サークリット_2
ムッと押し黙ったサークリットに、はぁと溜息をつくアドリアン。
頭が回り、国を、民を大切に想う故に、
次期王として、自分を律し過ぎるほど律してきたサークリットは
こと、マリアに関すると、途端に頑なになる。
元婚約者との間に起きた学園在籍中の諍いも、本当に兄らしくなく、
報告を聞いた時は両親と共に大変困惑したものだ。
では、とムジカが一歩前に出る。
「私にあのお方を護る許可を頂きたい。
・・・・・・誰もがあのお方の価値を認めず、貶めるというならば、
私があのお方を守る盾に、あのお方の望む道を切り開く剣となりましょう」
おまっ、とアドリアンが心底驚く。
「義姉上に忠誠を捧げる気かっ?!!」
はい、とムジカは迷いなく頷く。
ムジカはダイチ部族というアースランドの神山に住む部族の者。
しかも、ムジカは代々族長を務める血族の1人で現族長の3男だ。
ダイチ族の者たちは龍の血を受け継ぐと言われる族長の血筋を何より尊ぶ。
そもそも、創世の5竜(天竜、地竜、火竜、緑竜、水竜)によって、
この世界は創られたとされている。
その創世の5竜に加護を貰った者が起こした国が5大大国。
ちなみに、アースランドは地竜、ウードランドは緑竜が加護を与えた国。
そして、創世の竜の血を継ぐ一族を伍竜家と呼び、ダイチ一族もその一つ。
だから、伍竜家はその成り立ちから、国を含め、
ありとあらゆる権力から独立した存在として認められている。
よって、ダイチ部族は何にも囚われない存在だ。
彼らは地竜がかつて住処にしていた神山を自治区にしており、
その神山のあるアースランド王家に力を貸すが、忠誠は誓わない。
その忠誠は彼ら一人一人が預ける者を選び、決める。
そして、ダイチ族の戦士は生涯、誰にも忠誠を預けずに終わる者がほとんどだ。
況や、族長の血筋の者に忠誠を捧げられる者など英雄か、聖女か・・・・・・
これにはさすがのサークリットもアドリアンと2人して
唖然とした表情を露わにし、掛けるべき言葉さえ失った様子を見せる。
そんな彼らの驚愕を無視して、
ザクッと控えていた近衛の中からダイチ族の者が前に出て、願い出る。
「我らにも、ムジカ様と同じ権利を頂きたく存じます」
うそだろ、とアドリアンの情けない声が執務室に零れた。




