始動_3
貰ってやるのが、妃としては正しいのだろう。
でも、服一着作るのって、凄く凄く面倒なのだ。
私はシオンの服の華美さと重さに数日で音を上げた。
そんな私がもう少し身軽なモノはないかと頼んだら、仕立て屋が来やがりました。
デザインどうのこうの、採寸がどうのこうので一日。
色が、布が、装飾がともう一日。本当にうんざり。
ユニ○ロで安くて着心地の良い物を色違いで
数だけ揃えて居た私にしてみれば苦行でしかない。
そして、その苦行を夫の気休めに我慢してやれるほど、
私は彼を思いやれないし、気遣ってやる義理もない。
サークリットの気持ちも分かる。
でも、サークリットはシオンという人格を徹底的に貶めた。
私になり変わらなければ、この身体は目覚めることも無く衰弱死しただろう。
そうすれば、もちろん、シオンの母国ウードランドは黙っていない。
最悪、戦争になったかもしれないし、良くても、反目しただろう。
その結果、多くの民が大変な不利益に見舞われただろう。
妃教育で学んでいく中で、私はそれをまざまざと感じた。
だから、男としての情動は理解できても、
夫として、そして、王太子としては最低だと思う。
前世からずっと、私にとって、世界はとてもシンプル。
敵かそれ以外。そして、彼は私の敵。だから・・・・・・
にっこりと私はアドリアンに完璧な笑みを見せる。
「お気遣い頂きありがとうございます。
必要ならば、自分に与えて頂いている予算で、
服も宝飾も用意いたしますので、結構です」
ヒクリッと顔を引き攣らせるアドリアンは年相応で
シオンが兄に聞いていた印象よりずっと素直な人らしい。
ただ、分りました、と礼をして出て行く彼の背中からは
通勤ラッシュから這い出て帰宅の途につくサラリーマンと同じ哀愁を感じた。




