それぞれの葛藤_4(※他視点)
「私と義姉上とですか?」
困惑一杯の表情を隠しもせず、アドリアンは王妃に尋ねる。
「二人はもう、修復不可能な所まで達しています。
ですが、今、この国の未来のためには
この国とかの国の血を継ぐ御子がどうしても必要です。
ですから・・・・・・」
待って下さい、とアドリアンは母の暴走を止める。
「だからと言って、
兄上がだめだから、私というのは、あまりに彼女に不実で・・・・・・」
もちろん、と王妃は頷く。
「シオンの気持ちを第一に優先します。
ただ、シオンがサークリットを受け入れる事はもう難しいでしょう・・・・・・」
分からない、と言う様にアドリアンは顔を顰める。
「義姉上は自身が両国の架け橋である事を誰より理解され、
王太子妃として、自分を律してらっしゃる。
始めは確かに戸惑っておいでだったが、今は寵妃の事も受け入れ、
堂々となさっておられる。
確かに、公の場以外では、兄上を避けてらっしゃる。
・・・・・・今はまだ、想いを越えるための猶予が必要なのでしょう」
この国にシオンが来るまで、アドリアンはシオンを噂でしか知らなかった。
でも、”稀代の美姫”とその名を知られるシオンが
一心に実の兄であるサークリットに想いを寄せると聞いて、
やはり、兄上は素晴らしい、と誇らしく思っていた。
だが、国内外に知られたその一途な恋心を貫いて嫁いできた彼女だったが、
嫁いでみると、夫は正妃である自分には見向きもせず、
側妃を人目も憚らず、寵愛する。
彼女はどれだけ混乱し、絶望しただろう。
そう思うと、申し訳なさや憐憫を感じ、
アドリアンはシオンと関わる時、出来る限り、優しく接した。
それでも、とアドリアンは続ける。
「御子の事だって、兄上もマリア殿との御子が落ち着けば、早々に考える。
兄上は自分の役目を、王太子としての責務を放り出す様な事はなさらない。
そうなれば、義姉上だって・・・・・・」
ふるふると王妃は弱々しく首を振る。
「貴方は知らぬことでしたね。
サークリットが今更どうしようと、シオンが受け入れる事は不可能なのです。
それは嫉妬から来る安易な拒絶ではなく、心が身を封じる程の拒絶なのです」




