腕を組んだ男が待っている
「取引しないか? ……そう警戒しないで欲しい。三人にとってとても良いことだし、多分君達には俺の力が必要になるはずだ」
町の門に着く頃には薄暗くなってしまって、それは刻々と深まっていた。翔と哲は門の前で待ち伏せていたツンデレ男に呼ばれ今に至る。
「話を聞きましょう。ですが、貴方がこちらに来て頂けますか?」
二人とツンデレ男の間は取引をするにはとても、良く離れていて、翔は男の仕草を、後ろの門付近を、町の壁を良く見ていた。このエルフの目はとても見えるようだ。
男は理解して手を頭の横まで上げて、ゆっくり歩き始めた。
「哲」
哲が、ん? と目を向ける。
「もし、もしもだけどな、いきなり矢か、魔法が飛んでくるかもしれない。町の方や、あの二つの高台、周囲を注意しておいて欲しいんだ。はじめたばかりでこんな事を頼むのは気が引けるけど、お願い出来ないか?」
哲はあっさり頷く、「もし飛んできたら?」「落とすか助けて欲しい。そのためなら何をしても良いよ。もしかすると命が掛かってるかもしれないからな」
翔は命が掛かっているの部分で笑って見せた。哲に、俺を殺すなよ、と冗談めかしても言っておいた。そしてこれはツンデレ男にも聞こえるように言っていた。どうせお互い了承済みなのだ、聞かれたって構いはしない。ただ、男に集中はもちろんだが、哲にも注意をしておいた。通行証は翔が今持っているので、めったな事は起こらないと思われたが、一応のつもりだ。
「それで……取引って何ですか?」
目の前、しかし切りかかるには、ほんの少し遠い間合いで翔は聞いた。
「君達が戻ってきたと言う事は、この町に用事が有るんだろう? だが、騒ぎを起こした。俺とな。それを無かった事にして、町に入れても良いって話だ」
変な話だった。取引と言うのに、翔と哲、二人に得しかない。疑問を持ったが、話をうながす。
「そう、賢い君が思ってる通り、これには条件がある。だがそれは簡単な慎重さがあれば出来る事で、その慎重さを君達はすでに持っている」
「それはどうも、ありがとうございます」
「俺は今、警備隊とは別に町の長に雇われていて……これがどう言う事か分かるだろう? とても重要な事だ、名誉な事だな」
今から明かされる条件は事がとても大きいのだろうか? 翔には拒否をしたら町の権力者を敵に回すぞと言う、脅しの可能性を考えた。
「だが、今回の君達との問題がおおやけになれば、その名誉に腐った卵をぶつける事になる。それは町の長にぶつけるのと一緒だ。人には立場が有るもんだし、それは特に理由が無いならそっとしてやるのがすじってもんだろう。そこでだ、君達との問題はたまたまお互いがすれ違っただけの事で、話を大きくする必要は無い。無かった事にしようじゃないか。俺達は忘れる、君達は今回の事は誰にも話さない。みんなが良い気持ちで明日を生きれる良い提案だと思うが、どうだ?」
悪く無い話だった。恐らく向こうに黙っていて欲しい何かが有って、これはイベントの選択肢の一つなのだろう。ゲームから脱出するのが目的の二人からすればどうでも良いことである。
「こちらに問題が無ければ飲みますよ。その条件」
そう言った時、ツンデレ男の雰囲気が少し柔らかくなって、慎重に「渡したい物が有るんだが」と翔に声をかけた。「ゆっくり投げてもらえます?」と返した後で、哲が飛んでいる物を抜き取り、手のひらを翔に開く。二つの木の板、またしても通行証である。
「それを持って、町に入ってすぐ右に有る宿に行ってくれ、町に居る限り泊まれるようにしておいた」
翔が男の顔をうかがう。男は下ろしていた腕をまた上げ、「ただの親切さ」と笑った。目のつく場所に居ろと言う事なのだろう。翔は礼を言った。
「哲行くぞ」
翔は歩き出す。哲が追ってくるのを感じながら、最後に男に向かってこう言った。
「ああ、そう、先ほどの条件ですが、何か事件があったら思い出してしまうかもしれません。この町でこれから何か起きてしまったらね。善良な人間としては驚きと不安に生活がかき乱されてしまうと、無くした物が見つかる事も有るものです」
男はこう返した。
「では、もし見つけた物がかかえ切れない時は、この町の警護団にご相談下さい。場所は誰に聞いても分かりますので」
哲は二人を交互に見て、見えないクエスチョンマークを揺らすだけだった。