暴走_9(※サークリット視点)
「紫音?」
それはまるで心から零れたような解。
なぜ、そう思うと問われれば、サークリット自身も分からない。
分からないけど、一度、言葉にしてみると、
もうその少女は紫音にしか見えなかった。
サークリットの呼びかけに、大きな丸い目をサークリットに向けた黒髪の少女。
黒髪の少女、紫音はシオンを抱き締めたまま、
サークリットに笑いかけ、何か呟いた。
誰も聞き取れなかったその言葉を1人受け取ったサークリットは叫んだ。
「やめろっ!やめてくれっっ、紫音っ!!!!」
ぐるぐるとシオン達の回りで渦になっている竜の力に構わず、
突撃しようとするサークリットを羽交い絞め、止めるムジカとバジルク。
だが、サークリットは2人を引き摺りながら、前へ進む。
「やめろぉっっっ!!!!!!!」
そう、サークリットが絶叫した瞬間、ブワッと暴風が再び舞って
皆が目を閉じた後、シンッと空間が落ち着く。
目を開けると、そこには台座に横たわるシオン。
マグナとナールがシオンに駆け寄り、シオンの心臓が動いているのを確認し、
ホッと息をつく。
だが、サークリットだけは、
台座の後ろの壁に叩き付けられたように倒れている黒猫に駆け寄り、抱き上げる。
震える手で、その胸に耳を当て、聞こえてこない鼓動の音に、
うそだ、とサークリットは呟く。
「うそだ・・・・・・、うそだ・・・・・・、うそだっ!!!」
起きろっ、と小さな黒い仔猫に命じる男の姿は普通、滑稽なのだが、
それを笑う者は一人もいない。
その小さな黒い仔猫が何者か、皆、もう認めているから。




