それぞれの葛藤_5(※他視点)
それから聞いた話はアドリアンには信じがたい話だった。
騎士として、いや、男として、
アドリアンは女人は護るべき対象として、常に優しくあれ、と育てられてきた。
そんなアドリアンにとって、信じがたい兄の行ったシオンへの非道。
「・・・・・・まさ、か・・・・・・、そん、そんな・・・・・・」
信じられなくて、いや、信じたくなくて、目眩がする。
王妃は悲し気に目を伏せた。
「・・・・・・私も知らせを受けた時、嘘だと思いたかったわ・・・・・・」
1人でポツンと書類を片手にお気に入りの庭で報告書を読む彼女が、
よろしくお願いします、と自分のエスコートを平気な顔で受け続ける彼女が、
大丈夫です、と体調を慮るアドリアンに笑った彼女が頭に過って苦しい。
「・・・・・・なぜ・・・・・・、なぜ、彼女はこの国に残った?・・・・・・」
そんな酷い仕打ちを受けて、あんな裏切りにあって、
何より、誰も味方のいないこの土地に・・・・・・
そもそも、この婚姻はシオンの意思がなければ、成り立ちさえしないもの。
確かに、この婚姻は両国にとって益のあるモノ。
でも、
ウードランドとの確かな絆を欲しているのは、アースランドの方なのだ。
にも関わらず、
この婚姻は、絆が出来たとは言い難い程、脆く、危うい絆でしかない。
なぜなら、所詮、
シオンの恋心という、曖昧、かつ、儚い絆で辛うじて結ばれただけだからだ。
だからこそ、サークリットは初めから上手くいくはずのないモノとして割り切り、
早々にケリを付けようとしたのだろう。
万が一、シオンが己の評判を捨て、自分のされた非道を訴えれば、
サークリットは、いや、アースランドは、
ウードランドからだけでなく、他国からも一斉に非難されるだろう。
シオンを欲しがる国は多い。
一目見れば、彼女のその魅力に飲まれる。いや、今はそれだけじゃない。
彼女の手で立ち上げた孤児育成協会は国内外から高く評価され、
シオンの知名度も評価もうなぎ登りだ。
今や、シオンの機知と慈愛はこの国の民さえ魅了している。
もちろん、シオンとタナカが同一人物だと知る者は極限られた一部の者。
だが、シオンの輿入れと時同じくして、孤児院に突如現れ、
様々な問題をあっという間に解決したタナカが当たり前だが、
ウードランド人である事。
そして、孤児育成協会を立ち上げたのがシオンである事を合わせて考えれば
容易く、シオンとタナカの関係性は見えてくる。
それでも、ほどんどの者が、まさか、
一国の姫であるシオンが自ら炊事や洗濯をするとは思えないかったのだろう。
シオンが孤児院の現状把握のためにタナカを派遣したのだろう、と噂している。
そんなシオンにしたサークリットの非道と不実の数々。
それが、少しでも漏れれば、国外から激しく非難されるだけでなく
国内で暴動がおこる可能性もある。
そこまで思い至ったアドリアンは悪寒を感じた。




