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足湯建設と伝説の必殺技

 さて、足湯を作ると言ったは良い物の、最大の問題は誰が工事をするかって話しなんだけどな。


「それじゃ、さくっと作るから、二人とも下がって」

「へ? ヒビキちゃん今なんて?」


「ヒビキがサクッと作る。さっき見た作りなら、パパッと出来る」

「え、さすがに簡単な作りとは言っても、そんなヒビキちゃんみたいな子が簡単に作れる訳が――って行っちゃったよ」


 ヒビキが山の方へと一目散に駆け抜けていった。少なくとも十歳ちょっとの女の子が作れる物では無いだろう。


 というかなんで山の中に?


 足湯だぞ? 屋根付きだぞ? 木造建築だぞ? って、ユイと一緒にいすぎて頭がアホになっているだけで、実は普通のことなのか?


「ねぇ、ヤマニャン。何か失礼なこと考えてない?」

「気のせいだにゃん」


「ヤマギさんが動揺してる!?」

「ユイが素になるほど驚いた!?」


「で、何考えてたの?」

「スルーされた!? ……まぁ、いいや。正直に言えば、ヒビキの言葉が信じられなくて。これをサクッと作れるってのはなぁ」


「できるよ? 多分、三分くらいで」

「はぁ?」


 冗談だろ? 数週間はかかる工事だろ?

 それをたったの三分? 三分クッキングみたいに既に寝かしたものがこちらにとか、焼いたやつがこちらにとかみたいに、既に組み上がった物がこちらに。じゃないんだろ?

 秀吉の一夜城レベルで驚くぞ?


 ユイの真意を測りかねていると森の中から何か巨大な物がこっちに動いてきていた。


「ほら、ヒビキが戻ってきた」

「へ? うおっ!? 樹! 樹! ヒビキちゃん危ないっ!」


「結構大きいの持ってきたねぇ。大きいねぇ。でっかいねぇ。立派だねぇ」


 しみじみ言ってるけど、結構大きいってレベルじゃねぇぞ!

 十メートルは超えている樹が走ってくるヒビキの後ろについて浮いている。

 倒れる気配などなく樹がフワフワと浮かんだまま、ヒビキが俺達のもとに到着した。


「ヒビキちゃんこれどういうこと!?」

「んー……魔法?」


「ほうっ!」

「便利」


「おうっ!?」

「お兄さん、多分理解出来てない?」


「うん……」


 いや、魔法と一言で片付けられても困るよ。だって、丸太ってレベルじゃないんだぜ。樹丸ごと持ってきてるんだぞ。人はトラックとか船じゃねぇんだから。


「物を浮かべる浮く魔法。ヒビキもこの魔法つかって、屋根とかに登ってる」

「あぁっ! 何かいっつも高い所から落ちてくると思ったら!」


「うん。降りるときも着地前に使ってる。その魔法を樹に使った。ほら、ここにヒビキの手形ついてる」


 ヒビキが指さした所を見てみると、確かに小さな手形がついていた。

 その手形がぼんやりと光って見える。きっとその光が魔法の証なのだろう。


「とりあえず、降ろす」


 ヒビキがそう言うと、巨大な樹はお辞儀をするかのようにゆっくり横になり、倒れた。


「何となく想像ついたんだけど、もしかして、今からヒビキがこの樹を切り出すのか?」

「ん。その通り」


「えっと、切り分ける魔法的な?」

「かまいたち」


「あぁ、なるほど。風の魔法か」

「さすがお兄さん。賢い」


 ヒビキがぐっと親指を立てて俺を讃える。尻尾も丸を描いている。

 そのポーズにはまっているのかな。かわいいから良いけど。


「お兄さんもやってみる?」

「へ? 俺も出来るのか?」


「多分。樹に手を当てて」

「お、おう。魔法か。なんかドキドキするな」


 ヒビキの小さな手が俺の手に重なり、樹に触れさせられた。


「樹を真っ二つにするつもりで」

「うん」


「好きにする」

「うん!?」


 好きにする!? 相変わらずの変化球使いだぜヒビキちゃん!


「どういうこと?」

「結果を想像する。その結果を達成するのに一番相応しいことをすれば良い」


「えーっと、樹を真っ二つにするのなら、どうすれば良いかを考えて、その考えたことをやれば良いってこと?」

「うん。さすがお兄さん。飲み込みが良い」


 手は重なっているから、尻尾だけで丸を作っている。

 やれやれ、こんなに期待されちゃ断る訳にはいかないか。


 真っ二つと言ったらやっぱり切るって感じかな。


「ヒビキちゃん。ちょっと後ろに下がろう」

「ん。想像出来た?」


「うん。やってみようと思うよ。ただ、その前にそこそこの木の枝をっと」


 ほどよい長さの枝を折って手に持ってみる。

 真っ直ぐな良い枝だ。道で落ちていたら、きっと子供にとっての伝説の剣になるな。


「さて、いっちょやりますかっ!」


 伝説の剣を握ったらやることは一つ。

 逆手に握って、思いっきり前に振り抜く、大地と海と空を切り裂くあの技!

 蘇れ! 剣代わりに傘を振った修行の時代を!


「必殺! アバンスラッシュ!」


 子供の頃に憧れた竜の勇者の必殺技!

 スパーン! という音が枝を樹にぶつけた時に鳴るが――。


「……あれ?」


 思いっきり振り抜いたのに樹の方に反応がないぞ?

 失敗した? え? もしかして、盛大に赤っ恥をかいた?

 それとも俺はまだ三種の剣を習得出来ていなかったのか!?


「えっと、ヒビキちゃん。俺もしかして失敗した?」

「綺麗にやりすぎた」


「え?」

「ほら」


 ヒビキが樹をちょんと押すと、ど真ん中から樹が滑って、真っ二つになった。


「切れ味良すぎて、そのままになった。さすがお兄さん。魔法使えるし、上手」


 またもやグッと指を立てたヒビキが俺を讃える。

 にしても、やれば出来るものなんだなぁ。子供の頃傘でよくやっていたけど、まさかこの年で成功させるなんて。

 これなら他の必殺技とか再現し放題!?


「ヤマヤマすげー! いいなぁ。あたいは魔法の才能ないからなぁ」

「ふふふ、小さい頃は毎日練習してたからな。よく友達と傘を振り回して修行したものさ。でも、ユイはユイでこの畑をやるのはすごいさ」


「ふふーん。でしょー? 畑を教えてあげても良いんだよー?」

「お、なら、頼んじゃおうかな」


 調子に乗って軽いノリで頼んでしまったが、土いじりというのも面白そうだ。

 それに足湯が出来れば土いじりのついでに、最高の景色を眺めながらまったり出来る。


 何作ろうか。タネとか持ち込んで、色々作ってみるか? それとも、ここにしかない珍しい野菜を作って楽しむか。


 考えてみたらオラ楽しくなってきたぞ。


「それじゃ、後はヒビキがやるよ」

「おっと、そうだった。まずはそれからだった。俺も手伝うよ。どうやって切れば良いか教えてくれ」


「ん。ありがと」


 そうこうして樹の枝の剣ですぱすぱと樹を切り取り、切り取られた樹の枠をヒビキが次々に空中合体させ、あっという間に足湯コーナーは完成した。

 いや、本当にびっくりするぐらい早かった。

 プラモデルでも組んでるみたいに、パーツが面白いようにはまっていったからな。


 で、一仕事終えたら、やることは一つだろ。


「一仕事終えた後のお風呂は気持ち良いねぇ。最高だねぇ。贅沢だねぇ」

「ユイ、何もしてない」

「したさー。応援してた。さすがあたいの自慢の妹、かわいいねぇ、立派だねぇ、頼れるねぇ」


 足湯に入りながらゆったりするはずが――。何故か姉妹の百合シーンを眺めることになってる。足湯場は建てたけど、キマシタワーは建ててないぞ。


「ユイ、やめっ……きゃぅ……ふぁ……」


 ユイがヒビキの耳に甘噛みし、くすぐったそうに耐えるヒビキがユイの尻尾を掴んでいる。その仕返しと言わんばかりに、ユイがヒビキの尻尾をもふりはじめた。


 耐えているヒビキの息が荒くなり、頬も真っ赤に染まっていく。

 そして、はだけた浴衣から見える肩までほんのり朱に染まっている。

何か不思議な犯罪集が漂い始めたぞ。


「よいではないかーよいではないかー。口は硬くても尻尾と耳は正直だぞぉ? ほら、身体なんかこんなに火照って」

「ぃっ……ユイッ……うっとう……しい!」


「ガーン!」


 あ、終わった。

 ユイの尻尾が一気にしぼんでしんなりしたかと思うと、その場にへたり込んだ。

 毛がしぼむと指くらいの太さしかなくて、意外と細いんだな。

 拘束を解かれたヒビキが立ち上がり、俺の前に立つと深々と礼をしてきた。


「ヒビキの仕事終わり。帰る。お兄さんありがとう」

「ん?」


「手伝い」

「あぁ、別にいいよ。魔法は面白かったし。何か子供心に戻れて楽しかった」


「それと、温泉。魔力溜まりを中和してる。おかげでユイがまた元気な野菜、作れる」


 顔をあげたヒビキが凹んで丸まっているユイにチラッと視線を向けた。

 同時に尻尾を一度左右に振る。

 うっとうしいと言いながら、妹だな。


 全くそんな可愛いと、もふりたくなってくるじゃないか。

 たまらずヒビキの頭の上に手を置いて左右に撫でてみた。


「どういたしまして。ヒビキちゃん、また新しい風呂が沸いたら言ってくれ」

「うん。ヒビキ、お兄さんのこと頼りにしてる」


 ヒビキの尻尾がゆらゆらと横にゆっくり揺れている。目をつむっているだけで反応が薄いけど、どうやらご機嫌なようだ。

 さてと、となると、そろそろお姉ちゃんの方にも元気になってもらわないとな。

 ちょっとくらい世話焼いてやるか。


「そうだ。ヒビキちゃん帰らずに、俺と一緒に畑で野菜の作り方教えて貰おうよ」

「え? でも、これ、ユイの仕事」


「あー、そっか。なら、俺の遊びの手伝いをしてくれない?」

「……それなら良い」


「ありがと。ヒビキちゃん。おーい、ユイ。いつまでも凹んでないで俺とヒビキに野菜の作り方教えてくれ」


 ユイに声をかけてみると、凹んでいたはずのユイがむくりと立ち上がり、しぼんでいた尻尾がふくれあがった。


「お姉さんに任せなさーい。もっと頼っていいんだよ? ねだっていいんだよ? お願いしていいんだよ?」

「ユイ、うるさい」


「ガーン!」


 こうして、また凹んだユイを励まして、俺は小さな畑と足湯を手に入れた。

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