暗躍するモノ_3(※他視点)
ならば、とナールは神に祈りを捧げるように告げる。
「彼女の意思を無駄にしてはいけません。
竜の降臨でこの世界が崩壊したら?
いえ、そもそも、竜の力に彼女の魂が屈したら、
姫様の魂ではもう竜の力を押さえ込めない。
暴発し、世界は終わる。そうでしょう?」
ごくりと誰かの喉が鳴る。
決断の時です、とナールは静かに宣言する。
「吸収の儀などより、ずっと、確実に、かつ、安全に
竜の力を竜玉に戻す術があるでしょう?
それは”竜の花嫁”」
はっ、とマグナやムジカまでもが息を飲む。
”竜の花嫁”とは、竜玉の力が著しく損なわれた時、
失われた竜玉を管理する伍竜家がその一族の中でその時、一番、
竜の力を保持している者の魂を竜の力として竜玉に捧げた事を指した。
でも、それは何時しか、
儀式の贄として扱われる竜の力を宿した者の事を指すようになった。
花嫁と銘打っているものの、男女は関係なく、
それは過去何度も行われた。
ただ、伍竜家の者を贄にすれば、
竜玉の力を多用できると安易に考え始めた5大大国の王家に
伍竜家が怒り、ある時期から一度も行われていない。
(ちなみに、前長官がシオンに施そうとしたのはこの方法。
バジルクは文献を漁り、僅かな可能性が残る吸収の術を見つけ出し、
シオンのために、難易度がとてつもなく高い吸収の術の会得に励んだ)
「忌まわしい風習です。
・・・・・・許されない行為です。
私は、いえ、私たちは彼女を犠牲にする罪を背負って生きていかねばなりません」
ぐさりと心に楔が刺さったかのように重くなる。
それでも、とナールは続けた。
「このままでは、世界は崩壊する。
ならば、躊躇ってはいけません。
それこそ、この世界を愛し、
己の犠牲を受け入れてくれた彼女に対する侮辱であり、裏切りです」
そうではありませんか?、とナールは立ち尽くすサークリットの腕に
そっと手を添えた。その瞬間・・・・・・
※※ 補足 ※※
ちなみに、ナールも今のシオンが別人格である事に気付いてはいたが、
呼び寄せの術が使われたことまでは知らなかった。
ただ、何かしらの術を、シオンが無意識に使い、その結果、
シオンとは別人格の存在がシオンの魂に寄生したと認識したのみ。
そして、その寄生した魂の方へ竜の力が移動しているのに気付き、
利用できると考えたため、報告もせず、放置した。
また、ゲームでは、シオンがナールをアースランドに留めるよう、
マグナにシオンと引き離されたナールがその話術を巧に使い、誘導する。
だが、ナールは誕生祭の時点で、
シオンが別人である事に気付いていたため、何も言わず、ウードランドへ帰った。
それは、ストレスに晒され続けると、魂がその事でも弱り、
一層、竜の力に屈しやすくなることを、シオンを見守っている中、
ナールは知っていたから。
慣れない環境下で、苦労するだろう紫音を放置し、
なるべく早く、望む状態まで持って行こうとナールは考えた。




