暴走_1(※サークリット視点)
「貴方の妃は、シオン・ウードランドでしょうっっ」
憎々し気に呟かれた言葉にサークリットは今一度、ナールを見る。
ナールは出会って初めて、偽りの笑みを消し、彼の素顔を晒し、
サークリットを睨み付けていた。
サークリットにはその顔の方が余程、好ましいと思った。
自分を睨み付けるナールを見つめ、サークリットは断言する。
「違う。
私の妃は、私が生涯を捧げると誓ったのは田中紫音。ただ1人だ」
なっと一瞬、絶句したナール。
そして、怒りに打ち震えながら、声を荒げる。そんな姿も初めて見る。
「そんなコト、許されるとお思いですか?!!
貴方は、姫様をっ、ウードランド王家の姫をなんだとっっ!!!」
激昂するナールと対照的に、サークリットは冷静だった。
「ついさきほど、お前自身が、その婚姻を仮初と認めたと思ったが?」
だからといって、と怒鳴ったナールをマグナが止める。
「その件については、こちらも了承済みだ。咎める事はできない」
くっと顔を歪め、マグナの事さえ睨み付けるナール。
だが、とマグナはサークリットをひたと見定めた。
「その身体は私の妹、シオン・ウードランドのものだ。
妹の罪は私がいかようにも償おう。
だが、返してもらうぞ。
お前の仮初の妃である、私の妹は・・・・・・」
グッと今度唸ったのはサークリット。
反対に、ナールはホッとしたように脱力する。
そんな中、はぁ、と重めの溜息をついたのはバジルク。
「ねえ、あんたら、今の状況、本当に分っている?」
その言葉にはっと皆、一斉にバジルクを見る。
バジルクは呆れ返った顔で3人を見ていた。
言っておくけど、とバジルクは淡々と現実を突きつける。
「竜の花嫁にしたって、シオンと異世界の彼女の魂は既に絡みついているからね。
贄にするなら、間違いなく、2人とも引っ張られるよ?」
うっと言葉に詰まったナール。
それと、と今度はサークリットにもバジルクは現実を突きつけることを忘れない。
「竜が降臨した所で、彼女の魂は既に核を失っているからね。
それをどうこうして、その上、魂から人を作り出すなんてこと、
例え、創世の竜だってできやしないよ」
ギュッと目を瞑るサークリット。
それとね、とバジルクは溜息交じりに残酷な未来を告げる。
「彼女の、そして、シオンの魂はもう限界なんだよ。
2人の魂をもってしても、もう、竜の力を留めておくのは無理だ。
今日まで何事もなかったのは、偏に、彼女の精神力の強さ、だ」




