を得る。
事態はそれほどまでに国王夫婦たちにとっては悪展開しており、
そして、それだけの価値がシオンにはある、と彼らは既に心を決めている。
とにかく、と国王は決意する。
「なんとしてでも、彼女の心をこの国に留めるのだ。
万が一、シオンをかの国に返せば、この国は終わる」
それは大袈裟な心配ではない。起こりえない未来でもない。
シオンがどうしてもウードランドに帰ると言えば、
重鎮たちは挙って、国を捨ててでも、彼女に付いて行ってしまう気がする。
確実なのはこの国が誇る竜騎士の、
その中でも特に精鋭である、ダイチ族の、シオンの専属騎士たち。
ウードランドに彼らが流れれば、今後、ダイチ族はウードランドに流れてしまう。
そうなれば、竜騎隊は事実上の壊滅。
世界最強と呼ばれるアースランドの兵力は著しく落ち込むだろう。
ぶるりと押し寄せる悪寒を振り払い、彼らは王族としてではなく
一家族として、シオンを引き留めるために一丸となる事を決意した。




