悲しき決意_6
必死に探したのだろう。
憎き敵の、しかも、
自業自得と言える行いで贄となるウードランド王家の者のために
術者から事の顛末を聞いたバジルクは必死に探したのだ。
僅かでもシオンが生き残る可能性を・・・・・・
それを何の義理もない私に使え、とわざわざ教えてくれているんだ。
それが万に一つ、いや、億に一つの可能性でしかなくとも、
せめて、生き残る術を、抗える何かを残そうと、
バジルクたちリョク一族は探し求めてくれたのだろう。
なんて、心優しい人たちなんだろう。
よく考えれば、ウードランド全土を焦土に変える事を厭わなければ、
ウードランドの多くの民を蹂躙する事を躊躇わず、王城に攻め込めば、
術に長けた伍竜家のリョク一族が竜玉を奪い返すのは可能なはずだ。
散り散りになっていた頃ならともかく、
バジルクの元一丸となった彼らなら、なおさら。
それでも、彼らは、バジルクはそれをしなかった。
最後まで、最小の犠牲で竜玉を取り戻す手段を選んだ。
彼らは創世の竜が残したこの世界を愛しているが故に、
どれほどの理不尽に見舞われても、
己の力に酔い、残忍な復讐者となる事無く、踏み止まれるのだ。
私は思わずふわりと笑う。
そんな私にバジルクは驚いた様子で目を見開いた。
「なら、感謝するわ。
前世の私は親にすら捨てられた孤児。
そのまま、ただ1人、朽ちて死ぬだけの存在だった。
でも、この世界にシオンが連れてきてくれたから、知ったのよ。
護られる事の喜びと暖かさ、そして、怖さを。
だから、護る事の本当の意味を考え、分かるようになった。
後、家族というには遠いけど、
でも、慈しまれるくすぐったさや煩わしさも知ったわ。
それに、仲間も得たのよ。
同じ未来へ向かって歩ける、そんな心強い仲間」
何より、と私は目を閉じ、ある人の顔をそっと思い描く。
「愛する事を、その喜びと辛さを私はこの世界で学んだわ」
パチリと目を開けると、
苦しいと言わんばかりに顔を歪めたバジルクがそこに立っていた。
私は彼の心が少しでも安らぐように、優しく、精一杯の気持ちを込めて微笑む。
「だからね、たくさん、たくさん、感謝するわ。
シオンに、
私にいろんな事を教えてくれた人々に、私にこの時間をくれたこの世界に、
そして、真実を包み隠さず教えてくれた貴方に・・・・・・」
なぜ自分まで、と問うような顔をするバジルクに私は微笑む。
「私はね、貴方のお蔭でようやくシオンに対する罪悪感を捨てられたの。
奪ってしまったのか、と・・・・・・
死ぬ間際、もしかしたら、どうしょうもなく苦しくて、
もっと時間が欲しい、と、こんなの嫌だ、と足掻いて、
私は彼女の人生を奪い取ってしまったのかとずっと思っていたの。
そうじゃない、と分って、私はようやく救われた」
ありがとう、と告げると、バジルクは
ふーふー、と荒い息を吐き出し、必死に感情を押し殺しているようだった。
だからね、と私はもう満足なのだと伝えたかった。
「喜びを、祈りを、感謝を、安らぎを、暖かさを、私はこの胸に輝かせて逝くわ」
その代わり、と私は己の魂を滾らせ、この世界に宣言する。
「必ず、シオンの魂を護って見せる」
そんな私を見ているのが限界だったのか、バジルクは背を向ける。
そして、ぼやくように呟いた。
「・・・・・・あんたは馬鹿だ・・・・・・」
そう呟いた後、私の返事を待つことなく、歩き出す。
私ももう、彼に言うべき言葉も聞くべき事もなかった。
でも、ボス部屋を出る時、バジルクは言う。
「欲しいモノがあれば、言ってくれ。
何でもとは言えないが、出来る限り揃える。
・・・・・・・・・・・・・・儀式は明後日だ・・・・・・・・・・・・」




