それぞれの葛藤_10
マグナはずっと、アドリアンにシオンの姉妹の誰かを嫁がせたいと目論んでいた。
だが、アースランド側は、既に、サークリットを王太子にしているため
国の分裂を招く可能性のある妃をアドリアンに嫁がせたくなかった。
王太子以外の王族に他国の姫を娶らせるなら、
直系王族の中で一番、権力から遠い者に嫁がせれば問題は起こりにくい。
だが、アースランドには
サークリットとアドリアン、2人しか直系王族がいない。
しかも、アドリアンは将来、アースランド軍の中枢を担っていく人材。
どれほど、ウードランドとの繋がりを欲しても、
国を二分する可能性を孕んだ婚姻をアースランドが受け入れるはずがない。
もちろん、アドリアン以外、王族でも権力から遠い傍系王族だったら、
ウードランドから姫を娶ってもいいかもしれないが、
それだと、ウードランドの益が少な過ぎて纏まらなかったのだろう。
そういう事情から、アドリアンにウードランドから妃を宛がえなかったマグナは、
せめて、サークリットに貸しを作る機会を見逃したくなかったのだろう。
サークリットが望んだように、サークリットの婚約者を追い払ってやれば、
それはマグナが国王になった時、外交での最高のカードとなる。
そして、それはもちろん、サークリットにとっても益のあることだった。
最愛を手に入れ、護るために捨て駒が必要だったのはもちろんだが、
非公式とはいえ、ウードランド次期王との繋がりが出来る訳だし、
長年、静かに火花を散らしあってきたウードランドとの雪解けを国内外に示すには
ウードランド王女の輿入れは何より効果的なアピールとなるだろう。
それが例え、短い期間で、仮初の婚姻だとしても、
それでも、歴史的に見れば、大きな成果と言える。
それはサークリットの治世に有益に働くはずだ。
それに、捨て駒として、色々な意味、状況で
誰より最適だったのが、シオンだったのだろう。
我儘で癇癪持ちで、天邪鬼。
だが、権力欲がなく、それでも、血筋は最高で誰からも文句はでない。
その上、シオンが女だてらにサークリットに求愛していたのは周知の事実で
シオンという存在はそれが許される美貌を持った唯一の存在だった。
そして、シオンは王太子妃の責務に耐え切る器でなく、
耐え切るより、逃げる事を選ぶ性質である事。
そう、サークリットにとって、シオン以上にふさわしい捨て駒はいなかった。
それら全ての事情を一から考えれば、おのずと答えは出る。
”私”は早々にこの国から母国へ帰るのが正しかったのだ、と。
嫁いだ事実さえ残せば、”私”の役目は終わっていたのだ、と言う事も。




