動き始めた時_8
彼らはさすが高位貴族として、様々な立場でずっと国を支えてきた人達だ。
私の素性など、もうとっくに把握済みだったらしい。
それにも関わらず、ずっと黙認してくれていたらしい。
その上、彼らは、やっと、正式に会えた、とただ喜んでくれた。
そんな彼らと孤児院の事を話していると、
私たちの話に興味を持った年配の方々が自分も力を貸そうとか、
自分の領内の孤児院にも同じシステムが導入できないかとか、話は広がっていく。
『あぁ、凄い・・・・・・、凄いわ』
前世、一般人。
それも僅かな庇護さえ持たない、最下層の一般人だった私には
変えたい現実を変える力が、声がなかった。
だから、目を背けた。
気付いても何も出来ないなら、せめて、心を煩わされたくなかった。
でも、今は違う。
思いつきに近い活動を支援してもらえて、手を貸してくれる人がいる。
沢山の人の力を借りれる立場が、力が今の私にはある。
”変えたい現実を変える”
そんな夢みたいな事が今の私には出来る。
目を背けず、戦う勇気を持つ事が出来る。
心がジンッとして駄目なのに、泣きそうになる。
扇で固く噛んだ唇を隠しても、震える手も、潤む瞳も隠せない。
結局、王族どころか、貴族としてさえ足りない私。
マナーをどれほど覚えようが、知識がどれほど増えようが
中身は一般庶民の田中紫音のままだから・・・・・・
それでも、そんな中途半端な私に、彼らは夢を見る事を許してくれる。
トントン、と優しく背を撫ぜてくれるのはベオウルク。
それは、孤児院で私が焦ったり、感情が暴走しそうになった時
ウーチャンだったベオウルクがタナカだった私にしてくれた仕草。
私はポロポロと零れた涙を隠すように、深く頭を下げる。
「・・・・・・ありがとう、ござい、ます・・・・・・、あり、が・・・・・・」




