深淵を覗く者_2(※他視点)
サークリットは竜神と友好を築いたと言われる始祖再来と持ち上げられ、
今までタロを次期王と呼んでいた者たちが挙って、
サークリットを次期王と呼び始めた。
このままでは、自分と同じ目にタロが・・・・・・、と王兄は思いつめた。
そして、思い余った王兄はサークリットの命を奪う事に決めたのだ。
タロを可愛がる次いでに、
産まれてきた頃から可愛がった甥っ子サークリットが憎い訳じゃない。
それでも、どうしても、許せなかったのだ。
また、奪われる事が・・・・・・
エリーゼを丸め込み、王家の森へ遠駆けに出かけ、そこで事故に見せかけ、
サークリットの命を奪うつもりだった。
だが、王兄の企みに聡い故に勘付いてしまったタロは
遠駆けに行く途中、王兄に気付かれないように国王に鷹便で助けを求めた。
それがタロにとって実の両親を失う結果になるとは気付かずに、
ただ、弟を護りたい一心で、タロは企みを暴いた。
その日まで知らなかったのだ。
まさか、自分の本当の父親が王兄であるなんて・・・・・・
そうして暴かれた罪。
タロのお蔭でサークリットは救われ、大事になる前に事は片付いた。
それでも、国王は迷っていた。
王兄を、エリーゼを、何より、タロを失う未来を・・・・・・
もし、王兄をその罪で捌けば、全ての秘密が白日に晒され、
エリーゼはもちろん、不義の子であるタロもまたただでは済まない。
きっと、連座で処刑されるだろう。
神殿の審議の間は偽りを許さない。
そして、王族の罪は審議の間で必ず行われるのだ。
何より・・・・・・
エリーゼの腹の中には既に王兄の子が宿っていた。
それが分かったのは数日前。
エリーゼに口止めされた老侍医がわざわざ国王に報告に来た。
老侍医もまた真実を知る1人。
だからこそ、思いつめたエリーゼの様子に
老侍医は嫌な予感が拭えなかったのだ。
また、落馬を狙って飲まされた痺れ薬が抜けきらないサークリットが
事実を全て受け止めた上で、兄であるタロの助命を強く強く願った。
タロを兄と慕い、控え目な振る舞いで、己を次代にと言う声から兄を護ろうと
常日頃から自分の言動に幼いながらも気を付けていたサークリットの
悲痛な程強い願いに、初めての口にする我儘に国王は揺れた。
迷い、苦しみ、悩み抜いて、国王は王妃に頭を下げた。
真実を闇に葬らせてくれ、と・・・・・・
それは、公ではなく、私を優先した結果。
公の同志である王妃に対する裏切り。
そして、何より、王妃との実の子が命の危機に晒されてもなお
愛するエリーゼとその息子を護りたいという傲慢で、厚顔無恥な男の願い。
それでも、王妃はただ頷いた。




