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華狼館の野菜は何印?

 さて、これが俺の最初の異世界訪問の話しだ。あの後、スーパーで半額になっていたオムライスやヤキソバをお土産に持って帰ったら、ユイが感激のあまりゴロゴロ転がっていたのは良い思い出だ。


「ヤマギさんに胃袋掴まれた! なにこれすごいよ! おいしいよ! 斬新だよ! ねぇねぇ、またもらっていい!?」

「いや、お前はまだ本物のオムライスも野菜も食べていない」

「な、なんだって!?」

「明日まで待ってろ。俺が本物のオムライスを食わせてやる」

「待ってる! 超待ってる! 全力でお腹空かせて待ってる!」


 なんてやりとりがあった。正直調子に乗りまくるほど楽しんでいた。


 ちなみにその後日談に当たるのだが、恐るべき事にユイは一度食べただけで材料を全て書き出していた。


 そのおかげで今や華狼館のメニューは爆発的に増えている。

 もともとあった和食だけでなく、俺の作る洋食や中華なども完璧に再現していた。


 おかげで、最近は材料だけ買って作って貰うことの方が多くなっている。

 今日の夕飯もユイが作ると言ってやたら張り切っていた。


 そんな彼女が何を作るのか気になって、俺は風呂上がりにそんな彼女の仕事場である厨房を尋ねてみる。


 厨房にはもちろんガスコンロなんて便利な物は無く、レンガで出来た暖炉みたいな物がコンロで、電子レンジやオーブンのかわりに石窯が備え付けられていた。


 火の調整が出来る訳もなく、鍋やフライパンを置く場所で熱を調整する必要がある古い設備だ。

 

 さすがに異世界と言った設備で、キッチン周りは日本の方がはるかに便利だ。


 そして、当のユイはちょうどタマネギをみじん切りにしているところだった。

 ちなみにタマネギは普通に食べるそうで、犬みたいな中毒は起こさないらしい。身体のつくりは人間とほぼ同じらしい。


「おろろ? ヤマミン師匠がここに来るとなるとつまみぐいかな?」

「一度もしたことねぇよ。今や普通にお客さんいるんだから」


「ニシシ、言い間違えた。おつまみかな? いやー、似てるから間違えちった」

「わざとだ」


「わざとじゃないよ。遊んでるんだよ」

「余計タチ悪いっての」


「えー、だって、こうやって遊ばないとヤマノン師匠すぐどっかフラッと行っちゃうじゃん。お料理の話しもっと聞きたいのに」

「……お前の料理してる野菜の面倒見にいってるんだけどなぁ」


 温泉でのんびりしながら俺は時折裏山の畑と田んぼに出向いて、土いじりや野菜作りを始めていた。


 この世界の温泉が星の生み出す魔力で作られているからなのか、魔力が溜まりやすいこの地域で作る野菜はやけに生育が良かった。


 それに自分で作ってるからか何か愛着が湧いてきて、普通に買ってきたものより美味い気がしたんだ。


「そうかー。このお野菜はヤマタンの愛情たっぷりなお野菜かー。質が良いわけだよ。お客さんからも評判だよ」

「ふふん、まぁ、そうなるな。雑草抜いたり、畝作ったり、イネ藁で土を覆って保温したりしたからな。手間かけてるぜ」


 ネットで勉強した知識を実践してみたら、びっくりするぐらい良く育った。

 種を植えて葉物なら一週間くらいで収穫出来る。さすが魔法の世界だ。


「せっかくだから、収穫した野菜にヤマヤマ印つけとく? キスマークつけちゃう? 畑に口紅持ってっちゃう?」

「何故キスマーク?」


「収穫後にあたいが間接キスする時の目印になるから! きゃー、嬉し恥ずかしだね、ドキドキだね! ぺろぺろだね! 愛情の調味料だね! 略して愛の味だよ!」

「……丁重に遠慮します」


 冗談だとは分かりつつも、何か想像すると嫌だよ! 好きな子のリコーダーぺろぺろするのと何か近い恐怖を感じるぜ!?


 あぁ、でもこの子達は犬っぽいしなぁ。犬って人の顔を良くぺろぺろなめ回すっけ。その感覚なのか?


「なら、そうだ。良いこと思いついたよ! 閃いちゃったよ! 天才的だよ! 発明女王になれちゃうよ?」

「嫌な予感しかしねぇよ……」


「ヤママヤのスプーンにあたいのキスマークをつけておくの。そうすれば、ヤママヤがあたいと間接ぺろぺろ出来るよ。なんて素晴らしい逆転の発想!」

「やめろ! 俺を変態に巻き込むな! しかも間接キスよりも上級者向けかよ!」


「むー、ダメだったかー……」


 かなり慣れてきたつもりだったが、この子のアホの子っぷりは磨きがどんどんかかっている気がしてならない。


「ま、お喋りが楽しかったからいっか。はい、ヤマギさん。味見してよ。多分この前飲んだ味に近いと思うよ」

「ん、あぁ、分かった」


 不意に正確な名前で呼ばれて素に戻された。ユイがこうなった時は多分真剣な時だ。


 基本アホなんだけど、鼻と舌がすごいのか、真剣な時の料理だけはバカに出来ない。


 味見用に出された小皿に入った黄色いスープを口に含んでみると、 繊維感は全く感じられない滑らかな舌触りを感じる。次にミルクの甘い香りが鼻を通り、とろっとしたトウモロコシの甘さが口の中に広がった。


 一週間前に一度飲んだだけのコーンスープを、レシピも見ずに自分の鼻と舌の感覚だけを信じてコピーした上に、改良してくる。

 もはやレトルトでは太刀打ち出来ないおいしさになっていた。


 アホなことを喋り続けるくせに、料理は驚くほどに上手い。他の準備をしつつ、お喋りをしつつ、物を完成させている要領の良さもある。


「うまっ……相変わらず凄いな」

「うまいっしょー? すごいっしょー? ほっぺがとろけるっしょー?」


「うん。俺の野菜のおかげだな!」

「ひどっ!? ちょっとー! あたいの腕はどうなのさー!」


 軽い冗談だったが、ユイにとってはプライドを傷つけたらしく、珍しく頬を膨らませて、耳をぱたぱたさせ、尻尾をピンと伸ばしながら本気で怒ってる。


「いや、本当にすごいと思うよ。冗談抜きで。俺の野菜をここまで美味しくさらに仕上げてくれるんだから、大したもんだよ」

「ふふーん。もっと褒めても良いのよ? 頼って良いのよ? 任せてくれちゃって良いのよ?」


「ったく、そうやってすぐ調子に乗るから、ヒビキに無視されるんだっての」

「ガーン! そうだったの!?」


 尻尾と耳がしゅんとなった辺り本当にショックを受けているみたいだ。

 だが、すぐに尻尾と耳は立ち直る。


「まっ、いっか」

「いいんだ……」


「いいよ。ヒビキがちゃんとあたいの作ったご飯を食べて、元気に暮らせるのなら、それであたいは幸せだよ。鼻高はなたかだよ。世のため人のためだよ」


 この立ち直りの速さだけは見習っても良いのかも知れない。

 また、そんな所が魅力的な子でもある。


「フフフ、それにヤマピンでも見抜けなかったあたいの発明力はさすがだよ!」

「へ? 何かやったっけ?」


「ヤマピョンの口つけた皿は受け取ったよ! ぺろぺろしとくー? それともちゅっちゅしとくー? 両方いっちゃって間接ディープしとくー?」


 ユイが俺の返した小皿を大事そうに両手で頭の上に掲げた。


「まさかお前俺の使った皿を全部!?」

「ニシシ、冗談だよー冗談。あー、楽しかった。畑ありがとうねヤマキさん!」


 本当に予想がつかない子だ。

 さて、前置きはこの辺に、こんなアホの子が作る畑の話をしよう。


 俺が魔法を覚え、畑を手伝い始めた理由にも繋がる、華狼館の畑の話しだ。

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