リフジン
世界は認識された瞬間に存在を始める、物体は認識された瞬間に確率から存在に変わる。
観測者がいるから存在し続ける事ができる。
ならば、この世界を観測している観測者とは『だれ』なのだろうか?
例えば最初の偶然で生命体が発生するまでは誰が観測していたのだろうか?
俗にいう『いるという証拠』も『いないという証拠』もない神様だろうか。
まあ、そんなことはどうでもいいだろう。
ここにいる神様とやらは誰かを異世界に転生させたり転移させたり召喚したりなんてことはしない。
やることはそう、悪戯だ。
自分でもよくやるが、ほかの転生や転移、召喚に干渉して悪戯するのだ。
本来ハーレムいやっほうっ! とか、チート最強ぉぉぉお! とか、そういう方向に行くはずだった人物を、ゾンビだらけのもう死ぬ以外に選択肢がない場所に落としたり、本来最初になぜかもらえるはずだった理解不能な最強都合いい能力とか、そういったものを消したりと。
「さぁ……今日は何にしようか……」
肉体と思考を選んだなら、後は場所を選ぶだけ。
「ハードは人間、ソフトは……そうだな、常識外れに危険な思考パターンを」
窓が開き、そこから見えたのはどこかの屋上。
そしてしっかりとこちらを睨んでいる視線の主である青年。
「!? バカな、こちらに気付いているのか!?」
慌てた神様だったが、すぐに窓の下を大きな鳥が通り過ぎ、それを追って視線が動いたために単なる『偶然』だと分かった。
※
都内某所の屋上。
本来立ち入り禁止のはずのその場所で、皆川零次は見えてはいけない何かを見てしまい、すぐにそれに重なるように鳥が飛んできたため、そちらに視線を移して誤魔化した。
「なんだ今のは……」
見なかったことにする、というのは無理があるだろう。変なものに目をつけられてしまったなあ、そう思いながらも視線を避けるために建物の中へと入っていく。
「光学迷彩機能付きのUAV……な訳はないか。この国その辺は平和ボケしすぎてもレーダー周りはうるさい訳だし」
なんて言って、エレベーターの呼びボタンを押して待っていると、妙な感覚に襲われた。
「風の流れが……消えた?」
不審に思って振り返り、ドアの方へ向かおうとすると見えない壁に遮られた。そこから波紋が広がり、水面を動く波のように端まで行くと、さらにそこから広がって、あっという間に壁の向こう側が見えなくなっていく。
モザイク処理を施したかのように、ぼやけた壁の向こう側が白に染まっていく。
だんだんと波紋が収まってくると、一切のノイズのない白一面の世界が見えてくる。
「…………」
零次が腕を伸ばすと、まだシリコンのような感触を返す見えない壁はしっかりと存在していた。
ただし、今度は波紋は起きず、外側に二十四種の文字がぐるぐると高速回転しているが。
「ルーン文字か……領土が多いのは場の隔離のため、か?」
ぐるぐる、足元から周囲を回りながら上がっていった文字は、一定の高さでふっと消えた。
瞬間、肌を切り裂くような冷気が吹き荒れる。
「あー…………どこの雪山だここは? エベレストとかそういうふざけたところじゃなさそうな訳だが」
見下ろして、雰囲気的に人が来るような場所じゃないと判断を下す。
「ふむ……瞬間移動的なアレか」
まるで慣れていることのように言い、すぐに下山を開始した。
二時間と五十八分後。
山の天候はすぐに崩れやすい。猛吹雪の中で動くものは何もなく、どんどん雪が積もっていく。
「雪は冷たい、なんて誰が言ったか。こうして掘って固めれば冷蔵庫の中ほどには温かい」
つまり冷たい。
だが外は冷蔵庫ではなく冷凍庫の中よりも冷たい場所だ。外よりはここにいる方が安全である。
雪を掘って避難場所を作るのには十五分もかかってしまった。
「まったく……雪上戦の演習に行って遭難したときから久しぶりだってのに……体は方法を覚えているもんだよ」
本州の北の方にある138付近の52とかいう場所でふざけてエリア外に出て、たまたまその年は天気が悪くて……、とかスキーの練習(ボードはできる)で某道の343付近にあるところでコースアウトして一夜を外で過ごしたりなど。
そういう経験でこういうことを学んでいる。
「…………はぁまったく」
訳の分からないものに目をつけられたものだ。
思いながら、翌日晴れている間に下山していった。
空から様子を見ていた神は、面白くないと次なる悪戯を試みた。