暴走_5(※他視点)
おかしいな、とぽつりと呟いたバジルクに反応したのは、
バジルクを竜の力から護るために、一緒に結界内に入り、
土色の闘気で壁を立てるムジカ。
「何がだ?」
バジルクは術を唱えながら、器用に答える。
「半端に起動したとはいえ、吸収の術が掛かっているのは間違いない。
だというのに、術が効いているにしては、痛がり方が普通過ぎる」
死に至る程の痛みなのだ。
シオンはイタいと先ほどから叫んでいるが、痛みが過ぎると、
人はこんなにはっきり言葉を発する事は出来ないはずだ。
それに、泣き叫び、家族に助けを求める事が出来ることはもちろん、
バジルクの術に怯え、竜の力を使って、力技で、跳ね退ける余裕まである。
グッと目を凝らし、竜の力である強烈な輝きを放つ碧の光に紛れ、
掻き消えて、見えなくなっている他の光を見て、なっ、とバジルクは絶句した。
どうした、と問うムジカに、バジルクは暫く答える事が出来なかった。
そして、暫くしてから、くしゃりと顔を歪め、
その深緑の瞳から一筋の涙を流しながら、ぼやいた。
「・・・・・・あんた、ほんと・・・・・・、ばか、だな・・・・・・」
暴走し、魂の殻を破って、飛び出る竜の力。
それに引き摺られるように、魂の粒子が外へ飛び出し、
シオンは痛みを感じている。
それは、砂を含んだ水を目一杯溜めた水袋に
穴が無数に空いて、水が噴き出す光景に似ている。
水流となる水が竜の力だとしたら、
それらの水に引き摺られて出て行く砂がシオンたちの魂。
だから、もちろん、激しい痛みを伴うはずなのだが・・・・・・
「彼女の魂が、粒子になっても、シオンの魂を護ってる・・・・・・」
碧の光に掻き消える弱い光を放つ薄い若芽色の光を
漆黒の艶やかな光が包み、碧の光に引き摺られそうになるのを押し留め
堤防のような役目をしていた。
もちろん、その代わり、引き剥がされ、もぎ取られるように
碧の光に漆黒の光が次々、削られていく。
ある光は碧の光に取り込まれ、
ある光は結界まで弾き飛ばされ、ぶつかり、消える。
それでも、漆黒の光はシオンの魂を護るように、
核の回りに漂う若芽色の光を取り囲み、必死でしがみ付いていた。
そんな姿からも、どれほど強い想いで
異界の娘が生前の誓いを魂に刻んでいたかが見て取れて、
バジルクは心が抉られるような思いを味わった。




