動き始めた時_5
「この国にも随分慣れたと思いますから、そろそろ、社交を初めましょう。
手始めにお茶会や夜会に私と共に行っていただきます。
ゆくゆくは、私の代わりに諸外国との外交を担っていただく事になるでしょう。
ですので、貴女もその心積もりで励んで下さい」
うぐっと心の中でダメージを飲み込む。
何をしようか、なんて考えていたけど、
正直、外交・社交が一番携わりたくない事だった。
この世界の人間は農作が盛んなウードランドでさえ、基本、肉食だ。
農作が難しいアースランドなど、言わずもがな。
だから、肉食の外国人がそうであるように、この世界の人たちは体臭がきつい。
そのせいか香水を物凄い大量につける人が多い。
1人でも気分が悪くなるのに、
夜会等で彼らと一緒に閉じ込められると吐き気がする。
その上、社交の時に着るちゃんとしたドレスの重い事、重い事・・・・・・
中々、はい、と言わない私に、王妃は、いいですね?、とダメ押ししてくる。
シュンとして、分りました、とうなだれるのは許してほしい。
退出する私の背に、王妃がポツリと言葉を投げかける。
「1人で出来る事も、思いつく事も限られています。
人に知恵を借りる事。人の話を聞く事。
それが、新たな発想や道を見つける手助けになると私は思います」
まるで、私の迷いを知っているかのような言葉に、私は振り返ってポカンとする。
初めて見る、心からの優しい微笑みを浮かべる王妃を見て、
クシャリと私の表情は崩れ、私はそれを隠すように深く頭を下げる。
「ありがとうございます・・・・・・」




