暴走_8(※他視点)
その言葉と共に、解き放たれた竜の力。
結界は掻き消え、無数の蔦がムジカ達を襲う。
ダイチ族の戦士が術者を護りながらなんとか堪えているが、
それも持ちそうにない。
それに、竜の力が溢れ出る場所には魔物が集まってくる。
入口を護るアドリアンたちも含め、魔物の大群に襲われ、全滅するのが早いか、
暴発した竜の力で大地ごと掻き消されるのが早いか・・・・・・
皆が最期を悟った時、トンッとどこからか小さな黒い仔猫が
樹海のど真ん中に突然現れる。
一瞬、魔物か、と構えたムジカたち。
だけど、不思議な事に、
その小さな黒い仔猫から魔物に感じるような禍々しさを感じなかった。
そして、小さな黒い仔猫はムジカ達の方ではなく、
竜の力を暴走させるシオンの元へ、器用に蔦の攻撃を避けながら向かっていく。
それまで、茫然としていたサークリットだが、その黒い仔猫を見た瞬間、
行かせてはいけない、となぜか強く思った。
行くな、と叫びながら、黒い仔猫に向かって駆け寄るが、
黒い仔猫は小さな体でまっすぐ嵐の中心にいるシオンの元へ進んで行く。
そして、シオンの元へ辿り着いた瞬間、その存在が膨れ上がると・・・・・・
「「「「「「「「「「「「「っっ?!」」」」」」」」」」」」」」」」
全員が吹き荒れる暴風や襲い来る蔦の攻撃を忘れ、
その光景を食い入るように見つめる。
皆の視線の先には、黒髪の痩せっぽっちの裸の少女が立っていた。
その少女は美しい顔に鬼の形相を浮かべ、荒れ狂うシオンに手を伸ばし、
優しく、優しく抱き締める。その光景はまるで・・・・・・
「悲しかったね、辛かったね・・・・・・
・・・・・・大丈夫だよ、もう、大丈夫だよ・・・・・・」
そう言っているように見えた。
少女がシオンを抱き締めていると、あれほど荒れ狂っていた力が静まり、
ぐるぐると少女とシオンの回りで渦を巻き、
それから静かに竜玉の代わりとなる依代の水晶の中へ少しずつ収まっていく。
そして、あんなに怒り狂っていたシオンは今、
黒髪の少女の胸に顔を押し付け、わんわんと泣いていた。
黒髪の少女はそんなシオンを見つめ、優しく微笑んだ。
その瞳の色もまた、黒だった。
この世界で見たことのない色合いを持つその少女に誰もが声もなく、
ただ、少女を見つめる。そんな中。




