動き始めた時_2
私は気がつくと、へたり込む子どもの傍にしゃがんでいた。
そして、子どもの服についたケーキの残骸を指で掬って口に入れる。
「うん、美味しいね」
食べてごらん、ともう一度掬って、その子の口に運ぶと
まるで雛鳥が親鳥に餌を貰うように、パクリと私の指ごとその子は食んだ。
そして、へにゃりと彼は私の指を咥えたまま、笑う。
美味しいでしょ?、と聞いてやると、美味しい、と頷く。
おいで、と役目を果たした子ども達を集め、彼の服から一掬いずつ分け合う。
御子の初の誕生祭で振る舞われるケーキは分け合って食べるのがしきたり。
この日はケーキがホールで売られ、家族で分けて食べ、御子の誕生を祝う。
孤児院でももちろんケーキが振る舞われる。
今にも死にそうな顔をしていた子ども達に笑顔が戻ると、
わぁっとまた会場は盛り上がる。でも、子ども達はもう怯えなかった。
私は服を汚してしまった子どもの頭を撫でてやる。
「大丈夫だよ。
崩れたって、形が変わったって、美味しい物は美味しいからね。
後で、ちゃんと皆で分けて食べればいいからね」
はいっ、と嬉しそうに笑った子ども達と
何度も私に頭を下げ、感謝する神官達が下がると、私も与えられた席へ戻った。
その後は順調にお披露目は進み、パレードに移った。
パレードはサークリットとマリア、そして、御子の3人。私の役目は終わりだ。
ただ、退出する際、サークリットとマリアに
親の仇のような憎々し気な顔で睨まれたのには目を背けたくなった。
邪魔をする意図はなかった、と言い訳した所で無駄と承知していたので、
忘れる事にする。
丸く収まったからか、王妃からはお叱りを受けなかったが、
マナーを教えて下さるクローバ夫人には後日キツク叱られる事だろう・・・・・・
私室に戻ると、
一気に気持ち悪さが耐え切れなくなって、洗面所に駆け込み、えずく。
胃液を吐き出した食道が焼けるように痛くて、それでも、吐き気は収まらない。
シオンはお姫様らしく大変な偏食家で、好き嫌いが激しい。
ただの我儘と思われているが、違う。シオンはアレルギー体質なのだ。
変わったモノを口にして、気分が悪くなったり、発疹が出たりして、
嫌な思いをしたシオンは次第に食べたいモノしか食べなくなった。
甘味はフルーツしかとらないため、お菓子嫌いと思われているようだが、
お菓子嫌いなのではなく、クリームかバターにアレルギーがあったようだ。
偏食が酷過ぎて、
どれが好き嫌いで、どれがアレルギーなのか分からなかったため、油断した。
とにかく、さっさと全部吐き出そうと思うが、次第に意識が霞んでいく。
とりあえず、疲れたので少しだけ独りにしてくれと侍女達を外へ出したが、
晩餐の準備があるので、暫くすれば、侍女達が戻ってくるだろう。
いつも私を気遣ってくれる彼女達に心配をかけるのは、本意ではない。
そう思うのに、
吐くと言う行為は身体に大変負担なようで、瞼は重く、身体がだるい。
「シオン様っ?!!誰かっ!誰かっっ!!!!」
私付きの筆頭侍女になったシャルリーゼの叫び声が遠くで聞こえる。
『あぁ・・・・・・待って、もうちょっとで、すぐ・・・・・・、すぐ起きるから・・・・・・』
そう言いたいのに、意識は勝手に落ちた。




