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運命記録  作者: 赤蛸
序章『とある男の講演』
1/4

ある男の半生

ある男の講演にて

~中略~

私は世界で初めて0から人を造るという偉業を成し遂げたいと願い、実験を続けて、ついに、ついに人のDNAを持ち要らずに卵細胞の形成に成功した。

「お前は私の子になるのだ。」

それが卵細胞を冷凍した試験管の前での私の口癖だった。

他の研究員には気持ち悪がられたが、どうしてもこれだけはやめられない。

長年かけて造り上げたこの試験管の中身が我らと同じ人になるのだと考えたら感動で涙が止まらなくなりそうである。

もちろん卵子の再現実験は行われているが新しく卵細胞が形成されようが、それで私の子への愛は変わりようがない。

0から人を造る。という実験は、私が発案し、プレゼンをして、人を集めることにより、始動した。最初は費用が足りず、考えた理論の討論ばかり繰り返し、案をまとめて、作業をするとしたらこのような形になると大まかにまとめるだけの、いうなれば、大学時代のサークルのようなものである。

10年前のことだ。私が齢35を迎えた頃である。そんな、机上の空論に投資を決めてくれた方がいた。名をイルヴィーと言う。

イルヴィー殿が私への投資を決めたのは、私の論文を読んだかららしい。らしい、というのも研究員の誰かがイルヴィー殿からそのように聞いたと酒の席で洩らしたからである。

さて、私の論文と言うのは恐らく、『神の存在の科学的、生物的な肯定法』のことであろう。私が注目したのは、神がアダムとイヴを産み出したと言う点である。聖書によると、人は、神によって造られた存在なのである。また、神が人を造ったと書かれた神話は数多く残っていた。

私は、人を生物の遺伝子を用いずに造ることにより、神が行った奇跡の一部を再現し、神の実在を証明したかったのである。その事について書いたのが『神の存在の科学的、生物的な肯定法』である。

科学、化学、生物学それらとは少し踏み外した神学。

私の専攻は生物学であったが神学にも手を伸ばした。いや、神学というより神という存在が知りたかっただけなのかもしれない。

神という存在を知りたかった私は、神などという存在を私は信じたくはなかった。教会の神父は笑っていた。懺悔室から信徒が去った後に。私が知っている神に近しい役割を担うものは総じて俗物であった。

人が神と対話できるなどありえないことなのだ。聖書に書かれたアダムとイヴが道を間違えたとき、我らは神の庇護下から追放されたのだから。

神が見捨てたはずの我らのことなど、堕落を極めつつある我らのことなど見てくださるはずもない。であるならば、神父の言う神など、我らを見てくれているという神など存在しないのではないのだろうか。

だが、神について否定的な私とて神のすべてを否定する気はない。神はいたのかもしれない。神話は事実かもしれない。ならば神の為した軌跡、奇跡を模倣すればもしかしたら神の考えの1%でも理解できるかもしれない。

創造の7日間、私は、始まりの3日のうち、光の創造、天の創造、大地と海の創造は今のところ不可能であると結論付けた。地に植物を生えさせたというのは植物の種を植えれば成し遂げられる簡単なものだ。4日目の太陽と月と星の創造も不可能であろう。5,6日の魚、鳥、獣、家畜、そして、神を模した人の創造。私は、人が、神を模して人を作ったのならば、その作られた人が人をさらに模倣したら、劣化するか、神に近づけるのではないかと考えた。

人を模した存在を作り出せば、神などいなくても人は創造できると証明できる。考古学や生物学がすでに進化論的見解で神の創造の7日を否定しているが、それが確実であるなどと言い切れるはずがない。なぜならば生物学は新たなる発見によって今までの常識が簡単に覆される学問だからである。

はるか遠くにあるという始まりの光は神が創った光が何億、何兆光年遠くまで離れただけかもしれない。地に埋もれた化石は神が創造した生物の失敗作を埋めただけかもしれない。地層はその失敗作を埋めるために新たに土をかぶせただけかもしれない。

『神の存在の科学的、生物的な肯定法』は上記のようなことをまとめた論文である

話が遠回りをしているような気がするが私のさがであるということで笑って許してもらいたい。

さて、イルヴィー殿についての話はまた機会があったら行うことにしよう。イルヴィー殿が投資を決断してくれたところから我が生涯の続きをお聞かせしよう。

 35を迎えたころにこの論文を読んだイルヴィー殿が我々に億を超える大金を投資してくれたのである。

 私は始めてイルヴィー殿に会った時のことを忘れないだろう。何しろ彼女は私の理想の女性そのものだったのだから。

いけないな、イルヴィー殿については後に話すと言ったのに。

資金を調達できてから私は毎日のように実験や、分析、研究員達と討論を続けた。あの頃は一番楽しかった。日々の積み重ねで目標に近づけてる気がして心が踊ったものだ。

そして、冒頭で話したように、卵子の作成に成功したのだ。実験の過程については、これから出すであろう我が論文『生命の創造と探究』を読んでもらいたい。細かい過程を除き、我々の研究の殆どが載っている。

さて、そろそろ良い時間であろう。今回の我が講演のご静聴感謝する。私に直接質問があるのなら研究所に来てくれたまえ、時間があればじっくりと我が子についてお聞かせしよう。

この2000文字余りで序章は終わりです。

序章は短く纏めたつもりなのですが、本編は長めの短編だと思って読んでいただけたら幸いです。


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