始まり_2
「自業自得と言えば、その通りではあるけれど・・・・・・」
そう自嘲的な笑みをこぼす仕草は、実に”シオン”らしくない。
でも、それもそのはず、顔形はシオン・アースランドその人だが、中身が違う。
そう、所謂、異世界転生というやつだ。
何かの因果なのか、はたまた、同じ音の名に導かれたのか・・・・・・
私、田中紫音は突然、シオン・アースランドとして目覚めた。
名だけでなく、年も同じ16という事で、運命めいたモノすら感じる。
全てに恵まれたお姫様のシオンは
恋慕う人のあまりに酷い仕打ちに絶望してしまったようだが、
私、紫音からすれば、
衣食住の心配をする必要がないシオンの現状は充分恵まれた環境だ。
私、田中紫音は孤児として、赤子の頃から児童保護施設で育った。
田中という苗字は市の職員が勝手につけたモノだが、紫音は違う。
産着にそう刺繍がしてあったと聞いた。
15で中学を卒業し、施設を出て、仕出し屋で働き始めた。
安月給を貰い、寮のボロアパートに住み、
冬になると、全ての指がアカギレになって、水を触る度悲鳴を飲んだ。
それに比べれば、よっぽど・・・・・・
「まあ、それでも、もうちょっとマシなのなかったですか?神様・・・・・・」
どうやって死んだか、それは思い出せない。
でも、死んだ、という認識が、死んでここにいる、という実感がある。
灯油が切れていたから凍死したのか、
記録史上初めてという大雪による事故にでも巻き込まれたのか・・・・・・
わっかんないなぁ、と呟いたものの、
すぐに私は考えても意味がないと切り替える。
今これからは、田中紫音ではなく、
シオン・アースランドとして生きていくしかない。
もうこの身体に本来のシオン・アースランドの意識を感じない。
深く傷ついた彼女は
己の意識を眠らせたのではなく、消滅させてしまったらしい。
”辛い・・・・・・、消えてしまいたい・・・・・・、誰か助けて・・・・・・”
そんな負の感情だけが残っている。
意識は消えたが、記憶は残っている。
それは、まるで古いフィルムの映画が流れるような
自分の記憶とは少し違った感覚で蘇る。
とにかく、この記憶を利用して、ココで生き残るしかない。
”生きているだけ儲けモノ”
それが日本に居た頃からの私の唯一の人生訓だ。